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192 警戒心……?
しおりを挟む自室に戻ると、ジルベルトが疲れ切った様子でソファーにドサリと腰掛ける。
俺は自室なのに、どうしたら良いかわからず、おろおろとしながら突っ立っていた。
「ファーガス殿下がいてくれたから良かったけど。あいつになにかされたらどうするんだ」
「っ、なにもされてない。アーノルドならまだしも、ジルのお兄様が俺に危害を加えるなんて……」
「リオンはあいつのなにを知ってるの? 俺だって全くと言っていいほど関わったことないのに」
突き放すような言い方をされて、むっと口を尖らせていると、ジルベルトが俺の手を引いて、膝の上に抱き上げる。
「リオンは警戒心がなさすぎる。俺たちがどれだけ心配してると思ってるんだ」
「そんなに心配しなくても、大丈夫なのに」
「……なにそれ。大切な恋人を心配することが、迷惑だってこと?」
「っ、そうじゃない、けど……」
怒気を孕む声に、ぐっと涙を堪えていると、ジルベルトが俺のベールを優しく外した。
「リオンは、クロフォード国で……いや、この世で一番美しい存在なんだ。だから、少しで良いから警戒心を持って欲しい」
警戒心……?
なにか企むアーノルドのことを聞いていただけで、別にやましいことなどなにもない。
それに、ジルベルトが俺を美しいと思っているのは、きっと恋人フィルターがかかっているからだ。
だって俺からすると、ジルベルトの方が完璧な造形美なんだ。
「ジルに言われても……」と思わず本音が漏れると、ジルベルトの目付きが鋭くなった。
「はぁ、あのさ。恋人が二人いる時点で、自分が魅力的なんだってことがわからない?」
「っ……やっぱり責めてる? 俺がリュカとも、恋人になったから……」
溜息を吐いて天井を見上げるジルベルト。
やっぱり俺に恋人が二人いることを、心の底では嫌だと思っていたんだと再確認した。
俺のために我慢させていたんだなと思うと、申し訳ない気持ちになる。
「リュカと……お別れしたら、良いの?」
「っ、今はそういう話じゃないだろ?」
「じゃあ、どういう話? 全然わかんないっ」
ジルベルトの膝の上から降りようとすると、腰をガッチリと掴まれる。
痛みで、うっ、と顔を顰めると、ジルベルトが目を細める。
「嫌なの?」
「ちがうっ、痛かっただけ……」
「っ、ごめんね」
ハッとして腕の力を弱めたジルベルトに優しく抱き寄せられて、俺は情けない顔でしがみつく。
じっと見上げていると、困ったように微笑んだジルベルトが口付けてくれる。
「リオンと関わると、みんな可愛くて優しいリオンに惹かれるんだよ? アレも例外じゃない」
「……そんな、誰もがホイホイ俺を好きになるわけないのに」
ガッと俺の肩を掴んだジルベルトは、額に青筋を立てていた。
「好きになってるから言ってるんだろ?!」
なんでわかってくれないんだと、ジルベルトが顔を歪ませる。
ありえない勘違いをしている。
きちんと説明しても納得してくれなくて、ついに俺の涙腺が崩壊した。
「ぅうっ……なって、ないのに……っく……。まだ二回しか話したことない、し……俺みたいな嫌われ者、っ、好きになるわけないのに……っ」
ぐずぐずと持論を述べると、ジルベルトは困ったように眉を下げて俺を抱き寄せる。
「怒鳴ってごめん。でも、リオンのことが心配なんだよ……愛してるから……」
俺の髪を愛でながら耳元で囁くジルベルトは、柔らかな雰囲気だけど、どこか悩ましい。
「あの人は、欲しいものはどんな手を使ってでも必ず手に入れるような、そんな評判の人なんだよ? あの人が本気を出して、リオンを横から掻っ攫われたら俺はどうすることも出来ない」
「っく……俺は、ジルじゃないと、嫌だよ……。でも、いずれは俺のお義兄様に、なるからっ……嫌われてるより、良い印象持ってもらった方が……ジルとの婚約の時に、っく……反対されないかな、って思って……」
嗚咽を堪える俺の頭に頬ずりをするジルベルトは、ごめん、と呟いた。
「そんな風に考えてくれてたんだ……。それなのに頭ごなしに怒鳴ってごめんね? あの人がリオンに近付いてるって、リュカに聞いて……。なにも知らなかったから、ついカッとなった」
そこでようやく、俺がアシュリー様と関わっていたことを、ジルベルトには話していなかったことに気付いた。
それは心配してもおかしくないと思った俺は、心から謝罪する。
「いや。俺のためだったなら、嬉しい。でも、出来ればもう近かないで欲しい」
「う、うん。でも、挨拶くらいはしてもいい?」
「…………いいよ」
かなり間があったけど、本当は挨拶すらして欲しくないみたいだ。
それから「泣いたから水分補給しないとな?」と珍しくジルベルトが紅茶を入れてくれる。
少し苦い紅茶を飲んで、二人で顔を見合わせて笑った。
ジルベルトの気持ちが嬉しかったから、俺はもちろん全部飲んで、おかわりもした。
アーノルドが襲来してくる可能性が高いことを話し、ジルベルトの守りを強化することに決めた。
もしアーノルドが何かするとしても、俺に暴力はふるわないはず。
それに、多分俺の方が強いしな。
あとは薬の類に気を付けておけば大丈夫だろう。
護衛を増やすことに決めた俺は、特に心配していなかった。
アーノルドの狙いが、俺でもジルベルトでもなかったのに──。
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