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156 泣きたいのは俺の方
しおりを挟むジルベルトも俺を抱きたいと言っていたし、きっと俺がリュカと初体験を終わらせたから、寂しい想いをしているはずだ。
二人とも俺の大切な恋人だから、悲しまさせたくない。
だから、ジルベルトをこっそりお誘いしたんだけど……。
『身体が辛いだろうから、最低でも一週間は安静にして? 俺のことは気にしなくても良いから。俺はリオンのためなら、いつまでも待ち続けるよ』
なんて、めちゃくちゃ優しい事を言われてしまった。
惚れてまうやろっ!
いや、もうすでにベタ惚れなんだけどさ?
絶世の美青年の顔を見上げると、口許を手で隠しながら俺に熱い視線を向けられた。
きっとキスがしたいけど我慢しているんだろう。
本当に優男っ。
だから、恥ずかしいけど俺からお誘いする。
「キスもダメ?」
「っ、キスしたら、止められなくなりそうだから……」
「別に止めなくても良いのに……。ジルは俺の恋人でしょ?」
「っ……あ、ああ。そうだけど……」
口ごもるジルベルトに、もう一押しかな? と思って太腿に手を置いてみた。
すると、眉間に皺を寄せたジルベルトがすっと離れていく。
止められなくなりそうだって言ってたけど、リュカと結ばれた俺のことはもう嫌いになって、触れられたくないのかもしれない。
「リ、リオンっ、やめてくれ」
「…………ごめん」
やっぱり二人同時に付き合うなんて、不器用な俺には無理なのかもしれない。
二人のことを同じくらい大切に想っていても、俺が対応を間違えると二人を悲しませてしまう。
でも二人とも俺の大切な存在だし、離れて行って欲しくない。
前世も含めて、恋愛経験がほぼない俺は、こんなときにどうしたら良いのかわからない。
このままじゃ、ジルベルトを失うことになる。
そう思うと、目頭が熱くなってきた。
「リオン?」
「ごめっ……俺、会議に行かないとっ」
俺はガウン姿のまま、逃げ出すように部屋の扉まで走った。
扉を開けようとすると、背後からバンッと叩きつけるように扉を強く押さえるジルベルトに、俺は取手に手をかけたまま固まってしまう。
「駄目だよ、そんな姿のまま部屋を出たら」
「……うん。着替えてくる」
「着替えても駄目」
取手を握り続けている俺の手の上に、ジルベルトの手が重なる。
「リオン。傷つけてしまったならごめん。今のリオンに触れてしまったら、優しく出来そうにない」
「……そう、だよな」
やっぱり怒ってるよな……。
元々、俺の初めて出来た恋人はジルベルトだったわけで……。
それなのに、俺は先にリュカとの結ばれた。
ジルベルトがどんなに心が広くても、良い気はしないだろう。
「嫌な思いさせてごめん。俺はジルと離れたくないけど、それ以上に傷つけたくないと思ってる。だから、ジルがもうしんどいなって思うなら、いつでも俺から解放するから……」
添えるように置かれていた手にグッと力が入る。
「もう、そういうことは二度と言わないで、ってお願いしたよね?」
怒気を孕む声に、体がピクッと揺れる。
肩を掴まれ急に体が反転し、俺の背中にトンと扉の冷たい感触。
俺の顔の横にジルベルトの腕が伸びて来て、逃げられないように囲われてしまう。
「リオンの初めてがリュカのものになったことに、嫉妬はしてるよ? でも、だからってリオンを嫌いになるなんてことは絶対にないから」
「……うん」
「だから、勝手に俺の気持ちを決めつけて、離れても良いだなんて言わないでね?」
恐る恐る頷く俺を、目を細めてじっくりと見つめるジルベルトはかなり怒っているように見える。
「普通に傷つくから」
「っ、ごめん、なさい……」
「リオンはさ。俺がそういうことは言わないでって頼んでるのに、また言うってことは、本当は俺と別れたいの?」
「ち、ちがっ」
「俺がリオンと別れたら、前に告白してくれた使用人達と肌を重ねて、身体だけでも慰めてもらおうかな?」
「っ!」
ジルベルトが俺以外と肌を重ねている想像をしただけで、じわじわと涙が込み上げてくる。
俺はリュカと肌を重ねたのに、ジルベルトには他の人としないで欲しいと願ってしまう。
そんなことを考えてしまう俺は、ずるくて心底嫌な奴だ。
「もしリオンと別れたとして。後からリオンがそんなことしないでって頼んできても、俺は無視するよ? だってリオンは、俺が離れても良いと思ってるんだもんね? リオンにとっての俺は、その程度の存在ってことだよね?」
そういうつもりで言ったわけじゃないのに、ジルベルトに勘違いされて、なんて説明したら良いのかわからなくて、涙がボロボロと溢れてしまう。
「泣きたいのは俺の方なんだけど」
「っ、ごめっ、ごめん、なさいっ……ッ……も、泣かないっ…………ふぅッ…………っく」
いつもは「泣かないで?」って優しく接してくれるのに、今は吐き捨てるように言われて、ジルベルトが本気で怒っていることがひしひしと伝わってくる。
涙を止めたいのに、全然止まる気配がない。
絶対嫌われた。
こんなうじうじしている俺なんて、めんどくさいに決まってる。
必死になって呼吸を整える俺を見ながら、ぶつぶつとなにかを呟くジルベルトは、嗚咽を堪えてしゃくりあげる俺に優しくキスをしたのだった。
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