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134 ビッチはお断り ロバート
しおりを挟む絶版となった官能小説を後輩からぶんどった俺は、さっそく自室に戻って読み始めた。
寝台の上に寝転び、小説を読むなんていつぶりだと思いながら読み進める。
なかなか面白いストーリーに、俺は時間を忘れて夢中になっていた。
勇者リオネルが魔王討伐後、忠誠を誓っていたはずの仲間たちに、次々と犯されていく。
「主人に恋心を抱かないようにしていた彼らだが、皆、漆黒色の瞳に魅了される。気付けば、敬愛する主人を組み敷いていた……」
勇者リオネルに赦しをこう臣下たち。
二度と同じ過ちを犯さないと誓いを立てたが、彼を抱いた時のことを忘れることが出来ず、同じ過ちを繰り返した。
「おい、マジかよ……。これって、あの時の俺と同じじゃねぇか?」
リオンちゃんの漆黒色の瞳を見ていると、今すぐ自分のものにしたい衝動が湧き上がる。
俺はファーガスの恋を全力で応援しているはずなのに、だ。
もちろんリオンちゃんのことは可愛いと思ってるし、ファーガスの想い人でなければ、俺はすぐにでもアタックしている。
それでも、長年弟に恋をするファーガスを押し退けてまで、自分のものにしたいとは思っていない。
だが、今もし瞳をうるうるさせたリオンちゃんに告白されたら、俺はきっとファーガスのことも忘れて、確実に受け入れるだろう。
「やべぇな、重症化してる」
自嘲気味に呟き、天使のように愛らしいリオンちゃんの漆黒色の瞳を思い出す。
「……とりあえず一回抜くか」
官能小説を読むより、少量のアルコールで酔っぱらったリオンちゃんを思い出しただけで、俺のブツは勃起していた。
小説を閉じて、発散する。
ファーガスもきっと喜ぶだろうと確信している俺は、さっそく契約上の婚約者に会いにいく。
◆
深夜だろうがお構いなしに突撃すると、仕事をしていたらしいファーガスが、不機嫌そうに腕組みをする。
「ロバート、極秘任務だ」
「……あのなァ。おつかれ~とか、婚約者を労わる挨拶はなしか? リオンちゃんを見習えよ」
来て早々、面倒くさい匂いがプンプンする。
小説を片手にソファーにどっかりと座ると、いつも以上に険しい表情のファーガスが、俺の対面に腰掛けた。
「今回は快楽拷問の方だ」
「あん? そっち系の仕事は、全部セオドル坊やの担当だろ? なんで俺が」
「相手は、アーノルド・リンネスだ」
「ああ~。噂のビッチちゃんか」
「奴がリオンに危害を加える前に、堕とせ」
「……無茶言うなよ」
百戦錬磨じゃなかったのかと、馬鹿にしたような笑みを浮かべたファーガス。
俺はげっそりとしながら、わかっていないなとばかりに溜め息を吐く。
「確かに顔は可愛いけど、俺はピュアな子がタイプなんだ。股がゆるいのはお断り。俺が性病になってもいいのかよ?」
「かまわん」
「……死ねよ」
相変わらず、リオンちゃんのことしか考えていないファーガス。
俺たちがセックスすることなんてありえないのだから、俺もファーガスが性病になったところで、ご愁傷様としか思わないが。
だが、もう少し優しくしろと、目をつり上げる。
「十年以上初恋拗らせたヘタレの駄目男」
「黙れ、脳筋が。私は一途なんだ」
「重っ。リオンちゃんに嫌われちまえ」
「お前がな」
深夜に婚約者と二人きりになっても、決して甘い空気になることはなく、悪口を言い合う俺たちは、もっと他のことに時間を使った方がいいだろう。
ファーガスも同じ気持ちだったらしく、さっさと消えろと告げられ、俺が触れた場所を掃除し始めた。
リオンちゃんといる時とは大違いだ。
めちゃくちゃ感じ悪い奴なんだが、病気だから仕方がない。
「あ、そうそう。その小説、貸してやるよ。主役はリオンちゃんだ」
「っ……なんだと」
不特定多数が触れたものを特に嫌がるファーガスは、いつものように常備している白手袋をして、小説を手に取った。
分厚い小説を、瞬く間に読み終えた男が目を伏せる。
「確かにリオンだ。私に思い当たる節がある」
「なに?!」
「兄上が、初代国王リオネル・クロフォードの熱狂的な信者だということは知っているな?」
「ああ、有名だな?」
「そういえば、幼い頃、兄上がよく話していた。彼は人を惹きつけるような、魅了の力を持っていると」
「……魅了?」
そんなお伽話みたいなことがあるわけないだろうと思ったのだが、ファーガスは確信している様子だった。
「私もその時は戯言だと信じていなかった。だが、リオンに見つめられると、衝動を抑えることが出来なくなる……。リオンの目に、なにか不思議な力があるのかもしれない。必ず守らなければ……」
鋭くなるファーガスの目には、すでに俺の存在は消えていた。
……アーノルド・リンネスのことは、裏の仕事を引き受けているその道のプロに丸投げしよう。そうしよう。
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大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
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