嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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176 嫌われないために / ジルベルト

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 勝手に魅了魔法が発動しているだなんて、かなり厄介なことだ。
 だがそんなことより、俺は魔法が解けてしまった時に、リュカとジルベルトにどんな態度をされるのかを恐れていた。
 
 勝手に発動しているのだから、いつ魅了魔法が解けてしまうかもわからない。
 よくいる悪役のように、爪を噛みそうになる俺。

 ……毎日魅了魔法をかけまくればいいのか?
 そんなの、精神的に辛すぎるっ。
 魔法を発動させている自覚もないのに、俺はこれからどうしたらいいんだ!

 二人に嫌われたくないと頭を抱えていると、ファーガス兄様が俺の髪を優しく撫でた。

 「アベルの行動が度を越すようになり、前々から部署異動させるつもりだったんだ。だからリオンは、気にしなくていい。むしろ、なにも言わずに計画を実行してすまなかった……」

 心から謝罪の言葉を紡いだファーガス兄様。
 
 俺は、ジルベルトとリュカのことしか考えていない屑だったのだが……。
 ファーガス兄様は、俺がアベル様に同情していると勘違いしているらしい。
 ……ファーガス兄様がいい人すぎて、心配になるぜ。

 「っ、いいえ。そのことは気にしていません。アベル様には申し訳ないですが……」
 「いや、あれはリオンがなにかをする前に手を出している。自業自得だ」

 若干キレ気味のファーガス兄様が医者を呼び、俺は頭にたんこぶが出来ただけなのに、大袈裟なくらいに包帯をぐるぐる巻きにされていた。





 一方その頃、リオン第四王子殿下に関わる人たちが、国王陛下のもとに招集されていた。

 隣国で、古の魔法を研究しているオースティン・パターソン殿が、メルキオール陛下に首を垂れる。
 まだ三十代らしいが、ダークブラウンの髪は美しいのだが、モサモサ頭で独特な雰囲気の人だ。
 そんな彼が、太い腕輪のようなものを皆に見せた。

 魔法を感知する特別な器具により、リオンは、使ことが伝えられていた。


 「つまり、リオンちゃんが世界一美人だから、アベルは一目惚れしちゃったってこと?」
 「そういうことになりますね。私たちも、リオン殿下があれほどまでに美しく成長しているとは思わず、腰を抜かしそうになりましたよ」
 「うふふ。だから言ってるじゃないっ! リオンちゃんは私の自慢の息子よ!」


 ニコラス王妃陛下と、彼と親しい身内が和気藹々とリオン愛を語っている。
 今度こそ安心出来ると、俺はリュカと顔を見合わせてようやく安堵の息をついていた。

 それから俺たちもリオンの恋人として話に参加し、リュカがリオンの瞳について話していた。
 初体験後に、リオンの漆黒色の瞳にキラキラと輝く星が浮かんでいる。
 うまく説明出来ないが、俺たちはリオンの瞳になにか不思議な力があるのかもしれないと感じていたんだ。


 「いくら一目惚れしたからといって、王子相手に接吻を迫ることなど、ありえるのでしょうか」
 

 一切目が笑っていないリュカが、薄らと微笑を浮かべる。
 招集されているメンバーの中で一番身分が低いのだが、リオンのことになるとすぐに血管が切れてしまうリュカの圧に、俺は鳥肌が立っていた。

 「た、確かにそうよね。おかしいわねっ?!」

 小刻みに頷くニコラス王妃陛下が、ブチギレ三秒前のリュカを宥める。

 俺たちは計画を知ってはいたが、実行される日までは知らなかった。
 まさかこんなに早く動くとは思わなかったし、アベルの野郎がリオンに手を出すなんて想定外だったんだ。
 仕事は大切だが、なによりリオンが一番大切だ。

 リオンのそばについていてあげたかったと、俺とリュカは少しだけ不満がある。
 まあ、俺たちがいたら、他の奴がリオンに魅了される瞬間は、いつまでも来ないと思うけど……。

 黙って話を聞いていたオースティン殿が、ふむとひとつ頷いた。

 「リオン殿下は、前世の記憶をお持ちなのですよね? もしかすると、魅了魔法ではない、なにか不思議な力があるのかもしれません……。もしそうだとすると、私でもお手上げです」
 「っ……そんな」
 「いやしかし、とても興味深い……。是非とも研究対象としてっ──ゴフッ」
 
 他国の人間に、しれっと肘打ちをしたランジェット侯爵は、目が据わっている。
 ロバート殿もリオン愛がエグいが、この人もなかなかだと思った。



 それからすぐ、リオンが怪我の治療を終えたと報告を受けた俺たちは、一旦解散することになった。

 急いでリオンの部屋に行くと、俺は頭を包帯でぐるぐる巻きにされた天使に飛びつかれていた。

 「っ、リオン、大丈夫だった?」

 俺の胸元に顔を埋めるリオンは、小さくこくりと頷くだけで、なにも話さない。

 相当怖い思いをしたのだろうと、俺とリュカは怒りに震えていた。
 リュカが黒髪を優しく撫でると、リオンがそっと顔を上げる。
 瞳に涙を浮かべているリオンが、激しく瞬きをして、可愛すぎて倒れそうになった。


 「今日から毎日、おはようと、いってきますと、ただいまと、おやすみのキスを、しようと思う」
 「…………うん?」


 そう言って俺たちに、可愛らしく触れるだけのキスをしたリオン。
 俺たちが照れた顔をすると、リオンの顔がぱあっと華やいだ。

 『出来た!』と小さくガッツポーズをして走り出したリオンは、たぶん、魅了魔法を使っている気になっている……。
 

 「なんだあれ、可愛すぎないか?」
 「ふふっ。当分は黙っておきましょうか」


 面白いものが見れそうだと、悪い顔をするリュカは、早速今夜リオンを慰めるためと偽り、添い寝をする約束をしていた。






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