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209 よく来たな アーノルド

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 憂さ晴らしに買い物に出掛けていた僕が帰宅すると、ここ最近、新たに雇われた下っ端の使用人が待っていた。
 新人だけど賢くて気が利く男――スパインは、顔も美形だし、僕のお気に入り。

 「アーノルド様。手紙が届いております」
 「っ、もしかしてリオン?」

 その場で飛び跳ねた僕は、スパインからすぐさま手紙を受け取る。

 急いで自室に戻る僕は、なぜ執事ではなく、下っ端の男が手紙を持っているのかを疑問に思うことはなかった――。

 「リオンはジルベルトと婚約するって話していたけど、正式な発表はされていない。きっと二人はうまくいっていないんだっ! あははっ、笑えるッ! だって、罪人の息子がリオンの婚約者になるだなんて、誰が認めるっていうんだよ? バッカじゃないのっ!」

 そう結論付けていた僕だけど、リオンが侍従とも恋仲だという情報も得ていた。
 あんな人形みたいに表情が変わらない、なんの面白味もない奴が、リオンに選ばれるはずがないというのに――。
 クソみたいな報告をしてきた使用人のことは、即日解雇してやった。

 実際には、第四王子殿下と専属侍従が恋仲だと知る者は少なく、報告に来た使用人はすこぶる優秀な人物だったことを、僕は知らない。

 それでも念のため、僕の協力者には、リオンの侍従に怪我をさせるように指示を出しておいた。
 本当にやる度胸があるかはわからないけど、僕に夢中だったし、心配いらないだろう。
 僕と結婚したいとか分不相応なことを話していたし、面倒臭くなっていたから丁度良い。

 リオンを満足させるため、テクニックを得るために利用しただけ。
 もし僕が、リオン以外の人間と肉体関係があるとバレたら、きっとリオンは怒り狂うと思う。
 僕をピュアで病弱な子だと思っているリオンに、僕の裏の顔が露見しないよう、平民共は始末しておかなくては……。

 「それに、男娼たちも目障りだっ。ついでに消しちゃおう! いや。金持ちに売るか? 可愛い子が多かったし、間違いなく大金が手に入る。僕って賢すぎっ! ふふっ」

 男娼の分際で、今更真っ当に働けると思うこと自体が間違っている。
 頭の悪いガキたちだから許してあげるけど。
 僕は慈悲深い天使だからね?

 「なにより、リオンに守られるのは、僕ひとりで充分なんだ」

 紅茶を淹れてくれる執事のオーガストが、そうですね、と同意してくれる。
 今後の動きを考えながら、手紙の封を切る。

 「っ、父上からだッ!!」

 久々に休暇が取れたから、一緒に食事でもどうかとお誘いの手紙だった。
 しかも、アシュリー兄上も一緒だ。

 「よかったですね、と言いたいところですが……。もしや、なにか察知したのでは」

 不安そうにしているオーガストに、僕はにっこりと笑いかけた。

 「大丈夫だよ。だって二人は、僕に興味がないんだから」
 「っ、アーノルド様……」

 僕を心から心配してくれるオーガストが、悲しげな声を出した。
 小さな頃からずっとそばにいてくれて、本当の父親だと思っている。
 それでもやっぱり、血の繋がった父上に気にかけてもらえたら嬉しい……。





 翌日。
 おめかしをして王宮に向かう。
 全身を白色で包まれている僕は、誰が見ても病弱で儚げな美人だ。
 神聖な黒を纏うリオンの隣に立てるのは、僕以外に考えられない。

 馬車を降りると、すでに使用人たちが僕を案内するために待っていた。
 三男だけど、僕は宰相の息子だから手厚い対応なんだ。

 ……といっても、僕の中ではジルベルトはリンネス公爵家の一員だとカウントしていないから、僕は次男なんだけどね?

 王宮の一室に案内されると、いくら待っても会いに来てくれなかった父上が、ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいた。
 無表情だけど、これが父上の通常の顔だ。

 「アーノルド。よく来たな」
 「父上ッ!」

 逃げずに来たんだな、という言葉の意味に気付かない僕は、父上に抱きついていた。
 たくさんお喋りをして、今までで一番楽しい時間だったと思う。

 リオンに会えなかったのは残念だけど、また今度会えるだろう。
 だって僕たちは、運命の赤い糸で結ばれているんだから。

 それから馬車に乗り、有名な高級レストランへ移動する。
 ふたりは僕のために、予約でいっぱいのフェデフルーを貸切にしてくれていた。
 魚介を揚げた『串カツ』という珍しい料理は、最高に美味しかった。

 「そうだ! 父上! ジルベルトが、リオンに迷惑をかけているんですっ! 僕にいじめられたって嘘をついて、リオンが僕を嫌うように仕向けたんですっ! 僕とリオンは、運命の赤い糸で結ばれているのに……っ。ぐすっ」

 お腹も心も満たされた僕は、失言をしたことに気付かない。

 「言いたいことはそれだけか?」
 「…………っ、あ、兄上?」

 鋭い目付きで睨まれた僕は、助けを求めて父上を見た。
 無表情だったけど、先程までと違い、威圧するような態度に僕は震え上がる。

 そしてその後に発せられた言葉に、僕は驚愕することになっていた。

 










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