上 下
5 / 100
リュセ

しおりを挟む


 本日の婚活パーティーに全てをかけている僕は、平凡な見た目が少しでも良く見えるように、キラキラ衣装で参戦していた。

 平民出身の僕、リューセイ。
 愛称はリュセ。
 推定十九歳だ。

 死ぬ気で勉学に励み、貴族のご子息が通う学園の特待生になっていた。

 それもすべて、憧れの騎士様にお近付きになりたいから。
 ただそれだけの不純な動機によるものだった。


 学園の卒業を目前に控え、僕の両親が開いた小規模なパーティーに、参加者が続々と集まっている。
 招待客は、この国の

 ささやかなパーティーになるはずだったのに、ざっと二百名以上の貴族の方が訪れていた。
 平民でありながら、国王陛下からの覚えがめでたい父様が開いたパーティーだからだろう。

 同級生たちの姿もちらほら見える。
 ……むしろ、全員参加している?

 婚活パーティーに参加する必要のない人たちの姿に首を傾げつつ、笑顔で挨拶をしていく。

 そこへ、一際美しい人が現れ、僕は息を呑んだ。

「っ、シュヴァリエ様……」

 三年ぶりの再会に、思わずお名前を囁いた。

 長い白銀色の髪は風が吹いてもいないのに、本日もサラサラと靡いており、宝石のような碧眼はいつまでも見ていられる美しさ。
 シャンデリアに照らされる美丈夫の背景には、薔薇の花が咲いていた。

 僕がこの世界に落っこちて来た時に、抱きとめてくれた天使様だ。
 三年前も会話をすることすら出来ないくらいの美貌だったけど、益々美しさに磨きがかかっていた。

 長身で、紛れもない王子様のような美貌の持ち主を前に、参加者たちが一斉に視線を逸らした。
 ただ、不敬にも惚けている僕だけは、シュヴァリエ様に熱視線を送り続けている。

 二十八歳で未だに独身なのは、奇跡に近い。

「あっ、目が合った……っ!」

 興奮してしまう僕からさっと視線を逸らしたシュヴァリエ様は、飲み物を取りに向かった。

 ……うん、勘違いだってわかってる。

 由緒正しき、ライトニング公爵家の嫡男。
 婚約者どころか、愛人にすらなれないと思う。

 彼が今も独身なのは、理想が高いからだろう。
 この国一番の美貌の持ち主なのだから、必然的に理想が上がるのも頷ける。

 僕はお話出来るだけで満足。
 いや、遠くから見ているだけでも幸せなんだ。

 平凡極まりない容姿だけど、僕には強みが一つだけある。
 黒目黒髪を持つ『異世界人』なんだ。

 高校生だった時の記憶はあるのだけど、その他の記憶は曖昧。
 だから正確な年齢もわからない。
 家族がいた気もするけど、思い出せないわけだから、きっと仲が悪かったんだと思う。

 今は僕を溺愛してくれる両親がいるから、思い出せなくても寂しくなんてないんだ。

 そんな僕は、日本ではごく普通の容姿。
 でもミラジュー王国では、黒目黒髪は僕一人。
 つまり、特殊な人種なんだ。

 異世界人の迷い人はたまにいるらしく、かつて舞い降りた異世界人の方々の功績により、僕の存在は認められている。
 ただ、やっぱり不気味だからか、友人はほとんど出来なかった。

 今も好奇の目に晒されているけど、シュヴァリエ様に僕の存在を認識していただくまでは、帰るつもりはないんだ。

 出来ることなら、三年前のお礼を述べたいと願う僕は、会場の隅に移動した想い人を、こっそりと見つめ続けていた。










しおりを挟む
感想 52

あなたにおすすめの小説

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

とある美醜逆転世界の王子様

狼蝶
BL
とある美醜逆転世界には一風変わった王子がいた。容姿が悪くとも誰でも可愛がる様子にB専だという認識を持たれていた彼だが、実際のところは――??

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

悪役王子の取り巻きに転生したようですが、破滅は嫌なので全力で足掻いていたら、王子は思いのほか優秀だったようです

魚谷
BL
ジェレミーは自分が転生者であることを思い出す。 ここは、BLマンガ『誓いは星の如くきらめく』の中。 そしてジェレミーは物語の主人公カップルに手を出そうとして破滅する、悪役王子の取り巻き。 このままいけば、王子ともども断罪の未来が待っている。 前世の知識を活かし、破滅確定の未来を回避するため、奮闘する。 ※微BL(手を握ったりするくらいで、キス描写はありません)

乙女ゲームが俺のせいでバグだらけになった件について

はかまる
BL
異世界転生配属係の神様に間違えて何の関係もない乙女ゲームの悪役令状ポジションに転生させられた元男子高校生が、世界がバグだらけになった世界で頑張る話。

魔王様の瘴気を払った俺、何だかんだ愛されてます。

柴傘
BL
ごく普通の高校生東雲 叶太(しののめ かなた)は、ある日突然異世界に召喚されてしまった。 そこで初めて出会った大型の狼の獣に助けられ、その獣の瘴気を無意識に払ってしまう。 すると突然獣は大柄な男性へと姿を変え、この世界の魔王オリオンだと名乗る。そしてそのまま、叶太は魔王城へと連れて行かれてしまった。 「カナタ、君を私の伴侶として迎えたい」 そう真摯に告白する魔王の姿に、不覚にもときめいてしまい…。 魔王×高校生、ド天然攻め×絆され受け。 甘々ハピエン。

悪役側のモブになっても推しを拝みたい。【完結】

瑳来
BL
大学生でホストでオタクの如月杏樹はホストの仕事をした帰り道、自分のお客に刺されてしまう。 そして、気がついたら自分の夢中になっていたBLゲームのモブキャラになっていた! ……ま、推しを拝めるからいっか! てな感じで、ほのぼのと生きていこうと心に決めたのであった。 ウィル様のおまけにて完結致しました。 長い間お付き合い頂きありがとうございました!

処理中です...