婚活パーティーで、国一番の美貌の持ち主と両想いだと発覚したのだが、なにかの間違いか?

ぽんちゃん

文字の大きさ
上 下
15 / 100
リュセ

11

しおりを挟む


 流暢に僕の名を呼ぶ声。

 何度練習しても無理だった、と。
 だからリュセと呼びたいと話していたのに……。

 驚きすぎて、僕は目を見開いた。
 そんな僕の反応を見て「大丈夫そう……だな?」と呟いたエルヴィス母様は、ほっと胸を撫で下ろす。

「最初は、もっとバカデカい屋敷に住んでいたんだ。凄い凄いと喜んでくれていたリュセが、階段を見た瞬間に発作を起こしてな。リュセには最上階の一番眺めのいい部屋を用意していたんだが、そのこともあってリュセの部屋を一階に移動させたんだ。それでも、階段が視界に入るだけで気分が悪くなっていたから、今の屋敷に引っ越したんだ」
「っ……そんなことが……っ。僕のせいでっ、ごめんなさいっ」
「いや、全然気にしてない。俺たちがバカデカい屋敷を建てたのには、理由があったからなんだ。別に、テントがあれば野宿だって平気だしな?」

 うんうんと頷くオースティン父様は、商会を立ち上げた時は、すぐにでも崩れ落ちてしまいそうな掘立て小屋に住んでいたと話してくれた。
 きっと僕が気にするとわかっていて、わざわざ話してくれたんだと思う。

 最初に住んでいた屋敷のことを一切覚えていないけれど、僕は迷惑極まりない存在だった。

 でも今は、広い一階建てのお屋敷……。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになったけど、僕のためを思って行動してくれたことが嬉しかった。

「それから、背後からと呼ばれることも苦手だった。俺は声も大きいし、最初はびっくりさせちまったんだと思ってたけど……。そういうわけでもなさそうだった。階段を見た時よりはマシだったが……。それでも、三日は寝込んでいたな?」
「っ、そ、そんなに!?」
「ああ。今はなんともないか?」
「……はい。ただ、母様の発音が良すぎて違和感があるくらい……」

 気にするところはそこか? といったように、ははっと笑ったエルヴィス母様が、咳払いをする。

「ヨ、コ、ス……カ?」
「っ……」
「ふぅ、言えたな? 実は、こっちの方が苦手なんだ」

 たどたどしくも告げたエルヴィス母様が、照れたようにぽりぽりと指先で頬を掻く。
 こっそり練習していたらしい母様の可愛さに、僕は胸を打たれた。

 完璧です! と褒めて、拍手をしたけど……。
 パーティーの時、嫌いにならないで欲しいと話していたけど、どこに嫌う要素があったのだろう?

 その疑問が僕の表情に出ていたのか、「まだ隠していることがあるんだ」と告げたエルヴィス母様は、自身を落ち着かせるように深呼吸をした。

「リュセは、ミラジュー王国に来てから一週間程眠りについていたんだ。リュセには、俺たちがすぐに引き取ったと話したが……。本当は、揉めに揉めたんだ。俺たち以外にも、リュセを養子にほしいと願う人が多かったからな?」
「っ……そう、だったんだ……びっくり」
「ああ。でも俺たちは、どうしてもリュセを引き取りたかった。俺もオースティンも、子を授かることができない体だから……」

 エルヴィス母様の言葉に、僕は息を呑んだ。

 てっきり、母様は僕と同じように子を授かる器官を持っていると思っていた。

 ……そもそも無理な話だったんだ。

「それで、シュヴァリエ様が動いてくれたんだ。俺たちがリュセという愛おしい子と過ごすことが出来て、親になることが出来たのも、すべてはシュヴァリエ様のおかげなんだ」

 心から感謝していると告げた母様が、深々と頭を下げる。
 隣を見れば、気にしなくてもいいとばかりに微笑む美しい横顔。


 僕が好きになった人は、僕の命を救ってくれただけでなく、素敵な両親にも巡り逢わせてくれた人だった……。

 






しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

【奨励賞】恋愛感情抹消魔法で元夫への恋を消去する

SKYTRICK
BL
☆11/28完結しました。 ☆第11回BL小説大賞奨励賞受賞しました。ありがとうございます! 冷酷大元帥×元娼夫の忘れられた夫 ——「また俺を好きになるって言ったのに、嘘つき」 元娼夫で現魔術師であるエディことサラは五年ぶりに祖国・ファルンに帰国した。しかし暫しの帰郷を味わう間も無く、直後、ファルン王国軍の大元帥であるロイ・オークランスの使者が元帥命令を掲げてサラの元へやってくる。 ロイ・オークランスの名を知らぬ者は世界でもそうそういない。魔族の血を引くロイは人間から畏怖を大いに集めながらも、大将として国防戦争に打ち勝ち、たった二十九歳で大元帥として全軍のトップに立っている。 その元帥命令の内容というのは、五年前に最愛の妻を亡くしたロイを、魔族への本能的な恐怖を感じないサラが慰めろというものだった。 ロイは妻であるリネ・オークランスを亡くし、悲しみに苛まれている。あまりの辛さで『奥様』に関する記憶すら忘却してしまったらしい。半ば強引にロイの元へ連れていかれるサラは、彼に己を『サラ』と名乗る。だが、 ——「失せろ。お前のような娼夫など必要としていない」 噂通り冷酷なロイの口からは罵詈雑言が放たれた。ロイは穢らわしい娼夫を睨みつけ去ってしまう。使者らは最愛の妻を亡くしたロイを憐れむばかりで、まるでサラの様子を気にしていない。 誰も、サラこそが五年前に亡くなった『奥様』であり、最愛のその人であるとは気付いていないようだった。 しかし、最大の問題は元夫に存在を忘れられていることではない。 サラが未だにロイを愛しているという事実だ。 仕方なく、『恋愛感情抹消魔法』を己にかけることにするサラだが——…… ☆描写はありませんが、受けがモブに抱かれている示唆はあります(男娼なので) ☆お読みくださりありがとうございます。良ければ感想などいただけるとパワーになります!

【短編】乙女ゲームの攻略対象者に転生した俺の、意外な結末。

桜月夜
BL
 前世で妹がハマってた乙女ゲームに転生したイリウスは、自分が前世の記憶を思い出したことを幼馴染みで専属騎士のディールに打ち明けた。そこから、なぜか婚約者に対する恋愛感情の有無を聞かれ……。  思い付いた話を一気に書いたので、不自然な箇所があるかもしれませんが、広い心でお読みください。

田舎育ちの天然令息、姉様の嫌がった婚約を押し付けられるも同性との婚約に困惑。その上性別は絶対バレちゃいけないのに、即行でバレた!?

下菊みこと
BL
髪色が呪われた黒であったことから両親から疎まれ、隠居した父方の祖父母のいる田舎で育ったアリスティア・ベレニス・カサンドル。カサンドル侯爵家のご令息として恥ずかしくない教養を祖父母の教えの元身につけた…のだが、農作業の手伝いの方が貴族として過ごすより好き。 そんなアリスティア十八歳に急な婚約が持ち上がった。アリスティアの双子の姉、アナイス・セレスト・カサンドル。アリスティアとは違い金の御髪の彼女は侯爵家で大変かわいがられていた。そんなアナイスに、とある同盟国の公爵家の当主との婚約が持ちかけられたのだが、アナイスは婿を取ってカサンドル家を継ぎたいからと男であるアリスティアに婚約を押し付けてしまう。アリスティアとアナイスは髪色以外は見た目がそっくりで、アリスティアは田舎に引っ込んでいたためいけてしまった。 アリスは自分の性別がバレたらどうなるか、また自分の呪われた黒を見て相手はどう思うかと心配になった。そして顔合わせすることになったが、なんと公爵家の執事長に性別が即行でバレた。 公爵家には公爵と歳の離れた腹違いの弟がいる。前公爵の正妻との唯一の子である。公爵は、正当な継承権を持つ正妻の息子があまりにも幼く家を継げないため、妾腹でありながら爵位を継承したのだ。なので公爵の後を継ぐのはこの弟と決まっている。そのため公爵に必要なのは同盟国の有力貴族との縁のみ。嫁が子供を産む必要はない。 アリスティアが男であることがバレたら捨てられると思いきや、公爵の弟に懐かれたアリスティアは公爵に「家同士の婚姻という事実だけがあれば良い」と言われてそのまま公爵家で暮らすことになる。 一方婚約者、二十五歳のクロヴィス・シリル・ドナシアンは嫁に来たのが男で困惑。しかし可愛い弟と仲良くなるのが早かったのと弟について黙って結婚しようとしていた負い目でアリスティアを追い出す気になれず婚約を結ぶことに。 これはそんなクロヴィスとアリスティアが少しずつ近づいていき、本物の夫婦になるまでの記録である。 小説家になろう様でも2023年 03月07日 15時11分から投稿しています。

婚約破棄されて捨てられた精霊の愛し子は二度目の人生を謳歌する

135
BL
春波湯江には前世の記憶がある。といっても、日本とはまったく違う異世界の記憶。そこで湯江はその国の王子である婚約者を救世主の少女に奪われ捨てられた。 現代日本に転生した湯江は日々を謳歌して過ごしていた。しかし、ハロウィンの日、ゾンビの仮装をしていた湯江の足元に見覚えのある魔法陣が現れ、見覚えのある世界に召喚されてしまった。ゾンビの格好をした自分と、救世主の少女が隣に居て―…。 最後まで書き終わっているので、確認ができ次第更新していきます。7万字程の読み物です。

【完結・ルート分岐あり】オメガ皇后の死に戻り〜二度と思い通りにはなりません〜

ivy
BL
魔術師の家門に生まれながら能力の発現が遅く家族から虐げられて暮らしていたオメガのアリス。 そんな彼を国王陛下であるルドルフが妻にと望み生活は一変する。 幸せになれると思っていたのに生まれた子供共々ルドルフに殺されたアリスは目が覚めると子供の頃に戻っていた。 もう二度と同じ轍は踏まない。 そう決心したアリスの戦いが始まる。

【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました

楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。 ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。 喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。   「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」 契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。 エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。 ⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

BLR15【完結】ある日指輪を拾ったら、国を救った英雄の強面騎士団長と一緒に暮らすことになりました

厘/りん
BL
 ナルン王国の下町に暮らす ルカ。 この国は一部の人だけに使える魔法が神様から贈られる。ルカはその一人で武器や防具、アクセサリーに『加護』を付けて売って生活をしていた。 ある日、配達の為に下町を歩いていたら指輪が落ちていた。見覚えのある指輪だったので届けに行くと…。 国を救った英雄(強面の可愛い物好き)と出生に秘密ありの痩せた青年のお話。 ☆英雄騎士 現在28歳    ルカ 現在18歳 ☆第11回BL小説大賞 21位   皆様のおかげで、奨励賞をいただきました。ありがとう御座いました。    

処理中です...