嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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141 もうどうだっていい リュカ

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 愛する方の傍を離れ、久しぶりに実家に戻った私は、兄たちの仕事を手伝っていた。
 今まで侍従の仕事しかしていなかったのだから、うまくことを運べず、毎日悪戦苦闘している。
 それでも仕事をしている間は、リオン殿下のことを忘れられる。
 だから私は、一日中仕事に没頭していた。



 気付けば二ヶ月が経過し、仕事にも慣れ始めていた頃──。

 領地の見回りを終えた私の元に、今日も次男のリカルドが、疲れた様子で話しかけてくる。

 「リュカのそのピアス、本物だろう? 家族のため、領民のために、金に替えて欲しい」
 「兄さん……。何度も言ってますよね? これは私の敬愛する方にいただいたものなんです。それをお金に替えるだなんて……」
 「贅沢するためじゃなく、領民のためなんだ! 少しは領民のことも考えてくれ!」
 
 狡い言い方をするリカルドに、私は溜息を吐くことしかできない。

 口を開けば領民のため、領民のため……。
 私のことはどうでも良いのか?
 それに、このピアスを売るより、他にやれることがあるだろう。
 確かにラピスラズリを売れば、お金にはなるが、それも一時凌ぎにしかならない。
 兄たちもわかっているのだろうが、毎日のように懇願されて、頭がおかしくなりそうだ。

 だからと言って、私は兄たちの前でピアスを外すことはない。
 リオン殿下の傍にいることができなくても、繋がっている気がするから……。

 ピアスを売ることを断固拒否していると、それならば、どこか裕福な家に嫁げと言われる。
 兄たちが、本気で言っていないことくらいわかっている。
 嫁ぎたくないならピアスを手放せ、そう言っているのだ。





 深夜まで仕事をし、遅い時間の夕食を取る。
 
 ここにリオン殿下がいたなら、『残業、ダメ、絶対っ!』と、頬を膨らませていたことだろう。
 それに、食卓には、幸せな気持ちになる、愛情たっぷりの美味しい料理が並んでいる。
 一緒に食事をすることが当たり前になっていたが、主人と食事の席を共にする侍従など、この世に私しかいないだろう。
 質素な料理が不味いわけではないのに、なんの味も感じられない。

 自ら恵まれた環境を手放したというのに、今でもリオン殿下に会いたくて会いたくて、たまらない気持ちになってしまう自分が疎ましい。

 食事が進まない私を眺めていたリカルドが、食いたくないなら食うなと、溜息を吐いた。
 そして今日もまた、金のために嫁げと話をされ、なにもかもどうでも良くなった私は、頷いていた。

 「わかりました。ペロス男爵家に嫁ぎます」
 「っ! リュカ!」
 「本気か? あの男は、加虐性愛者で何人も愛人がいるんだぞ?」
 「かまいません。ですから」

 嫌味のように言ってやると、兄二人が顔を歪めて唸り声を上げる。

 「なんでそこまでして……。それは誰にもらったんだ? リオン殿下か?」
 「ええ、それが何か?」
 「リオン殿下といえば、傍若無人の我儘王子だろう? 湯水のように金を使って、気に食わないことがあれば暴力で解決して、陛下もそんな野蛮な男を放置しているし。そんな奴に…………ヒッ!」
 
 関わったこともないくせに、私の愛する人の何を知っていると言うのだ。
 ペラペラとデタラメを並べるリカルドの口を縫い付けてやろうか。

 「ま、まあまあ、リュカ、落ち着いて……」
 「私は落ち着いていますよ?」
 「そ、そうか……。でも、私もリオン殿下とは会ったことはないが、悪い噂しか聞いたことがない。それに、リュカも言っていたじゃないか。リオン殿下は我儘でどうしようもないって……」

 病でやつれた兄のリリベルクは、心底わからないといった様子で眉を下げる。

 「悪評は、昔のリオン殿下です。今の彼は全くの別人です。弱き者に手を差し伸べて、痛みを分かちあえる……そんな素晴らしい方です」
 「そうなのか……。リュカが言うのだから、素敵な人なんだろう。私も一度ご挨拶してみたいな」

 憤慨していた私も、リリベルクの言葉に心を落ち着かせて微笑んだ。

 「このピアスは、彼から特別に戴いたものなんです。友人四人でブレスレットを作ったのですが、侍従の仕事中はブレスレットが邪魔になるからと、わざわざ配慮していただいたのです。彼にとっては普通のことだったのかもしれませんが、私はそのお気遣いが嬉しかったのです。それに、困った時は売って良いとも言われました」
 「っ、それなら!」
 「一時凌ぎのお金のために、私は大切な思い出まで売りたくありません。そんなことをするくらいなら、加虐性愛者だろうが、愛人がいようが、容姿が醜いジジイだろうが、嫁ぐことを選びます」

 結局、兄たちは決意の固い私に、それ以上何も言ってこなかった。
 でも、経営が圧迫しているのは事実。
 ギリギリまで粘ってみたが、もうペロス男爵家に資金援助してもらうしか道はない。
 私は、自らペロス男爵家に嫁ぐと告げた。

 最初は反対されたものの、もう残す手はないと、最後は申し訳ないと、兄二人に頭を下げられた。

 別に気にしなくて良い。
 相手がリオン殿下でないなら、誰に嫁ごうがどうだって良いのだから……。







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