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リュセ
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しおりを挟む醜い言い争いをして、シュヴァリエ様に幻滅されたくなかった僕は、ちょっと意地悪な質問を投げかけていた。
そして、クリティカルヒットを食らったらしいジェイコブさん。
顔面蒼白になり、脂汗を拭い続けている。
いつもこうしてシュヴァリエ様に近付こうとする人を排除して来たのかもしれない。
だってジェイコブさんは次男だ。
ガイル子爵家を継げないわけだから、それは必死になるなと思う。
だからといって、シュヴァリエ様を傷付けるなら僕も黙っていないぞ!
シュヴァリエ様を守るナイトになった気分だ。
恋人になったわけでもないのに、告白出来たことで気が大きくなっている気がする僕は、静かにベンチに腰を下ろした。
隣を見れば、シュヴァリエ様がさっと片手で目元を覆う。
動作が速すぎてよく見えなかったけれど、泣きそうになっていたようにも見えた。
……余計なことをしてしまったのかも。
「あの、シュヴァリエ様……」
「リュセ!! 大丈夫か?!」
「どうした!? なにかあったのか!?」
ジェイコブさんが大声を出したことで、なにか事件でも起こったのかと、僕の両親や警備の人たちが続々と集まって来る。
事情を説明しようとしたけど、ジェイコブさんはダンマリで、シュヴァリエ様は微動だにしない。
他の参加者たちの姿も見えて、大勢の前で話しても良い内容なのかを判断出来なかった僕は、とりあえず大丈夫だと告げて、みんなには解散してもらうことにした。
心配する両親にだけは話しておこうと、僕は二人に連れられてその場を離れる。
結局、告白の返事は聞けず終いだったけれど、もとよりうまくいくだなんて思っていなかったんだ。
一番近くの控え室に入った瞬間、緊張した面持ちのエルヴィス母様に両肩を掴まれた。
「告白……したのか?」
「はい。でも、困らせてしまったかも……」
「~~っ、よかった、本当にっ、よかったなぁ」
なぜか号泣し始めたふたりに、力いっぱい抱きしめられる。
「ああああ~~!! まさかリュセが、シュヴァリエ様を想っていたなんて……っ。奇跡だっ!!」
僕がシュヴァリエ様と恋人になったわけじゃないのに、二人の中では既にカップルが成立している。
「ちょ、ちょっと? ただ、想い続けてもいいかと、聞いただけで……」
「くぅぅ!! なんていじらしい告白っ!! 絶対オーケーに決まってんだろ? あの人はな、ずっとリュセを──」
頬を紅潮させて、興奮するエルヴィス母様の口を塞いだオースティン父様。
涙に滲む黄金色の瞳に、やけに真剣な眼差しを向けられた。
「パーティーの後に、話したいことがあるんだ。出来れば、なにを聞いても、私たちのことを嫌いにならないでほしい」
全然話が見えないのだけど、とりあえず頷く。
もしなにか隠し事があったとしても、二人を嫌いになることは一生ないと思う。
それなのに、深刻そうなエルヴィス母様の口から、重い溜息が吐き出された。
「……そうだな。今のリュセになら、話せるかもしれない。念のために、医師を呼んでおこう」
ミラジュー王国に来てから、僕は風邪すら引いたことのない健康体だ。
やけに大袈裟だと思ったけれど、オースティン父様も「すぐに手配する」と答えたのだから、驚きすぎて言葉を失った。
その後、パーティー会場に戻った僕は、渡されたカップリングカードに名前を記入する。
もちろんお相手は、シュヴァリエ様。
紙の端っこに小さくハートも書いておいた。
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