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24 笑えない

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 アリステア様から内密な話がしたいと言われ、エメラルドを退出させた。
 なぜか黄色の瞳を彷徨わせてそわそわとしていたが、私とアリステア様は婚約関係なので、二人きりになっても問題はない。
 それ以前に、甘ったるい雰囲気ではないので安心してほしい。

 紅茶を口に含み、軽く息を吐いたアリステア様は、申し訳なさそうに眉を下げた。

 「つらい時に傍にいてやれなくてすまなかった」
 「いえ、私は気にしていません。アリステア様が民達から好かれていると知れて、喜びの方が勝りました」
 
 私の返答に苦笑いを浮かべたアリステア様は、ゆるりと首を振った。

 「それもそうだが……。元婚約者とのことだ」

 まさかラウル殿下とのことに触れられるとは思っておらず、頬が強張った。
 
 「二人が良好な関係を築いていると、知人から聞いて安心していたんだが……。どうやら、違ったようだな? カルロス殿に何を言われようと、クラウディアの傍から離れるべきではなかった」
 「……仕方のないことです」
 
 アリステア様が父と絶縁していなくとも、陛下から辺境の地を任されることになったのだから、いずれは離ればなれになっていたのだ。
 それでもずっと私を心配してくれていたことが伝わって来て、強張っていた頬が緩んだ。

 「婚約を解消したばかりで、気持ちの整理をする時間が必要だろう。私のことは、今まで通り師匠として接してくれて構わない」
 
 私を気遣うように優しい眼差しを向けられて、嬉しいはずなのに、なぜか胸がチクリと痛くなった。

 「それに、私ももうすぐ三十だ。クラウディアからすると、おじさんにしか見えないだろう」
 「っ、そんなことはありません。昔から変わらず素敵です」
 「ははっ、お世辞も言えるようになったんだな? 昔は苦手だったのに……。成長したな」
 
 ニカッと笑ったアリステア様が私の隣に腰掛けて、ゴツゴツとした大きな手で頭を撫でてくれる。
 
 お世辞を言ったつもりはないのだが、きちんと伝わらなかったようだ。
 他の人なら誤解されたままでも良いのだが、アリステア様には勘違いしてほしくないと思い、彼の方に体を向ける。

 「アリステア様は昔から魅力的なお方です。十年経った今でも……。今回の件で迷惑をかけてしまい、申し訳なく思っています。もしアリステア様に大切なお方がいらっしゃるのなら、私はお飾りの妻に──」
 
 私の頭を撫でていた手が流れるように毛先まで滑り、薄い唇が軽く触れる。
 薔薇色の瞳に見つめられながら、髪に口付けを落とされて、激しい動悸がした。
 驚きのあまり、続きを言うことが出来なくなってしまった。

 「そんなことは二度と言わないように」

 冗談でも笑えないと告げるアリステア様は、少しだけ怒っているようだった。
 




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