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リュセ
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しおりを挟む本日の婚活パーティーに全てをかけている僕は、平凡な見た目が少しでも良く見えるように、キラキラ衣装で参戦していた。
平民出身の僕、リューセイ。
愛称はリュセ。
推定十九歳だ。
死ぬ気で勉学に励み、貴族のご子息が通う学園の特待生になっていた。
それもすべて、憧れの騎士様にお近付きになりたいから。
ただそれだけの不純な動機によるものだった。
学園の卒業を目前に控え、僕の両親が開いた小規模なパーティーに、参加者が続々と集まっている。
招待客は、この国の未婚の男性。
ささやかなパーティーになるはずだったのに、ざっと二百名以上の貴族の方が訪れていた。
平民でありながら、国王陛下からの覚えがめでたい父様が開いたパーティーだからだろう。
同級生たちの姿もちらほら見える。
……むしろ、全員参加している?
婚活パーティーに参加する必要のない人たちの姿に首を傾げつつ、笑顔で挨拶をしていく。
そこへ、一際美しい人が現れ、僕は息を呑んだ。
「っ、シュヴァリエ様……」
三年ぶりの再会に、思わずお名前を囁いた。
長い白銀色の髪は風が吹いてもいないのに、本日もサラサラと靡いており、宝石のような碧眼はいつまでも見ていられる美しさ。
シャンデリアに照らされる美丈夫の背景には、薔薇の花が咲いていた。
僕がこの世界に落っこちて来た時に、抱きとめてくれた天使様だ。
三年前も会話をすることすら出来ないくらいの美貌だったけど、益々美しさに磨きがかかっていた。
長身で、紛れもない王子様のような美貌の持ち主を前に、参加者たちが一斉に視線を逸らした。
ただ、不敬にも惚けている僕だけは、シュヴァリエ様に熱視線を送り続けている。
二十八歳で未だに独身なのは、奇跡に近い。
「あっ、目が合った……っ!」
興奮してしまう僕からさっと視線を逸らしたシュヴァリエ様は、飲み物を取りに向かった。
……うん、勘違いだってわかってる。
由緒正しき、ライトニング公爵家の嫡男。
婚約者どころか、愛人にすらなれないと思う。
彼が今も独身なのは、理想が高いからだろう。
この国一番の美貌の持ち主なのだから、必然的に理想が上がるのも頷ける。
僕はお話出来るだけで満足。
いや、遠くから見ているだけでも幸せなんだ。
平凡極まりない容姿だけど、僕には強みが一つだけある。
黒目黒髪を持つ『異世界人』なんだ。
高校生だった時の記憶はあるのだけど、その他の記憶は曖昧。
だから正確な年齢もわからない。
家族がいた気もするけど、思い出せないわけだから、きっと仲が悪かったんだと思う。
今は僕を溺愛してくれる両親がいるから、思い出せなくても寂しくなんてないんだ。
そんな僕は、日本ではごく普通の容姿。
でもミラジュー王国では、黒目黒髪は僕一人。
つまり、特殊な人種なんだ。
異世界人の迷い人はたまにいるらしく、かつて舞い降りた異世界人の方々の功績により、僕の存在は認められている。
ただ、やっぱり不気味だからか、友人はほとんど出来なかった。
今も好奇の目に晒されているけど、シュヴァリエ様に僕の存在を認識していただくまでは、帰るつもりはないんだ。
出来ることなら、三年前のお礼を述べたいと願う僕は、会場の隅に移動した想い人を、こっそりと見つめ続けていた。
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