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31 手紙 執事

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 困り顔の使用人が手にしている大量の手紙を前に、深い溜め息を吐く。

 「また届いたのですか……」

 我が主人の婚約者になったと訪問してきたスアレス嬢を追い返して、一週間。
 彼女宛に、令嬢からの大量の手紙が届いている。

 辺境の地に来ても、彼女を慕う令嬢が多いことが分かった。
 多くの取り巻きを率いて、ドロシー嬢を虐げてきた噂は、やはり真実だったようだ。
 そのカリスマ性は目を見張るものがあるが、主人の評判を下げる害でしかない。
 
 「送り返してください」
 「ですが、これを」

 差し出された、水色の封筒に目を通す。

 「……ドロシー・ウィーラー?」

 なぜ第二王子殿下の新しい婚約者から、元婚約者のスアレス嬢に手紙が届くのだろうか?

 金髪碧眼の守ってあげたくなるような容姿のドロシー嬢は、身分差によって婚約者になることはできなかったが、第二王子殿下の運命のお相手だ。
 スアレス嬢の悪事が暴かれ、愛する人の子を宿したことにより、新たな婚約者となった。

 それが、虐げられてきた相手に手紙を送るだなんてことがあり得るのだろうか?
 内容が気になるが、恨み言が書いてある可能性もある。
 分厚い封筒を手にして考え、保管しておくようにと指示を出した。

 戸惑う使用人を見送り、ふと思い出す。

 クラウディア・スアレス嬢の第一印象は、陰険な虐めをするような人物には見えなかった。
 剣の腕もある凛とした容姿の彼女は、なにかあれば決闘でもしそうな雰囲気だった。

 だが、噂の信憑性は、確かな筋から聞いているので間違いない。

 今はバルサール国との揉め事により、主人を悩ませるような厄介な問題を増やしたくない。
 私の判断は正しかったのだと思うが、力強い青色の瞳を思い出すと、どうしてか不安になる。
 
 席を立った私は、格下の男爵令嬢からの手紙の封を切る。

 『親愛なるクラウディア様♡

 辺境の地には慣れましたか?
 がいなくなった王都では、すべてが色褪せて見えてしまいます。
 ドロシー嬢の経過は良好で、先日はお茶会も開きました。
 彼女が少しでも穏やかに過ごせるように、私たちがお守りしております。
 ですので、ご安心してください。
 ディア様の結婚式を楽しみにしております。
 早くお会いしたいです♡

          貴方のユリアより♡』



 「ハッ。やはりか」

 主人の名誉を守ることが出来たと、満足げに喉を鳴らす。

 王都を離れても、ドロシー嬢を虐げるように、取り巻きたちに指示を出していたのか。
 姑息なことをする女だ。
 気分の悪い手紙を破り、業務に戻る。

 内容を正しく読み取ることが出来なかった私は、まさかその手紙が、そのままを意味したものだと気付くことはなかった。









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