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134 ビッチはお断り ロバート

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 絶版となった官能小説を後輩からぶんどった俺は、さっそく自室に戻って読み始めた。
 寝台の上に寝転び、小説を読むなんていつぶりだと思いながら読み進める。
 なかなか面白いストーリーに、俺は時間を忘れて夢中になっていた。

 勇者リオネルが魔王討伐後、忠誠を誓っていたはずの仲間たちに、次々と犯されていく。

 「主人に恋心を抱かないようにしていた彼らだが、皆、漆黒色の瞳に魅了される。気付けば、敬愛する主人を組み敷いていた……」

 勇者リオネルに赦しをこう臣下たち。
 二度と同じ過ちを犯さないと誓いを立てたが、彼を抱いた時のことを忘れることが出来ず、同じ過ちを繰り返した。

 「おい、マジかよ……。これって、あの時の俺と同じじゃねぇか?」

 リオンちゃんの漆黒色の瞳を見ていると、今すぐ自分のものにしたい衝動が湧き上がる。
 俺はファーガスの恋を全力で応援しているはずなのに、だ。

 もちろんリオンちゃんのことは可愛いと思ってるし、ファーガスの想い人でなければ、俺はすぐにでもアタックしている。
 それでも、長年弟に恋をするファーガスを押し退けてまで、自分のものにしたいとは思っていない。

 だが、今もし瞳をうるうるさせたリオンちゃんに告白されたら、俺はきっとファーガスのことも忘れて、確実に受け入れるだろう。

 「やべぇな、重症化してる」

 自嘲気味に呟き、天使のように愛らしいリオンちゃんの漆黒色の瞳を思い出す。

 「……とりあえず一回抜くか」

 官能小説を読むより、少量のアルコールで酔っぱらったリオンちゃんを思い出しただけで、俺のブツは勃起していた。
 小説を閉じて、発散する。

 ファーガスもきっと喜ぶだろうと確信している俺は、さっそく契約上の婚約者に会いにいく。



 深夜だろうがお構いなしに突撃すると、仕事をしていたらしいファーガスが、不機嫌そうに腕組みをする。

 「ロバート、極秘任務だ」
 「……あのなァ。おつかれ~とか、婚約者を労わる挨拶はなしか? リオンちゃんを見習えよ」

 来て早々、面倒くさい匂いがプンプンする。
 小説を片手にソファーにどっかりと座ると、いつも以上に険しい表情のファーガスが、俺の対面に腰掛けた。

 「今回は快楽拷問の方だ」
 「あん? そっち系の仕事は、全部セオドル坊やの担当だろ? なんで俺が」
 「相手は、アーノルド・リンネスだ」
 「ああ~。噂のビッチちゃんか」
 「奴がリオンに危害を加える前に、堕とせ」
 「……無茶言うなよ」

 百戦錬磨じゃなかったのかと、馬鹿にしたような笑みを浮かべたファーガス。
 俺はげっそりとしながら、わかっていないなとばかりに溜め息を吐く。
 
 「確かに顔は可愛いけど、俺はピュアな子がタイプなんだ。股がゆるいのはお断り。俺が性病になってもいいのかよ?」
 「かまわん」
 「……死ねよ」

 相変わらず、リオンちゃんのことしか考えていないファーガス。
 俺たちがセックスすることなんてありえないのだから、俺もファーガスが性病になったところで、ご愁傷様としか思わないが。
 だが、もう少し優しくしろと、目をつり上げる。

 「十年以上初恋拗らせたヘタレの駄目男」
 「黙れ、脳筋が。私は一途なんだ」
 「重っ。リオンちゃんに嫌われちまえ」
 「お前がな」

 深夜に婚約者と二人きりになっても、決して甘い空気になることはなく、悪口を言い合う俺たちは、もっと他のことに時間を使った方がいいだろう。

 ファーガスも同じ気持ちだったらしく、さっさと消えろと告げられ、俺が触れた場所を掃除し始めた。
 リオンちゃんといる時とは大違いだ。
 めちゃくちゃ感じ悪い奴なんだが、病気だから仕方がない。

 「あ、そうそう。その小説、貸してやるよ。主役はリオンちゃんだ」
 「っ……なんだと」

 不特定多数が触れたものを特に嫌がるファーガスは、いつものように常備している白手袋をして、小説を手に取った。
 
 分厚い小説を、瞬く間に読み終えた男が目を伏せる。

 「確かにリオンだ。私に思い当たる節がある」
 「なに?!」
 「兄上が、初代国王リオネル・クロフォードの熱狂的な信者だということは知っているな?」
 「ああ、有名だな?」
 「そういえば、幼い頃、兄上がよく話していた。彼は人を惹きつけるような、魅了の力を持っていると」
 「……魅了?」

 そんなお伽話みたいなことがあるわけないだろうと思ったのだが、ファーガスは確信している様子だった。

 「私もその時は戯言だと信じていなかった。だが、リオンに見つめられると、衝動を抑えることが出来なくなる……。リオンの目に、なにか不思議な力があるのかもしれない。必ず守らなければ……」

 鋭くなるファーガスの目には、すでに俺の存在は消えていた。

 ……アーノルド・リンネスのことは、裏の仕事を引き受けているその道のプロセオドル坊やに丸投げしよう。そうしよう。
 








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