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リュセ

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 中世ヨーロッパのような世界に、迷子の子供にしか見えない僕は、確実に浮いていると思う。

 お金持ちの貴族は、ふくよかな男性が多い。
 特に高位貴族はこぞって体格が良かった。
 そんな中でもシュヴァリエ様は、モデル体型。
 日本にいたら、確実にスカウトされている。
 それはもう人気者になる。

 誰もシュヴァリエ様に声を掛けないことが気になるのだけど、絶賛片想い中の僕としては安心だ。
 きっと僕と同じように、美しすぎて近付けないオーラを浴びているのだろう。

「リュセ? わざわざ貴族のお方を選ばなくたっていいんだぞ?」

 有名な商会の長である、オースティンさん。
 僕を拾ってくれた恩人であり、父様だ。

 金色の髪は、眩しいくらいに光り輝いているし、僕を見つめる黄金色の瞳もとても魅力的。
 何年経っても、美し過ぎて直視出来ないこともあるくらいの美丈夫である。

 本日のパーティーも、この国の未婚の男性を全員招待してほしいと、僕の我儘を叶えてくれた優しい人だ。

 大きな手でぽんぽんと頭を撫でてくれ、緊張が少しだけほぐれた気がした。

「実は、ずっと好きな人がいて……」
「なにっ! そんな話聞いていないぞ!?」

 恋バナに食いつくエルヴィスさん。
 一言で言えば、高潔な騎士のような美形。
 スタイル抜群で、いくつになっても綺麗な僕の母様だ。
 
 長い薄紫色の髪からは、ラベンダーのような香りもするんだ。
 抱きしめられた時は、母様だとわかっているのにクラッときてしまうこともある。

「ただ、雲の上のお方ですから、お姿を見ているだけで幸せで……」
「っ、謙虚すぎるっ! リュセなら大丈夫だっ! 俺たちが全力で応援するからな? 爵位はないけど、我が商会はミラジュー王国きっての大商会だ。金は腐るほどあるんだからな!」

 矢継ぎ早に話した母様は、新商品を生み出した時並みに薄紫色の瞳をキラキラとさせていた。

 二人の間には子がいない。
 そのためか、僕を本当の息子のように愛してくれているんだ。
 それでも、過保護っぷりが炸裂しすぎだと思う。
 
「お金で解決するような問題では……」
「それに、俺は王妃様とも友人だ。すぐに話を通しておく。相手は誰だ? 王子か? ん? 言ってみろ」

 ぐいぐいとお美しい顔を僕に近付け、息子の願いはなんでも叶えそうな勢いである。
 そんな男前な性格のエルヴィス母様は、男性だ。

 この国の女性の人口は、三割にも満たない。
 だから同性婚は当たり前なんだ。

 その中でも僕は、子を授かることが出来る器官を持つ男性。


 つまり、神様からチート能力を授かったのだ!


 初めて知った時は、驚きすぎて気絶してしまったんだけど……。

 三年前の純粋だった頃の僕は、シュヴァリエ様の運命のお相手になるためだったんだと思えば、体の変化もすぐに受け入れていた。

 といっても、学園に通ってこの国のことを学んだ時に、身分差というものを理解することになったわけで……。

 容姿だけでも隣に並ぶことなど出来ないのに、身分差の障害まであるんだ。
 勉強を頑張って特待生になったとしても、爵位を授かることは出来ない。
 もしなにか功績を残して爵位を得たとしても、きっと男爵位。

 結局は、高い壁があるんだ。

 いろいろ面倒だから貴族になることを嫌がっていたのに、今は『爵位を貰おう!』と息巻く母様の声を聞きながら、僕は二人の子供になれたことを嬉しく思っていた。









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