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リュセ
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しおりを挟む「私たちは商人として、各地を飛び回っていたし、いろんな情報を得ている。だから、異世界人が誰にでも分け隔てなく接する人間だと噂で聞いて知っていたんだ」
はあっと深い溜息を吐いたオースティン父様は、この世の終わりのような顔をしていた。
「もちろんリュセが愛らしい子だったからもあったが、もしかしたら、リュセが醜い容姿の私たちを蔑むような目で見ることはないのかもしれない。そんな期待があったから、どうしてもリュセを引き取りたかった……」
なにを言われたのか、さっぱりわからなかった。
だってオースティン父様は、シュヴァリエ様には勝てないけど、物凄く美形なんだ。
それなのに、自身のことを醜い容姿だと断言したし、この場にいる誰も否定しない。
エルヴィス母様は別として、シュヴァリエ様もそう思っているということは……。
日本とは、美醜の感覚がズレている……?
「っ、父様……」
「~~っ、本当なら私は、リュセに父様と呼ばれる資格なんてないんだっ!」
涙ぐむオースティン父様が、いきなり自分の顔をぶん殴った。
びっくりした僕は急いで立ち上がり、父様の赤くなる頬を撫でる。
「なんでこんなことを……」
「っ、三年前に、現れたのが、リュセじゃなくても……私たちは、引き取りたいと言っていたと、思う……。そんな容姿も心も醜い私たちの子どもにしてしまって、本当にすまない……っ」
ぶんぶんと首を横に振る僕に、ふたりが謝罪の言葉を吐き出し続ける。
「リュセと呼んでいたのも、いつか異世界に戻りたいと言うんじゃないかと怖くなって……。リューセイではなく、いつまでもリュセでいてほしいと、そんな最低なことを考えていた……。手離したくないからと、誰よりも愛しているリュセを苦しめる私たちは、嫌われても仕方がないんだ……っ。本当にすまないっ」
子供のように泣きじゃくる父様を見ている僕も悲しくなって、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。
でも誤解してほしくないと思う僕は、必死に涙を拭った。
「っ、そんなことで、嫌いになるわけなんて、ないっ!!」
僕は、自分でも驚くくらいに大声を出していた。
僕が声を張り上げたことなんてなかったから、ふたりとも驚きすぎて固まっている。
「三年前に現れた迷い人が僕じゃなかったとしても、きっとその人は幸せになっていたと思います。だって、僕がそうだから……。どんな理由であれ、ふたりはとってもいいことをしたんですっ! 僕は、ふたりの子供になれて幸せだと、ずっと思っていました。その気持ちは、今も変わりませんっ」
「っ、リュセッ!! ゔゔああぁぁ~~ッ!!」
大号泣するエルヴィス母様に飛びつかれた僕は、三人して酷い顔で泣いていた。
「もし、ある日突然、僕の美醜の感覚がミラジュー王国の方々と同じになったとしても、僕がふたりを大好きだって気持ちは変わらないと思います。めちゃくちゃブサイクになっても、大好きですっ!」
「っ、リュセ!!」
「それに、僕だって日本ではモブ顔なんだもの」
「………………モブ顔ってなんだ?」
オースティン父様の呟きを無視する僕は、ぎゅうぎゅうと抱きついていた。
そしてふと気付いた。
美醜の感覚が逆転しているということは、僕が世界一美しいと思っているシュヴァリエ様は、ミラジュー王国では、世界一醜い容姿だということだ。
だからあんなに自分に自信がなかったんだと、ようやく気付くことが出来た。
もし知らないままだったら、大好きなシュヴァリエ様のことを、心から理解出来なかったと思う。
話を聞けてよかったと思う僕は、これからはシュヴァリエ様を想う気持ちを、出来る限り口にしていこうと決意した。
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