嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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202 やっぱりお似合い

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 「二年程前に、酒場で声をかけられてから親しくなったそうですが、最近までは、相手が貴族だったことも知らなかったと話していました。それから、肉体関係があったようです」
 「……そうか。犯人には、黒幕と連絡を取るように伝えてくれ」
 「はい」

 冷静に告げた俺だが、ふたりが一線を超えた仲だったことに、内心びっくりしていた。

 「それから、襲撃は失敗したことにしよう」

 俺の提案にハーヴィーが目を瞬かせる。

 成功したと知れば、もしかしたら黒幕が犯人を切り捨てる可能性がある。
 そんなことはハーヴィーだってわかっているとは思うが、お馬鹿な俺が言い出したことに驚いたのだろう。

 「俺と兄様は、秘密裏に王宮に戻る。犯人のことは頼んだぞ」
 「はっ。お任せください」

 格好良く指示を出した俺は、表情を引き締めたハーヴィーを見送った。
 そして、ファーガス兄様と見つめ合う。

 「アーノルドは王子が好きなだけで、俺自身を好きってわけじゃないんじゃ……?」
 「アレは、自分の魅力をわかっているのだろう。頭を使うより、体を使う方が早いと判断したんじゃないのか?」
 「…………そこまでします?」

 俺は無意識のうちにブルッと震えていた。

 黒幕はアーノルドだと決めつけていたが、もしかしたら別にいるのか……?

 だってアイツは、性交渉のせの字も知らないような顔をしているんだ。
 もし犯人の話している通りなら、二人は二年程前から肉体関係にあったらしい。
 つまり、俺より随分と早く大人の階段を登っていたことになる。

 もしアーノルドが黒幕なら、かなり驚く案件だ。
 若干混乱している俺だが、一番怪しい人物には違いないと思う。

 「アーノルドが黒幕かはわかりませんが、俺は、リュカとジルベルトと婚約します。俺は、二人を守りたい」

 暴君と名高い俺が婚約者なら、間違いなく二人を守れるはずだ。

 「ああ、それがいいだろう。王宮にいる間に、ジルベルトはブレスレットを大量に販売し、結果を出している。リオンの隣に並べるように、一人でも努力をしていたぞ? 皆が祝福してくれるだろう」
 「っ、」

 心からの笑みを浮かべたファーガス兄様。

 今までの俺なら、嬉しい感情で溢れていた。
 だが、『愛してる』の言葉が、俺の脳内でリフレインしている……。

 俺の幸せを願って祝福してくれていると考えただけで、俺は胸が締め付けられていた。

 寝台に腰掛けているファーガス兄様に、そっと歩み寄る。
 どうした? と微笑む兄様を見つめる俺は、ドクドクと高鳴る胸を押さえた。

 「っ、お、俺っ、兄様のことっ──」
 「ファーガスッ!!!!」

 好きです! と言おうとした瞬間、凄まじい勢いで扉が開いた。
 ここにいるはずのない筋肉隆々の美丈夫が、汗だくで現れる。
 大股で駆け寄ったロバート様の圧に、俺は一歩後退していた。

 「起きていて大丈夫なのか?!」
 「デカい声を出すな」
 「っ、すまねぇ、響いたか? 刺されたって聞いて、居ても立っても居られなくてっ」

 馬を飛ばしてきたらしいロバート様が、ファーガス兄様の全身をペタペタと触る。
 俺のことなんて眼中にない。

 「なんで無茶したんだっ。お前は俺と違って鍛えてる訳じゃねぇんだ。一歩間違えたら、死んでいたかも知れねぇんだぞ!? もう二度と危険なことをするなっ!」
 「……ロバート」

 大丈夫だ、暑苦しい、と告げたファーガス兄様だが、その声はとても嬉しそうだった。

 ロバート様に触られても、全然平気そうだ。
 そのことに、若干ショックを受けている俺。
 ファーガス兄様の特別は俺だけだと思っていたけど、例外がいた。

 ……やっぱりお似合いなんだよなあ。

 さっきの兄様の告白がなければ、ふたりは相思相愛にしか見えない。
 ファーガス兄様は俺を好きだと話していたけど、ロバート様はどう見ても兄様が好きだ。
 俺もロバート様のことは好きだし、ふたりの邪魔をしないようにと、静かに退出していた。



 扉の前ではリュカが待機しており、俺はむぎゅっと抱きついた。
 しょんぼり顔を見られてしまったのか、俺を優しく包み込んでくれたリュカが、「大丈夫ですか?」と声をかけてくれる。
 ファーガス兄様とのことは知らないから、きっと犯人と対峙して疲れていると思ったのだろう。

 「俺は先に王宮に戻って、今後の対策を練る。リュカには護衛を増やす。夏祭りが終わるまでは、お兄様たちを助けてあげてくれ」
 「はい。ですが、ファーガス殿下と戻られるのでは?」
 「……ファギー兄様には、ロバート様がついているから大丈夫」

 ゆっくりと離れ、なにか言いたげにするリュカの口を塞ぐ。
 
 「リュカも怖い思いをしたんだ。しっかり休むんだぞ? 無理したらダメだからな? リュカのためにも、俺が必ず黒幕を捕まえてやる」

 ビシッとキメたのだが、寂しげにするリュカが可愛くて、俺はもう一度ちゅっとキスをする。

 「大好きだぞ、リュカ」
 「っ、はい。私もです。お気をつけて」
 「ああ、リュカもな? 最終日まで頼んだ」

 ニッと笑った俺は、ロバート様の愛馬を借りると伝えてくれと告げ、宿を出る。

 俺に置いてけぼりにされるだなんて思ってもいない二名を残し、俺は専属護衛を引き連れてノワール領を後にした。












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