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17 自業自得 ラウル

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 いつも堂々としているクラウディアだが、毎年秋になると、少しだけ悲しい表情を見せる。
 彼女の母親が、心の病だからだ。
 
 俺は両親に愛されて育ったから、クラウディアの気持ちはわからないが、素直に助けてやりたいと思った。
 だから母上に相談すると、『余計なことはしないように』と釘を刺された。

 スアレス侯爵夫妻は、政略結婚が当たり前の貴族社会では珍しい、相思相愛の夫婦だ。
 あの厳つい騎士団長が、クラウディアの母であるセリーナ夫人に惚れ込んで、自身の権力を駆使して妻にした。
 ……俺にそっくりだ。

 だが、騎士団長は両親から頼まれて、婚姻後も病弱な幼馴染みの面倒をみていた。
 愛人ではなかったらしいが、相手はそうは思っていなかった。
 日陰の存在から抜け出したくて、彼の優しさにつけ込み、どこからか赤子まで用意して、スアレス家を滅茶苦茶にした。
 侯爵夫人の地位に目が眩んだのだろう。
 そして、愛する人の手によって破滅したが……。

 騎士団長は、最愛の妻を傷付ける者には容赦がない。
 ただ、セリーナ夫人の壊れてしまった心が元に戻る事はなかった。
 だから今は、ゆっくりと時間をかけて関係を修復しているところなんだが、双子は何も知らない。
 もし知っていたとしても、父親に対する憎しみは消えないだろう。
 いくら両親に頼まれていたからといって、家族よりも優先すべき相手ではなかったはずだから。

 だが、俺は間違えない。
 だって俺の瞳には、いついかなる時もクラウディアしか映っていないから。
 
 そう思っていたのに、クラウディアに拒絶されたことに傷付いて、暴走した。
 俺が他の女といると、クラウディアの方から会いに来るようになり、まるで嫉妬しているように注意してくるようになった。

 宝石のような綺麗な瞳は、俺を心配し、俺だけを見つめてくれていた。
 無理矢理俺の婚約者になったクラウディアの、本当の気持ちはわからない。
 でもその時だけは、俺はクラウディアに愛されていると実感することが出来た。
 
 そして調子に乗ってやりすぎた。
 
 ただの性欲処理相手で、名前も知らない女が新たな婚約者になった。
 腹の子が誰の子かなんてわからないのに。
 でも、俺も無理矢理クラウディアを婚約者にしたのだから、自業自得なんだと思った。


 
 抜け殻になった俺の元へ、銀髪の美青年が悲しげな顔で歩み寄る。

 「ラウル殿下が近くにいると、ディアは辛い想いをすると思います。いくら気持ちが冷めていても、かつて好きだった相手と他の女性が共にいるところを見るのは、精神的にキツいはずです。母のように心を壊して欲しくない……。だから今は、辺境の地へ行ってもらうことにするのはどうでしょう?」
 「…………」
 「辺境伯は、クラウディアの師です。仮の婚約者として妹を守ってもらいましょう。そして、時期を待つのです」
 
 首を傾げる俺に、悪魔の囁きが聞こえた。

 「子の瞳の色が楽しみですね」

 その先は、言われなくても理解出来た。
 もし俺の子じゃなければ、クラウディアとの関係を修復することが出来るかもしれない。
 
 それに兄上とクラウディアが結ばれるところを、一生近くで見続けなければならないなんて、死んだ方がマシだ。
 自分のした事を棚に上げて、俺はスアレス侯爵家の意向に賛同する事にした。

 王家特有の翡翠色の瞳に、僅かな光を宿した俺を見る目が、冷え切ったものだと気付かずに──。

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