192 / 211
192 警戒心……?
しおりを挟む自室に戻ると、ジルベルトが疲れ切った様子でソファーにドサリと腰掛ける。
俺は自室なのに、どうしたら良いかわからず、おろおろとしながら突っ立っていた。
「ファーガス殿下がいてくれたから良かったけど。あいつになにかされたらどうするんだ」
「っ、なにもされてない。アーノルドならまだしも、ジルのお兄様が俺に危害を加えるなんて……」
「リオンはあいつのなにを知ってるの? 俺だって全くと言っていいほど関わったことないのに」
突き放すような言い方をされて、むっと口を尖らせていると、ジルベルトが俺の手を引いて、膝の上に抱き上げる。
「リオンは警戒心がなさすぎる。俺たちがどれだけ心配してると思ってるんだ」
「そんなに心配しなくても、大丈夫なのに」
「……なにそれ。大切な恋人を心配することが、迷惑だってこと?」
「っ、そうじゃない、けど……」
怒気を孕む声に、ぐっと涙を堪えていると、ジルベルトが俺のベールを優しく外した。
「リオンは、クロフォード国で……いや、この世で一番美しい存在なんだ。だから、少しで良いから警戒心を持って欲しい」
警戒心……?
なにか企むアーノルドのことを聞いていただけで、別にやましいことなどなにもない。
それに、ジルベルトが俺を美しいと思っているのは、きっと恋人フィルターがかかっているからだ。
だって俺からすると、ジルベルトの方が完璧な造形美なんだ。
「ジルに言われても……」と思わず本音が漏れると、ジルベルトの目付きが鋭くなった。
「はぁ、あのさ。恋人が二人いる時点で、自分が魅力的なんだってことがわからない?」
「っ……やっぱり責めてる? 俺がリュカとも、恋人になったから……」
溜息を吐いて天井を見上げるジルベルト。
やっぱり俺に恋人が二人いることを、心の底では嫌だと思っていたんだと再確認した。
俺のために我慢させていたんだなと思うと、申し訳ない気持ちになる。
「リュカと……お別れしたら、良いの?」
「っ、今はそういう話じゃないだろ?」
「じゃあ、どういう話? 全然わかんないっ」
ジルベルトの膝の上から降りようとすると、腰をガッチリと掴まれる。
痛みで、うっ、と顔を顰めると、ジルベルトが目を細める。
「嫌なの?」
「ちがうっ、痛かっただけ……」
「っ、ごめんね」
ハッとして腕の力を弱めたジルベルトに優しく抱き寄せられて、俺は情けない顔でしがみつく。
じっと見上げていると、困ったように微笑んだジルベルトが口付けてくれる。
「リオンと関わると、みんな可愛くて優しいリオンに惹かれるんだよ? アレも例外じゃない」
「……そんな、誰もがホイホイ俺を好きになるわけないのに」
ガッと俺の肩を掴んだジルベルトは、額に青筋を立てていた。
「好きになってるから言ってるんだろ?!」
なんでわかってくれないんだと、ジルベルトが顔を歪ませる。
ありえない勘違いをしている。
きちんと説明しても納得してくれなくて、ついに俺の涙腺が崩壊した。
「ぅうっ……なって、ないのに……っく……。まだ二回しか話したことない、し……俺みたいな嫌われ者、っ、好きになるわけないのに……っ」
ぐずぐずと持論を述べると、ジルベルトは困ったように眉を下げて俺を抱き寄せる。
「怒鳴ってごめん。でも、リオンのことが心配なんだよ……愛してるから……」
俺の髪を愛でながら耳元で囁くジルベルトは、柔らかな雰囲気だけど、どこか悩ましい。
「あの人は、欲しいものはどんな手を使ってでも必ず手に入れるような、そんな評判の人なんだよ? あの人が本気を出して、リオンを横から掻っ攫われたら俺はどうすることも出来ない」
「っく……俺は、ジルじゃないと、嫌だよ……。でも、いずれは俺のお義兄様に、なるからっ……嫌われてるより、良い印象持ってもらった方が……ジルとの婚約の時に、っく……反対されないかな、って思って……」
嗚咽を堪える俺の頭に頬ずりをするジルベルトは、ごめん、と呟いた。
「そんな風に考えてくれてたんだ……。それなのに頭ごなしに怒鳴ってごめんね? あの人がリオンに近付いてるって、リュカに聞いて……。なにも知らなかったから、ついカッとなった」
そこでようやく、俺がアシュリー様と関わっていたことを、ジルベルトには話していなかったことに気付いた。
それは心配してもおかしくないと思った俺は、心から謝罪する。
「いや。俺のためだったなら、嬉しい。でも、出来ればもう近かないで欲しい」
「う、うん。でも、挨拶くらいはしてもいい?」
「…………いいよ」
かなり間があったけど、本当は挨拶すらして欲しくないみたいだ。
それから「泣いたから水分補給しないとな?」と珍しくジルベルトが紅茶を入れてくれる。
少し苦い紅茶を飲んで、二人で顔を見合わせて笑った。
ジルベルトの気持ちが嬉しかったから、俺はもちろん全部飲んで、おかわりもした。
アーノルドが襲来してくる可能性が高いことを話し、ジルベルトの守りを強化することに決めた。
もしアーノルドが何かするとしても、俺に暴力はふるわないはず。
それに、多分俺の方が強いしな。
あとは薬の類に気を付けておけば大丈夫だろう。
護衛を増やすことに決めた俺は、特に心配していなかった。
アーノルドの狙いが、俺でもジルベルトでもなかったのに──。
19
お気に入りに追加
3,500
あなたにおすすめの小説
勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。
イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。
力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。
だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。
イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる?
頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい?
俺、男と結婚するのか?

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
他サイトでも公開中

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
幽閉王子は最強皇子に包まれる
皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。
表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!
伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。
いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。
衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!!
パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。
*表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*
ー(*)のマークはRシーンがあります。ー
少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。
ホットランキング 1位(2021.10.17)
ファンタジーランキング1位(2021.10.17)
小説ランキング 1位(2021.10.17)
ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる