嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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198 カツ丼を出すつもりは毛頭ない

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 捕らえている男のもとへ行くと、なにやら言い合いになっている声がする。
 部屋の前で待機していた二人の護衛が、俺の顔を見て瞬時に頭を下げた。
 無言の俺は、既に暴君モードに入っている。

 「だからっ! 何度も言ってるだろ!? 俺は、緑髪の男を襲ったんだ!」
 「理由は?」
 「せっかく祭りを楽しんでいたのに、馬鹿にしたような目で見られたからだ!」
 「たったそれだけのことで、人を刺そうとするのか? お前には他にも余罪がありそうだな?」
 「っ、あ、あの時は気が立っていたからで……。いつもそんなことしてるわけじゃねぇ!!」

 犯人の怒鳴る声を聞く俺は、首を傾げた。

 ここ最近のリュカは、ノワール伯爵領のために、ずっと走り回っていたんだ。
 祭りに来てくれるお客様に対して、馬鹿にしたような目をするはずがない。

 そんな目を向けられるのは、逆に俺くらいだ。
 ……いや、それはそれでどうかと思うけど。

 呆れるような目を向けられることはあれど、馬鹿にされたことはないか。
 だいたいそういう時は、全面的に俺が悪い。
 ……と、冷静になろうとする俺はひとつ頷いた。

 昔は人形みたいなリュカだったが、今は生き生きした瞳だし、恋人の贔屓目なしにもキレカワ系だと思う。
 見惚れてしまうならわかるが、敵意を持たれるような第一印象ではないはず。

 それに、犯人は平民だ。
 引きこもりの仕事中毒になりつつある俺の専属侍従と、外で出逢うことはまずないだろう。
 リュカを襲った理由は、きっとなにかある。
 そう踏んだ俺は、ドアノブに手をかけた。

 「俺は、ファーガス殿下を狙ったわけじゃないんだっ! それなのに、あのお方が前に出てきたせいで──ッ!!」

 自分は悪くないとばかりに主張する男が、限界まで目を見開く。


 「ほう? 俺の兄様が悪いって言いたいのか?」


 屈強な護衛をゾロゾロと引き連れた暴君の登場に、驚き過ぎて言葉が出てこないようだ。
 平凡な焦茶の髪に、糸目の男。
 さっきまで怒鳴っていたのはこの男かと、聞きたくなるくらいの地味顔だった。

 今まで尋問していた護衛がすっと立ち上がり、俺に席を譲る。
 太々しい態度で椅子に腰掛けた俺は、カツ丼を出すつもりはさらさらなかった。

 「俺にも詳しく聞かせてくれよ」
 「っ、」

 椅子に縛られて、身動きができない状態で拘束されているが、今まで威勢よく話していた男がガタガタと震え出す。
 怯えている男を無言で眺める俺は、口の端を吊り上げて笑っている。


 ファーガス兄様のせいだと、聞き捨てならない言葉を聞いた俺は、完全にブチギレていた。


 「兄様が悪いんだろ? ああ、でも……。もしそうだったとしたら、この場でお前を始末しておかないとな?」
 「ヒッ」
 「なぜ驚く? 平民が王族に刃を向けたんだ。その場で斬り殺されても文句は言えないぞ?」

 それくらいわかっているだろうとばかりに首を傾げる俺は、既に何人もあの世行きにしているイカレタ野郎に見えているはずだ。
 現に、俺が改心したことを知っているはずのエレンですら、息を呑んでいる。

 間違いなく、ヤバイ奴に見えているだろう。

 「兄様はただの被害者だ。そうだろう?」
 「っ、は、はい。その通りです。ま、間違えました。すみませんでした……」

 俺の目の前で震えが止まらない男は、暴君の噂を知っているらしい。
 好都合だ。
 この調子で、全部聞き出そう。

 「なぜ、刺そうとしたんだ?」
 「そ、それは……その……」
 「お前が狙った新緑色の髪の美しい男は、俺のたった一人の専属侍従だ」
 「っ、」

 冷や汗が止まらない男が、ヒュッと息を呑む。
 どうやら知らなかったらしい。

 「もう一度聞く。なぜ、俺の専属侍従を刺そうとした?」
 「っ……あ、し、知らなかったんですっ。お、お許しくださいっ、なんでもしますっ」
 「お前は、恋人はいるのか?」
 「……?」

 急に話が変わって混乱する男が、目を瞬かせる。
 相変わらず俺に怯えながらだが……。

 机に肘をついた俺は、にっこりと天使スマイルを浮かべた。

 「もしお前に恋人や、慕う人がいたとして。その相手が襲われたと知ったら、お前は謝罪されただけで犯人を許せるか?」
 「………………っ!!」

 俺の言いたいことがわかったのか、男の顔から血の気が引く。
 リュカやジルベルトが見たら、『可愛いっ!』と連呼してくれる俺の笑顔なのだが。
 本当の俺を知らない男は、大袈裟なくらいにガクブルしている。
 本気で殺されると感じているらしい。

 「嘘偽りなしで、全てを話せ」
 「っ……は、はいっ。ほ、本当は……頼まれました……」

 激しく頷く男が、半泣きで話し始めた。

 「お、俺の、好きな人が、いて……。でも、緑髪の男に言い寄られて困っているって……。相手は貴族だから、無理やり婚約させられそうだと、泣きつかれて……。だから、あの男が怪我をすれば、傷物になる。そうなったら、俺たちは結ばれる、って言われて……」
 「その男の名は?」

 小さく息を吐いた男が、目を伏せた。


 ──ジルベルト。


 「「「っ…………」」」

 全てを白状して泣き出した男だが、静かに話を聞いていた護衛たち全員が驚愕していた。











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