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リュセ
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しおりを挟むそんなことは言われなくたってわかっている。
でも婚活パーティーなんだし、今は僕にだって告白する権利くらいはあると思う。
むっとする僕に、なぜか肉付きの良い青年が頬を染めた。
「あと一年半しかないからって、必死すぎるでしょ。その容姿で、傾国の美人を落とすなんてムリムリ! どれだけ高待遇を約束したって、誰にも相手にされなかったんだから、さっさと諦めたらいいのに。見苦しいですよ?」
「…………」
「剣の腕に覚えがあるシュヴァリエ様なら、騎士爵を得ることだって出来るんですし? 僕が養子になってライトニング公爵家を継ぎますから、安心してくださいよ~」
ギラギラとした衣装を身に纏う青年の目付きは、相手を見下している。
挨拶もしないし、不愉快極まりない。
そして、なぜか歳下の青年に言われっぱなしのシュヴァリエ様は、無言だった。
「あの……」
「っ、ああ。これは失礼。私は、ガイル子爵家次男のジェイコブです。貴方はサルース商会のリュセさんですよね?」
「……はい」
「でしたら今後もお付き合いすることになるでしょう。私は、ライトニング公爵家の次期当主となる男なのです。今はまだ最有力候補ってやつですけど、確定しているようなものなので」
「…………え?」
そう言って、派手なオレンジ色の短髪を掻き上げたジェイコブさん。
隣に座るシュヴァリエ様を見れば、静かに目を伏せていた。
彼の話したことが事実なんだとわかり、雷で打たれたような衝撃を受けた。
なんでシュヴァリエ様という正統な後継者がいるのに、子爵家のジェイコブさんがライトニング公爵家を継ぐの……?
「詳しく聞かせてもらうことは出来ますでしょうか?」
「ふふふっ。まさかリュセさんまでも魅了してしまうとは……。私も罪な男だっ。いいですよ?」
僕が下手に出ると、鼻の穴を広げたジェイコブさんが自慢げに語り出した。
彼はライトニング公爵家の遠縁の親戚らしい。
そして公爵家の当主になるための絶対条件は、婚約者が必要だそうだ。
現在、シュヴァリエ様は独身。
つまりその条件を満たしていないため、ライトニング公爵家を継げない。
それなら、どんな形であれシュヴァリエ様は婚約したらいいのでは?
そう思ったのだけど、先程ジェイコブさんが話した内容を思い出した。
もしや、僕と同じように、シュヴァリエ様の隣に立つことは出来ないと、皆が尻込みしている状況?
……これって、チャンスじゃない?
こんなことを考えてはいけないとわかっている。
でも、シュヴァリエ様に対するジェイコブさんの態度がすごく不快。
僕ですらそう思うってことは、シュヴァリエ様はもっと嫌な気持ちになっていると思う。
親戚だとしても、馬鹿にしたような目付きのジェイコブさんに背を向けた僕は、俯き気味のシュヴァリエ様の顔を覗き込んだ。
「一つ、お伺いしたいのですが……。シュヴァリエ様の婚約者は、平民でもなれるのでしょうか?」
僕の告白とも取れる発言に、しばし固まっていたシュヴァリエ様が、カッと目を見開いた。
「っ…………それは、」
「ええ、まあ、そうですね? でもそんな物好きいないと思いますよ? 今までもそうでしたから。野良犬だってお断りでしょう。はははっ」
「…………」
聞いてもいないのに答えたジェイコブさんが、高笑いする。
……あれ、なにかがおかしい。
野良犬ですらお断りだなんて、明らかに侮辱している。
腹の立つ男ににこっと愛想笑いした僕は、邪魔するなとばかりにもう一度背を向けた。
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