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リュセ
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しおりを挟む「コホンッ。本日は、我が愛する息子のためにパーティーに参加してくださり、誠にありがとうございました」
涙声で閉会の言葉を告げたオースティン父様。
僕も主催者の息子として笑顔で頭を下げると、パラパラと拍手が聞こえて来た。
「二人とも、おめでとう。すぐに婚約の準備を」
「っ、父様! さすがにそれは早すぎるのではないですか? シュヴァリエ様のお気持ちを優先させてください。……僕は嬉しいですけどっ」
ナイスアシストだと思うけど、まだシュヴァリエ様の気持ちを聞いていないんだ。
外堀を埋める形で困らせたくない。
そう思うのに、嬉しいだなんて付け加えてしまう僕は、浮かれてしまっていた。
「っ、リュセは……本当に私でいいのか?」
ついさっき告白したんだから、僕の気持ちはわかっているはず。
それなのに、どこか自信なさげに、何度も確認を取るシュヴァリエ様。
もしかしたら、年齢差を気にしているのかもしれない。
「はい。もちろんです。むしろ、シュヴァリエ様こそ、僕でいいのかと聞きたいくらいです」
「っ…………ああ、嬉しい。すごく……嬉しい」
幸せを噛み締めるように囁いたシュヴァリエ様。
繋いでいる手にぎゅっと力が入って、僕はドキドキしすぎて死にかけていた。
「はあ、すまない。夢のようで……。言葉が出て来ない……」
そう言って苦笑いしたシュヴァリエ様は、長い白銀色の髪を掻き上げる。
ふわっと香るいい匂いにうっとりとしていると、衝撃的な言葉が聞こえて来た。
「叶うことはないと思っていたし、告げるつもりもなかった……。だが、私も、ずっとリュセを想っていた。婚約出来ずとも、少しの期間でもいい。リュセと共に過ごしたい」
信じられない想いでシュヴァリエ様を見つめ続けていると、いつのまにか参加者全員が会場を去っていた。
◆
シュヴァリエ様と共に屋敷に戻る僕は、僕の都合の良い夢なんじゃないかと思っていた。
でも今も繋いでいる手が、それを否定している。
にぎにぎしていると、シュヴァリエ様が小さく笑った。
「痛くはないか?」
「っ……はい、すみませんっ」
「いや。初めて手を繋いだから、加減がわからなくて……」
「~~っ! ぼ、僕も、初めて……」
ほんのりと頬を染めたシュヴァリエ様に見惚れる僕は、擽ったい気持ちになる。
口元が緩みまくってしまう僕は、ひたすらにまにましていた。
そんな僕より、さらにニヤついた顔のエルヴィス母様が、シュヴァリエ様になにやら耳打ちをする。
「リュセが眠っている時に手を握っていたのは、カウントしていないんですね?」
「っ、あ、あれは……」
「クククッ、わかってますよ。ちょっと揶揄っただけです」
なんの話だと耳を澄ませていると、急にシュヴァリエ様が頭を下げた。
「っ……すまない。実は、初めてではないんだ」
しばらくぽかんとしていたけど、慌てて頭を上げてもらう。
詳しい話は応接室でしようと、四人で席に着く。
部屋の隅には、既に初老の医師が控えていた。
先程とは違って緊張感に包まれていて、なんだかハラハラしている僕は、シュヴァリエ様の手を握ったまま離せなかった。
僕の対面に腰掛けた両親が顔を見合わせ、意を決したように頷いた。
「リュセは、異世界の記憶をあまり覚えていないよな?」
「……はい」
「それに加えて、ミラジュー王国に来てからの一年目の記憶もない。環境が変わって混乱したのだと思う。あの時、リュセは酷く怯えていたんだ」
苦しげに語ったオースティン父様が無言になり、そんな父様を肩を、頑張ったとばかりに叩いたエルヴィス母様。
すっと向けられた薄紫色の瞳が、僕を射抜く。
「今も長い階段が怖いか? リューセイ」
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