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9 私の味方
しおりを挟むラウル殿下に運命の相手が現れたので、私はお役御免となるはずだった。
だが、なぜか婚約を解消することが出来ない。
理由は、ラウル殿下が頑なに認めないからだ。
彼の子を宿した令嬢は伯爵家出身で、スアレス侯爵家よりも格は落ちる。
だが、臣籍降下するラウル殿下にとっては、然程問題ではないはずだ。
それに愛し合った人が子を宿したのだから、この上なく喜ばしいことである。
王妃様は了承してくれているが、陛下がご立腹のようで、父も怒り狂っている。
ラウル殿下の身勝手な行動に対してもだが、彼の言うことに従わなかった私に対してもだ。
婚姻していれば体を許したが、そうではない。
それなのに純潔を散らして、ラウル殿下の我儘によって婚約破棄をされたとき。
私が傷物になってしまうことは目に見えていた。
それなのに、私が体を許さなかったことを怒鳴る父に、堪忍袋の緒が切れそうだ。
「聞いてるのか! クラウディア! これだから女は使えない」
ブチッと血管が切れる音が響き、私は剣を手にしていた。
「表へ出ろ」
「……なんだと?」
「いくら父親でも、女性を軽視する発言にはもううんざりだ。お前も矯正してやる」
喉元に剣を向けると、鋭い目が見開いた。
「やめてください! クラウディア様!」
「いけません! 剣を下ろすのです!」
「早く謝罪して下さい!」
青褪める使用人達が私達を取り囲み、必死に止めようとする。
だが、私は額に汗を滲ませる父だけを睨み付けていた。
「ああ~、もうっ! クラレンス様! 止めて下さい!」
「ええ? まあ、良いんじゃない?」
「はいっ!?」
「だって、女だからってなんでもディアが悪いように言うんだもん。ディアの気持ちも考えてよ。いくらラウル殿下に無理矢理婚約者にされたからって、別にディアはラウル殿下を嫌っていたわけじゃないんだよ?」
クラレンスの言葉に、皆もそれはわかっていたのか、なんとも言えない空気が流れた。
「ただ、婚姻していないのに体の関係を結ぶのは違うって思ったから、行動していただけでしょ? そりゃあ、やっちゃってる人もいるかもしれないけど……。そんなの、非常識な奴だけでしょ」
正論を述べるクラレンスに、皆が押し黙る。
それに、ラウル殿下を批判する言葉なのだから余計に何も言えないようだ。
「いつかはラウル殿下の妻になると腹を括っていたディアにとっては、辛い現実なんじゃないの?」
「…………」
「それなのにディアを責めるなんて、おかしいと思わない? 淡々としてるけど、これでもディアは傷付いてるよ?」
私のことを誰よりも理解している双子の言葉によって、騒がしかった室内に静けさが訪れる。
窓を開けてもいないのに、私の体の周りを冷たい風が吹き荒れた。
「今までの鬱憤もあるだろうしさ! やっちゃいなよ、ディア」
にたりと悪戯っぽい笑みを浮かべたクラレンスに、力強く頷いた。
視界が歪んでいたのは、きっとクラレンスの言葉が嬉しかったからに違いない。
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