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39 白馬の金髪美青年
しおりを挟むバルサール国の敵将との一騎討ち当日。
ここ数日の悪天候が嘘のように晴れ渡る空の下、漆黒の馬に騎乗する私は、婚約者からじっとりとした目を向けられ続けていた。
「やはり自覚していなかったようだな……」
恨めしい声が聞こえて来るのだが、どう返答して良いのかわからない。
私と敵将の一騎討ちの知らせを、つい先程聞いたアリステア様は、酷くお怒りのようだ。
きっと私が負けるとは思っていないのだが、勝手にことを進めたことに怒っているのだと思う。
私の独断であり、セドリックを罰しないで欲しいと告げると、呆れた顔をされた。
「私が怒っているのは、そういうことじゃないんだ」
「…………申し訳ありません」
「なぜ怒っているのかをわからないのに、謝罪をするな」
口を引き結ぶと、アリステア様が溜息を漏らす。
「もういい。ここまで来たら仕方がない。思う存分、暴れて来い」
「っ、はい!」
「まったく。嬉しそうな顔をするな? そんな顔を向けられるエミリオに、妬けてしまうだろう」
馬の嘶きで最後の方は聞こえなかったが、アリステア様は許してくれたようだった。
アリステア様の後に続いてぞろぞろと出ていくと、敵国の旗を掲げた大勢の兵士たちの中心には、白馬に乗った金髪の美青年が待ち構えていた。
「待っていたぞ。アリステア・マートン! 貴様の婚約者を叩き斬ってくれるわっ!」
傲慢な口調が、どこかの王子様にそっくりだと思いながら前に出る。
鋭い目付きのアリステア様の横を通り過ぎると、「ディディ」と呼び止められた。
「私の優秀な弟子は、誰が相手でも負けることはないだろう。だが、その可愛い顔に少しでも傷を付けて帰ってきた時には、敵を殲滅する。以上だ」
行ってこいと激励の言葉をかけられて頷いたのだが、ぎこちなく前を向いた私は、戸惑っていた。
(か、可愛い顔だと言わなかったか?)
無表情の私に対して、そんなことを述べる男性は、クラレンスを除いて一人もいなかった。
なぜ今、そんな爆弾を投げて来るのかと、まもなく始まる一騎討ちより、アリステア様の一言の方が私の心臓をドキドキと高鳴らせた。
十も歳下なのだから、妹みたいに可愛いという意味だとは思う。
だが、夜も眠れないほど一騎討ちを楽しみにしていたというのに、集中できなくなるだろう。
……全部、アリステア様のせいだ。
敵国の駆り出された農民たちを無闇に傷付けたくないと言っていたくせに、私に少しでも傷が出来たら敵を殲滅するだなんて、言っていることが滅茶苦茶だ。
それでも喜びが湧き上がって来る私は、口許が緩んでしまう。
そんな私を前にしたアメジストの瞳の美青年は、ぽかんとだらしなく口を開けており、まるでやる気のない姿に首を傾げることになった。
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