嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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165 偽者疑惑

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 暫し黙っていたアシュリー様だが、『こちらこそ光栄です』と返事をしてくれた。
 無表情ではあるが、及第点に達したようだ。
 挨拶もそこそこに、お忙しいアシュリー様はすぐに本題に入った。

 「私はここ数年、ジルベルトとは全く顔を合わせていませんが……。最近、ジルベルトが王宮に部屋を借りていると耳にしまして。リオン殿下のご指示でしょうか?」
 「はい。ジルベルトとは一緒に事業をしているので、お手伝いしてもらっているんです。まあ、お手伝いと言っても、俺が発案したものを優秀なジルベルトが形にしてくれて、俺は特になにもしていないんですけどね?」

 ジルベルトの頑張りを思い出しながらくすりと笑うと、アシュリー様は僅かに首を傾げる。

 「リオン殿下は、ジルベルトよりアーノルドと懇意にしてくださっていると……」
 「ああ、アーノルドとは幼馴染みなので、仲良くはしていましたね」
 「そうですか。てっきり、リオン殿下の婚約者はアーノルドなのだと認識しておりまして」
 「え? そんな予定はありませんけど……」
 「……なるほど」
 
 一瞬、難しい顔をしたアシュリー様。
 なにを言いたいのかよくわからないけど、弟二人のことを心配しているのだろうか? 

 「リオン殿下とジルベルトが仲睦まじく、まるで恋人のようだと小耳に挟んだのですが」
 「あはは、そうなんですね。あんなイケメンと恋人だと噂してもらえるなんて、光栄です」

 実際、恋人だけどな!
 アシュリー様は、リンネス公爵邸での復讐劇を知らないようだ。
 ジルベルトはまだ秘密にしたいようだから、俺はうふふと笑って躱してみる。
 だが、アシュリー様はじっと俺のことを観察し続ける。
 ……ベールを装着していて良かったぜ。

 紅茶を口に含んだアシュリー様は、一つ頷いて俺に視線を向ける。

 「私はどちらかがリオン殿下の婚約者になるのなら、ジルベルトでもアーノルドでも、どちらでも良いのです。ただ、どちらも婚約者候補ですらないとなると、リンネス公爵家としては……」
 「困りますか?」
 「ええ、単刀直入に申しますと」

 お馬鹿な俺にもわかるように、濁さず話してくれるアシュリー様。
 確実に気を遣わせてしまっていると察した俺は、なるべく優しい声を出す。

 「安心してください。いずれはリンネス家の方と婚約するつもりですよ?」
 
 要するに、アーノルドとは婚約する気はないが、ジルベルトと婚約する気があると伝えてみた。
 すると、さっきまで張り詰めていたアシュリー様の空気が、少しだけ和らいだ気がした。

 「そうですか。少し気がかりだったもので、お呼び立てして申し訳ありません」
 「いえ、構いませんよ? アシュリー様はいずれは俺のお義兄様になるんですから」

 俺の言葉に目を見張るアシュリー様は、何も答えずに話を変えた。

 「ベールは外されないのですか? 病だとお伺いしましたが、室内では日の光も当たりませんし、外されても宜しいのでは?」
 「あっ。それはですね……」

 やっとベールの話になったと、俺は若干ウキウキしてしまう。
 だが、アシュリー様の目付きが鋭くなった。


 「貴方は本物のリオン殿下ですか?」
 「……え?」


 ベールのせいか、俺が偽者だと疑われている。

 困ったな。
 ベールは絶対に外さないようにと言われているんだけど……。
 ジルベルトのお兄様に疑われるのは、今後のことを考えるとあまりよろしくないよな?

 チラリとリュカに視線を向ければ、首を横に振られる。
 うん、やっぱりそうだよね!

 「正真正銘、リオン・クロフォードですよ」
 「お顔を拝見させていただきたい」
 「室内でも光が眩しくて……」
 「偽者ならば、ジルベルトとの婚約を認める事はできません」
 
 ハッキリとジルベルトの名前を出された俺は、内心深い溜息を吐く。

 まあ、別に顔を見られたからってなんともならないと思うけど、みんなとの約束を破ることになるのが心苦しい。

 リュカにごめんなとアイコンタクトをとり、俺はベールを外した。


 「これで安心できましたか?」


 にこっと笑いかけると、アシュリー様の赤ピンク色の大きな目がカッと見開いた。

 なぜか言葉を失った様子のアシュリー様。
 無言の時間があまりに長すぎて、心配になった俺は首を傾げた。

 「っ……ほ、本物、ですか?」
 「ええっ?? 顔を見せたのに?!」
 「あ、いえ……申し訳ありませんっ」

 視線を彷徨わせて、再度俺の顔を見るアシュリー様は、なにを考えているのかよくわからない。

 「ジルベルトのお兄様であるアシュリー様とは、これから仲良く出来たら良いな、と思っていますので。今回は特別ですよ?」

 俺はジルベルトの妻になるんだからな!

 『愛してるよ』って囁く、俺の王子様の笑顔を思い出す。
 だらしない顔になっていると、目の前にいるアシュリー様も、俺と同じような顔をしていた。

 日に焼けていない白い頬が、赤くなっている。
 ……部屋が暑いのか?

 「アシュリー様?」
 「あ、あと……それと、執事から連絡がありまして……アーノルドを秘密裏に王宮に招き入れてほしいと……それで気になって……」
 「秘密裏にですか……。ということは、俺に会うためではないですよね?」
 「いえ、執事の話によれば、あれはリオン殿下以外に興味がないと」

 ふむ。
 それなら堂々と会いに来たら良いのに。
 なにか企んでいるのか?
 まさか、いつまでも王宮に留まるジルベルトに焦れて、なにかするつもりじゃ?!

 絶対に許さんと黒いオーラを出す俺を、なぜかアシュリー様がうっとりとした顔で見つめていた。

 ……アシュリー様こそ偽者かっ!?









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