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2 約束
しおりを挟む「でも、不敬罪に問われなかっただけ、マシだったのか……?」
第二王子殿下と知らなかったとはいえ、稽古に乱入してきた小僧の腹を軽く殴って退場させた。
横柄な態度が気に食わなかったからじゃない。
単純に、実力の無い者が来る場所ではないからと、危険を回避してやったのだけど、余計なお世話だったようだ。
まさか、あの程度で失神しているとは思わなかったけど。
十二歳といえど、男としてのプライドを傷つけてしまったらしい。
両親に迷惑をかけてしまうことだけを心配していたのだけど、婚約者になるとは想定外だ。
生涯、小僧の子守をしなければならないことに憂鬱になる。
でも、スアレス家としては、王家と縁を結ぶことが出来て良かったのだろうか?
難しいことはわからないけど、とにかく帰宅しようと席を立つ。
そこへ波打つ金髪が美しい妖艶な美女が現れる。
リアーナ王妃様だ。
ラウル殿下と同じ翡翠色の瞳だが、彼とは違って知的な色を放っている。
彼女のお気に入りの温室に招かれて、季節の美しい花に囲まれる。
用意されていた席につき、芳醇な香りに包まれて、今度こそきちんとした話し合いの場となった。
「ごめんなさいね、クラウディア」
「いえ」
「あの子ったら言い出したら聞かなくて……。クラウディアは五人目の被害者なの」
扇子を口許に当て、申し訳なさそうに目を伏せた美女が、深く長い息を吐き出す。
私の他にも被害者がいたのかと、驚きで頬が引き攣った。
「でも大丈夫。一ヶ月ももたないはずよ? だから、今は婚約者候補としてお付き合いしてくれるかしら?」
王子の我儘に振り回された令嬢達が、傷物にならないようにと裏で手を回していた王妃様。
我が子を放置せずに、なんとか軌道修正しようと奮闘しているようだ。
面倒事に巻き込まれて憂鬱だったが、安堵した。
私がラウル殿下に手を出してしまったことについても、彼の護衛から報告は受けているそうだ。
お咎めなしという話だったが、迷惑な問題に巻き込んだと、逆に謝罪されてしまった。
「私はクラウディアが義理の娘になってくれたら嬉しいけど……。それならラウルではなくて、ロベルトの婚約者になって欲しいわ」
上品に笑うリアーナ王妃様は、私のことを高く評価して下さっている。
だが、ロベルト第一王子殿下の婚約者になるということは、いずれは王妃になるということ。
私には分不相応だと、遠慮する。
それでも王妃様の気持ちを汲み取り、短い期間ではあるけど、共にラウル殿下を矯正することを決意した。
ラウル殿下が私に執着するとは思わずに……。
晴々とした、十四の夏のことだった。
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