婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

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シュヴァリエ

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 もう一度、リュセをこの手で抱きしめる日が来るなど、思っていなかった──。


「学園の卒業式のプロムナードで、僕のパートナーになってほしいです」


 我儘を言ってごめんなさい、と。
 でも、これだけは譲れないと告げたリュセは、本当に奇跡のような存在だ。

 飛び級をした優秀な生徒であり、首席であり続けたリュセは、学園でも一目置かれている。
 誰も声をかけることが出来ないほどの美貌の持ち主なのだが、美醜の感覚が逆転していると知った今も、全く気にもかけていない。

 そんなリュセの期待に応えたいのに、彼の相手が誰からも見向きされない私で本当に大丈夫なのかと思ってしまう。

 それなのに、無様な姿を見せたくないから、ダンスを一生懸命頑張ります、と。
 だからお願いしますと、必死になっている。
 それも、リュセがかっこいいところを見せたいと思う相手が私なのだから、驚かずにはいられない。

 私を真っ直ぐに見つめる、うっすら濡れた黒い瞳は、誰の目から見ても魅力的だ。
 視線を合わせることに慣れていない状態で、少しはにかんだように上目遣いで見つめられる。
 それも相手は、ずっと密かに想っていた人なのだから、吹きこぼれる喜びを抑えきれない。

 だが……。

「すまない、ダンスを踊ったことがないんだ」
「え? そうなんですか?」

 驚いたように目を瞬かせたリュセに、私はどんな顔をしたらいいのかわからなかった。

 プロムナードは欠席したかったのだが、家督を継ぐ継がない以前に、私はライトニング公爵家の嫡男という立場だ。
 パートナーがいなくても出席しなければならないため、かなり惨めな思いをした。
 だが、そんな日々にも慣れていた。

 当日は、同じように容姿が醜い者たちで集まり、いつものように壁の花になる。
 一人ではなかったことが幸いだったが、その中でも優劣がハッキリしていた。
 表面上は皆私に気を遣っているが、私を見る目は安堵の色を浮かべている。

 『自分たちは、コイツよりマシだ』

 言葉にせずとも伝わって来る。
 胸を抉られるような痛みが走り、慣れているはずなのに、今も相手と目を合わせるのが怖い。

 いつかは知られてしまうことなのだが、隠し通せるものなら、一生知られたくない。
 特に、リュセには……。

 そう思っていたのに、ぱあっと笑みを浮かべたリュセは、やわらかな黒い瞳を輝かせた。

「僕と一緒っ! 練習はしたんですけど、僕もまだ誰とも踊ったことがないんです。シュヴァリエ様の初めての相手になれるなんて、最高……っ!」

 嬉しくて仕方がないように体を弾ませるリュセは、全身で喜びを表現していた。

 リュセなら私を馬鹿にしないと思ってはいたが、私の心をすくいあげてくれるような言葉に、これ以上ないほど胸が熱くなる。

 醜い顔なのだから、人前で泣くことなど一度としてなかったのに、また涙が込み上げて来る。
 そんな情けない私に寄り添ってくれるリュセは、『お揃いの衣装にしたいです』と、可愛いことを言ってくる。

「シュヴァリエ様がお休みの日に、一緒に練習しませんか?」
「っ……ああ、そうしようか」
「やった! でも、足を踏んじゃったらごめんなさいっ。今から謝っておきます」

 えへへと照れたように笑ったリュセは、ダンスが苦手らしい。
 そんな一面も愛らしく思うし、さりげなく次に会う約束を交わすことが出来たことに感動している。

 リュセに恥をかかせないためにも、当日は死ぬ気でリードしなければならない。
 私が表情を引き締めていると、リュセにそっと手を取られた。


「ステップを間違えても、それも思い出になると思います。僕が一番重要視しているのは、晴れの舞台を好きな人と楽しみたい。それだけです」


 私の気持ちを察したのか、リュセの言葉に胸を打たれた。
 実の母親にすら握られたことのない手は、今は柔らかな手に包み込まれて、歓喜に震え続けていた。













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