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リュセ
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しおりを挟むカップリングカードを手にしたオースティン父様が、壇上に上がった。
参加者が多いのに、集計する時間がやけに早かった気がする。
「それでは、結果を発表する」
びっくりするくらい熱心に祈りを捧げる参加者たちを眺めて、みんな僕と同じように、この婚活パーティーにかけていることが伝わって来ていた。
「今回、一組のカップルが成立した」
「っ……こ、こんなにいるのに、一組だけ?」
驚きすぎて思わず声が漏れてしまったのだけど、誰も気にしていなかった。
きょろきょろと周囲を見回していると、にんまりと笑ったオースティン父様と視線が交わる。
「リュセ。おいで」
名指しされて、息を呑む。
いや、まさか、そんなわけない。
主催者の息子だから呼ばれただけだ。
ドクドクと心臓の音が耳まで聞こえている僕は、気付けばエルヴィス母様に背を押されて、壇上に上がっていた。
俯きそうになるけど、視線を上げて会場を見渡せば、我関せずとばかりに、会場の隅にいるシュヴァリエ様を見つけ出した。
それでも、バッチリと目が合った。
「おめでとう。シュヴァリエ様っ!!!!」
隣から発せられた父様の声が、遠くに聞こえる。
参加者たちのあんぐりと口を開ける姿が見えていない僕は、驚いた表情も美しいシュヴァリエ様と見つめ合っていた。
時が止まったかのように誰も動かない。
オースティン父様がもう一度名前を呼び、シュヴァリエ様が僕を見つめたまま歩を進める。
「っ……う、嘘ッ」
「リュセ。カップルが成立したんだから、手を繋ぐんだぞ?」
いつも優しいオースティン父様が、エルヴィス母様並みのハードな試練を与えて来る。
むりむりむりむりむりむり!!
長い足が視界の端に見えて、僕は両手で熱すぎる顔を隠す。
おめでとう! と声を上げたエルヴィス母様が拍手をしたけど、参加者は時が止まったままだ。
さりげなく僕の隣に来た鬼軍曹に、早くしろと肘打ちをされる。
拍手がないのは、僕たちがギクシャクしているからなのかもしれない。
なにかの間違いかもしれないけど、せっかく一組だけ成立したカップルなんだ。
意を決した僕は、右隣を見上げる。
なぜか天井を見上げているシュヴァリエ様がいて、僕も同じように顔を上げてみたけど、別になにもなかった。
ガチガチに固まっている手を動かす僕。
節くれ立つ手を、そっと握った。
「っ……」
無言のシュヴァリエ様がびくんと反応し、異世界人でも見るような目で僕を見下ろした。
……いや、僕は紛れもない異世界人だった。
緊張しすぎてパニックになっている僕は、手というより指を二本握っている状態。
これでは、下手したら親子だ。
でも、拒否されることはなかった。
……握り返してもくれないけれど。
やっぱりなにかの間違いじゃ?
「ふれても、大丈夫……なのか?」
謎の質問をしたシュヴァリエ様。
理解出来なくてゆっくりと首を傾げると、なぜかシュヴァリエ様が赤面する。
あ、あれ??
本気で両想い……??
「そ、それは、僕のセリフですっ」
「っ……!?」
そう言って、今度はしっかりと手を繋ぐ。
シュヴァリエ様がぐっと険しい表情になって、慌てて手を離そうとしたのだけど……。
そうっと握り返してくれた。
僕を選んだ理由はわからないけど、カップリングカードに名前を書いてくれたということは、少しでも気になっている相手ということだ。
あたたかな手に包まれて、嬉しすぎて泣きそうになる。
照れ臭くて、えへへとだらしない顔で笑ってしまったけど、キラキラと宝石のように輝く碧眼は、とっても優しい色を滲ませていた。
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