202 / 211
202 やっぱりお似合い
しおりを挟む「二年程前に、酒場で声をかけられてから親しくなったそうですが、最近までは、相手が貴族だったことも知らなかったと話していました。それから、肉体関係があったようです」
「……そうか。犯人には、黒幕と連絡を取るように伝えてくれ」
「はい」
冷静に告げた俺だが、ふたりが一線を超えた仲だったことに、内心びっくりしていた。
「それから、襲撃は失敗したことにしよう」
俺の提案にハーヴィーが目を瞬かせる。
成功したと知れば、もしかしたら黒幕が犯人を切り捨てる可能性がある。
そんなことはハーヴィーだってわかっているとは思うが、お馬鹿な俺が言い出したことに驚いたのだろう。
「俺と兄様は、秘密裏に王宮に戻る。犯人のことは頼んだぞ」
「はっ。お任せください」
格好良く指示を出した俺は、表情を引き締めたハーヴィーを見送った。
そして、ファーガス兄様と見つめ合う。
「アーノルドは王子が好きなだけで、俺自身を好きってわけじゃないんじゃ……?」
「アレは、自分の魅力をわかっているのだろう。頭を使うより、体を使う方が早いと判断したんじゃないのか?」
「…………そこまでします?」
俺は無意識のうちにブルッと震えていた。
黒幕はアーノルドだと決めつけていたが、もしかしたら別にいるのか……?
だってアイツは、性交渉のせの字も知らないような顔をしているんだ。
もし犯人の話している通りなら、二人は二年程前から肉体関係にあったらしい。
つまり、俺より随分と早く大人の階段を登っていたことになる。
もしアーノルドが黒幕なら、かなり驚く案件だ。
若干混乱している俺だが、一番怪しい人物には違いないと思う。
「アーノルドが黒幕かはわかりませんが、俺は、リュカとジルベルトと婚約します。俺は、二人を守りたい」
暴君と名高い俺が婚約者なら、間違いなく二人を守れるはずだ。
「ああ、それがいいだろう。王宮にいる間に、ジルベルトはブレスレットを大量に販売し、結果を出している。リオンの隣に並べるように、一人でも努力をしていたぞ? 皆が祝福してくれるだろう」
「っ、」
心からの笑みを浮かべたファーガス兄様。
今までの俺なら、嬉しい感情で溢れていた。
だが、『愛してる』の言葉が、俺の脳内でリフレインしている……。
俺の幸せを願って祝福してくれていると考えただけで、俺は胸が締め付けられていた。
寝台に腰掛けているファーガス兄様に、そっと歩み寄る。
どうした? と微笑む兄様を見つめる俺は、ドクドクと高鳴る胸を押さえた。
「っ、お、俺っ、兄様のことっ──」
「ファーガスッ!!!!」
好きです! と言おうとした瞬間、凄まじい勢いで扉が開いた。
ここにいるはずのない筋肉隆々の美丈夫が、汗だくで現れる。
大股で駆け寄ったロバート様の圧に、俺は一歩後退していた。
「起きていて大丈夫なのか?!」
「デカい声を出すな」
「っ、すまねぇ、響いたか? 刺されたって聞いて、居ても立っても居られなくてっ」
馬を飛ばしてきたらしいロバート様が、ファーガス兄様の全身をペタペタと触る。
俺のことなんて眼中にない。
「なんで無茶したんだっ。お前は俺と違って鍛えてる訳じゃねぇんだ。一歩間違えたら、死んでいたかも知れねぇんだぞ!? もう二度と危険なことをするなっ!」
「……ロバート」
大丈夫だ、暑苦しい、と告げたファーガス兄様だが、その声はとても嬉しそうだった。
ロバート様に触られても、全然平気そうだ。
そのことに、若干ショックを受けている俺。
ファーガス兄様の特別は俺だけだと思っていたけど、例外がいた。
……やっぱりお似合いなんだよなあ。
さっきの兄様の告白がなければ、ふたりは相思相愛にしか見えない。
ファーガス兄様は俺を好きだと話していたけど、ロバート様はどう見ても兄様が好きだ。
俺もロバート様のことは好きだし、ふたりの邪魔をしないようにと、静かに退出していた。
扉の前ではリュカが待機しており、俺はむぎゅっと抱きついた。
しょんぼり顔を見られてしまったのか、俺を優しく包み込んでくれたリュカが、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。
ファーガス兄様とのことは知らないから、きっと犯人と対峙して疲れていると思ったのだろう。
「俺は先に王宮に戻って、今後の対策を練る。リュカには護衛を増やす。夏祭りが終わるまでは、お兄様たちを助けてあげてくれ」
「はい。ですが、ファーガス殿下と戻られるのでは?」
「……ファギー兄様には、ロバート様がついているから大丈夫」
ゆっくりと離れ、なにか言いたげにするリュカの口を塞ぐ。
「リュカも怖い思いをしたんだ。しっかり休むんだぞ? 無理したらダメだからな? リュカのためにも、俺が必ず黒幕を捕まえてやる」
ビシッとキメたのだが、寂しげにするリュカが可愛くて、俺はもう一度ちゅっとキスをする。
「大好きだぞ、リュカ」
「っ、はい。私もです。お気をつけて」
「ああ、リュカもな? 最終日まで頼んだ」
ニッと笑った俺は、ロバート様の愛馬を借りると伝えてくれと告げ、宿を出る。
俺に置いてけぼりにされるだなんて思ってもいない二名を残し、俺は専属護衛を引き連れてノワール領を後にした。
21
お気に入りに追加
3,500
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
出戻り聖女はもう泣かない
たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。
男だけど元聖女。
一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。
「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」
出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。
ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。
表紙絵:CK2さま
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる