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7 婚約者の暴走

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 「どうせ結婚するんだから、良いだろ?」

 第二王子殿下の自室の寝台に、婚約者を押し倒すラウル殿下。
 閨の教育を受けたからか、性行為に興味津々である。
 私は十七になったのだが、彼はまだ十五の子供。

 いずれは彼の妻になることが決められているが、今はまだその時ではないと思う。

 「こういうことは、初夜に行うべきかと」
 「父親に似て頭が固いな、ディアは。バレなきゃ良いんだよ」
 
 にたりと悪魔顔をするラウル殿下は、私の気持ちは一切考えていないようだ。
 口付けようと近付く彼の腹を軽く殴る。

 「ゴフッ」

 白目を剥いて倒れて来た体を受け止める。
 寝台に寝かせて、瞼を下ろしてあげた。
 何年経っても軽く殴っただけで気絶する彼は、別に弱いわけでは無い。
 元々運動神経が良いため、剣術の腕もなかなかのものだ。
 だが、単に私が強すぎるだけなのだ。

 あまり強くなりすぎても、周囲の男共に妬まれるから今は隠してはいるが。
 いつかはアリステア様と戦ってみたい。
 なにせ、父には既に勝てるだけの実力はあるのだからな。
 プライドの塊である父をコテンパンにすると、いろいろと面倒な事が起きるのでまだしていない。
 私自身は、そんな日が来ることがないよう願っている。

 

 私を襲おうとして来るラウル殿下を躱し続けていると、ついに彼がキレた。
 
 パーティーなどで言い寄ってくる令嬢たちに手を出し始めたのだ。
 以前のラウル殿下は我儘放題で、誰も近付かなかったが、今は違う。
 体は鍛えているし、凛々しい見た目だ。
 上から目線の発言も、彼は王族なのだから受け入れられる。

 貴族男性が愛人を持つことはよくあることだが、王子の場合は少し違う。
 いろんなところに子種をばら撒かれては困るのだ。
 それなのに、連日連夜女性達の元で一夜を過ごしている。

 私のことが好きなくせに、よく他の女性を抱けるなと呆れてしまう。
 私の気を引きたい気持ちが見え見えなんだが、悪手であることに気付いて欲しい。

 ラウル殿下に対して好意を抱き始めていたのに、今は魅力を感じなくなっている。
 それでも注意出来るのは私しかいない。
 若さ故の過ちなのだから、寛大な心を持つべきだとも思う。

 自分の気持ちを押し殺し、早朝の稽古の時間を削って彼の元を訪れていた。
 蜥蜴の尻尾のような編み込まれた赤髪を見つけ、声を掛ける。
 本日も朝帰りをした殿下は、気怠そうに振り返った。
 
 「ラウル殿下。少々お遊びが過ぎるのでは?」
 「フン。全部ディアのせいだろう! ディアがやらせてくれないから、代わりに寄ってくる女で発散しているんだ!」
 「……それはそれで、相手に失礼でしょう」
 「ハッ! 向こうから抱いてくれと寄ってくるんだ! 俺はその好意に応えてやっているだけだ!」

 いくら注意しても聞く耳を持たないラウル殿下は、性欲がかなり強いようだ。

 「では、私との婚約を解消し」
 「嫌だ!」

 目を血走らせるラウル殿下が、話は終わりだと自室に戻っていった。
 バンッと力強く扉を閉められ、途方に暮れる。
 欲求を発散したい気持ちに関しては、仕方がないと思う。
 だが、こう何人も相手がいるとなると、私はいない方が良いのではないかと思ってしまう。

 せっかく良い関係になれたというのに、気持ちが急激に冷めていく。

 「せめて、一人に絞って下されば良いのに」
 「それは難しいだろうね」

 背後から聞こえた、耳に心地良い声の主に振り返り、頭を下げた。
 
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