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リュセ
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しおりを挟む涙を拭った僕は、静かに見守ってくれていたシュヴァリエ様の隣に座る。
僕が当たり前のように隣に座ったことに目を見張るシュヴァリエ様は、ちょっとだけ泣きそうになっていた。
「ふたりの話を聞いて、シュヴァリエ様をより好きになりました。きっとこれからも、もっともっと好きになると思います。出来ることなら、友人になれたら嬉しいと思っていたけど……」
そこまで言って深呼吸をした僕は、大好きな人を見つめる。
「シュヴァリエ様の婚約者に、立候補してもいいですか……?」
ドキドキしながら返事を待っていると、泣くのを堪えるように笑ったシュヴァリエ様が、「ああ」と涙声で答えてくれた。
すっごく幸せそうな表情だ。
僕の気持ちがようやく伝わったんだとわかって、喜びが電流のように全身を通り抜ける。
「さっきは、婚約できなくてもいいと言ったが、撤回させてほしい。情けない男ですまない……。だがこれからは、リュセに相応しい男になれるよう、努力するつもりだ」
「っ、そんな……」
「リュセの気持ちを信じられなくて、悪かった。傷付きたくないからと、逃げてしまったんだ。こんなに真っ直ぐに私を見つめてくれていたのに……」
熱い視線を向けられて、恥ずかしくて顔を隠したくなってしまう。
それでも今は、絶対に目を逸らしちゃダメだ。
「私からも言わせてほしい……」
そう告げたシュヴァリエ様が、僕の方に恐る恐る手を伸ばす。
迷わず手を取ると、緊張していたであろうシュヴァリエ様が、花が咲くように頬を緩ませた。
「私も出逢った日から、ずっとリュセを想っていた。今までは陰から見守っていたが、これからはリュセの隣にいさせてほしい」
「っ、はいっ!!」
嬉しすぎて飛び跳ねてしまった僕は、その勢いでシュヴァリエ様に抱きついていた。
ふれあいに慣れていないであろうシュヴァリエ様には、かなり酷なことをしてしまったと思う。
でも、僕は我慢出来なかった。
歓喜に震える僕の体を、逞しい腕が優しく包み込んでくれる。
ぎこちない手付きなんだけど、それがすごく心地よい……。
「なるべく気を付けるようにはするが、今後もリュセの気持ちを確認してしまうかもしれない。鬱陶しいと思うかもしれないが……」
「その時は、何度だって答えます。シュヴァリエ様が大好きだって……。逆に、シュヴァリエ様が僕を鬱陶しく思ってしまうかもしれませんっ」
「っ、」
温かな腕の中から顔を出す僕は、満面の笑みで答える。
好きの言葉に反応するシュヴァリエ様は、耳たぶまで赤くなっていた。
僕のやることなすことに、いちいち頬を染めているシュヴァリエ様が可愛すぎて、心臓が止まりそうだっ!!
むふふと笑っていると、なぜか今まで蕩けるような笑みを浮かべていたシュヴァリエ様が、ピシリと固まっていた。
どうしたのだろうと不思議に思っていると、潤む碧眼は、固唾を飲んで見守る両親に向けられる。
「悪い……。もう、泣いてもいいか?」
壊れた人形のようにこくこくと激しく頷くふたりを見たシュヴァリエ様が、ふっと笑った。
醜い顔を見せられないからと、片手で目元を隠して涙するシュヴァリエ様。
僕は泣き顔も絶対綺麗だと思ったけど、黙って背中を撫で続けていた。
シュヴァリエ様がなかなか泣き止まかったのは、きっと僕と想いが通じ合ったからという理由だけじゃないと思う。
過去に、どれだけ悲しい経験をしてきたのだろう……。
心の傷を癒すことが出来るかはわからないけど、これからはずっと笑顔でいてほしいと願う僕は、いつまでも寄り添っていた。
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