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38 不愉快 エミリオ
しおりを挟む「クハハハハッ! 恋に盲目になった愚かな女だっ! だが、おかげで我が軍の勝利は確定したも同然。オイ、祝いの酒を持って来いっ!」
ここ最近の悪天候と食糧難により、兵士たちが疲弊しているにも関わらず、呑気に椅子にふんぞり返る指揮官に、冷めた目を向ける。
無謀にもスレジット国へ戦を仕掛けるリカルド第二王子殿下は、両親から随分と甘やかされて育ったお方だ。
そのお方が手にしている密書には、私が敵視する相手──アリステア・マートンの婚約者からの一騎討ちの申し出が記されていた。
スレジット国に亡命した私の元部下から届いた知らせによると、今回の件は黒の死神の婚約者の独断のようだ。
正直、罠ではないかと思っている。
女の力量はわからないが、正当な一騎討ちではなく、なにか小細工をしてくるはずだ。
毒でも投げつけてくるのかもしれないが、その前に叩き斬れば良いだろう。
女を相手に剣を振るうことに少しだけ躊躇してしまうが、その女一人の命で戦を終わらせることができるのならば、尊い犠牲となるだろう。
無謀にも、平民から国の英雄にまでのし上がり、クロマティーの名を授かった私に、一騎討ちを申し出る甘い考えの貴族令嬢が、不愉快で仕方がなかった。
自身の鳶色の髪をしっかりと結い、情けをかけないように覚悟を決めた。
「だが、相手が女ならエミリオを出すのは勿体無い。私が出るッ!」
「っ、おやめください! 万が一のことがあれば……」
「なんだ? 学問ばかりが優秀で、剣も握れない兄より、私がひ弱な男だとでも言いたいのかっ!」
アメジストの大きな宝石の填め込まれた、戦闘には不向きの剣を抜くリカルド殿下。
剣術の腕に覚えがあり、金色の髪を振り乱す姿は凛々しく見えるが、彼は戦に出た経験がない。
ただ、今回は一騎討ち。
勝てる見込みはあるだろうが、それでも殿下が怪我をしてしまえば、我々が処罰されるだろう。
「三日後は、念のために私も控えております」
「ふん。英雄だからといって、私に命令するな! 当日は、エミリオの出番などないわ!」
剣をおさめたリカルド殿下は、不気味な笑みを浮かべる。
功績をあげて、華々しく帰還する様を妄想しているのだろう。
いくらこの戦で勝利したとしても、選民主義の彼にはついていけない。
本来なら我が国の勝利をと望むところだが、一騎討ちで痛い目にあえとすら思っている。
私の出番があるかはわからないが、黒の死神と戦いたい。
この世で誰が一番強いのかを、わからせてやる。
そう思っていた私は、意気揚々と一騎討ちに挑むはずのリカルド殿下が、愚か者だと罵っていた黒の死神の婚約者に、一目惚れすることになる未来をまだ知らない。
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