209 / 211
209 よく来たな アーノルド
しおりを挟む憂さ晴らしに買い物に出掛けていた僕が帰宅すると、ここ最近、新たに雇われた下っ端の使用人が待っていた。
新人だけど賢くて気が利く男――スパインは、顔も美形だし、僕のお気に入り。
「アーノルド様。手紙が届いております」
「っ、もしかしてリオン?」
その場で飛び跳ねた僕は、スパインからすぐさま手紙を受け取る。
急いで自室に戻る僕は、なぜ執事ではなく、下っ端の男が手紙を持っているのかを疑問に思うことはなかった――。
「リオンはジルベルトと婚約するって話していたけど、正式な発表はされていない。きっと二人はうまくいっていないんだっ! あははっ、笑えるッ! だって、罪人の息子がリオンの婚約者になるだなんて、誰が認めるっていうんだよ? バッカじゃないのっ!」
そう結論付けていた僕だけど、リオンが侍従とも恋仲だという情報も得ていた。
あんな人形みたいに表情が変わらない、なんの面白味もない奴が、リオンに選ばれるはずがないというのに――。
クソみたいな報告をしてきた使用人のことは、即日解雇してやった。
実際には、第四王子殿下と専属侍従が恋仲だと知る者は少なく、報告に来た使用人はすこぶる優秀な人物だったことを、僕は知らない。
それでも念のため、僕の協力者には、リオンの侍従に怪我をさせるように指示を出しておいた。
本当にやる度胸があるかはわからないけど、僕に夢中だったし、心配いらないだろう。
僕と結婚したいとか分不相応なことを話していたし、面倒臭くなっていたから丁度良い。
リオンを満足させるため、テクニックを得るために利用しただけ。
もし僕が、リオン以外の人間と肉体関係があるとバレたら、きっとリオンは怒り狂うと思う。
僕をピュアで病弱な子だと思っているリオンに、僕の裏の顔が露見しないよう、平民共は始末しておかなくては……。
「それに、男娼たちも目障りだっ。ついでに消しちゃおう! いや。金持ちに売るか? 可愛い子が多かったし、間違いなく大金が手に入る。僕って賢すぎっ! ふふっ」
男娼の分際で、今更真っ当に働けると思うこと自体が間違っている。
頭の悪いガキたちだから許してあげるけど。
僕は慈悲深い天使だからね?
「なにより、リオンに守られるのは、僕ひとりで充分なんだ」
紅茶を淹れてくれる執事のオーガストが、そうですね、と同意してくれる。
今後の動きを考えながら、手紙の封を切る。
「っ、父上からだッ!!」
久々に休暇が取れたから、一緒に食事でもどうかとお誘いの手紙だった。
しかも、アシュリー兄上も一緒だ。
「よかったですね、と言いたいところですが……。もしや、なにか察知したのでは」
不安そうにしているオーガストに、僕はにっこりと笑いかけた。
「大丈夫だよ。だって二人は、僕に興味がないんだから」
「っ、アーノルド様……」
僕を心から心配してくれるオーガストが、悲しげな声を出した。
小さな頃からずっとそばにいてくれて、本当の父親だと思っている。
それでもやっぱり、血の繋がった父上に気にかけてもらえたら嬉しい……。
◇
翌日。
おめかしをして王宮に向かう。
全身を白色で包まれている僕は、誰が見ても病弱で儚げな美人だ。
神聖な黒を纏うリオンの隣に立てるのは、僕以外に考えられない。
馬車を降りると、すでに使用人たちが僕を案内するために待っていた。
三男だけど、僕は宰相の息子だから手厚い対応なんだ。
……といっても、僕の中ではジルベルトはリンネス公爵家の一員だとカウントしていないから、僕は次男なんだけどね?
王宮の一室に案内されると、いくら待っても会いに来てくれなかった父上が、ソファーに座って優雅に紅茶を飲んでいた。
無表情だけど、これが父上の通常の顔だ。
「アーノルド。よく来たな」
「父上ッ!」
逃げずに来たんだな、という言葉の意味に気付かない僕は、父上に抱きついていた。
たくさんお喋りをして、今までで一番楽しい時間だったと思う。
リオンに会えなかったのは残念だけど、また今度会えるだろう。
だって僕たちは、運命の赤い糸で結ばれているんだから。
それから馬車に乗り、有名な高級レストランへ移動する。
ふたりは僕のために、予約でいっぱいのフェデフルーを貸切にしてくれていた。
魚介を揚げた『串カツ』という珍しい料理は、最高に美味しかった。
「そうだ! 父上! ジルベルトが、リオンに迷惑をかけているんですっ! 僕にいじめられたって嘘をついて、リオンが僕を嫌うように仕向けたんですっ! 僕とリオンは、運命の赤い糸で結ばれているのに……っ。ぐすっ」
お腹も心も満たされた僕は、失言をしたことに気付かない。
「言いたいことはそれだけか?」
「…………っ、あ、兄上?」
鋭い目付きで睨まれた僕は、助けを求めて父上を見た。
無表情だったけど、先程までと違い、威圧するような態度に僕は震え上がる。
そしてその後に発せられた言葉に、僕は驚愕することになっていた。
23
お気に入りに追加
3,470
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる