嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

文字の大きさ
上 下
124 / 211

124 完璧な男

しおりを挟む

 ふわふわとした気持ちのままジルベルトに寄りかかっていると、俺の体を綺麗に洗ってくれ、タオルで拭いてくれる。
 
 嫌な顔一つせず、むしろ全てを任せて欲しいと告げたジルベルトは、嬉しそうにせっせと俺のお世話をしてくれている。
 本当は自分で出来るのだが、俺はジルベルトの優しさに甘えていた。

 前世で恋人がいたことはあったが、こんな風に甘えたことなんて一度もない。
 むしろ甘やかす係だった気がする。
 ……主に金銭面で。
 比べるまでもないが、俺の恋人はめちゃくちゃ優しいと思う。

 俺がジルベルトのために用意した、マシュマロのような触り心地のバスローブを着せてもらい、幸せだなとはにかんだ。
 そんな俺を見て、綺麗な顔をくしゃっとさせたジルベルト。

 「可愛い……」
 「っ……」

 この短時間で、一体何回目の可愛いだっ!
 
 恥ずかしくなっていたのだが、ジルベルトは未だに服を着たままで、しかもびしょ濡れだ。
 俺は、慌ててジルベルトの服を掴む。

 「ジルベルトの体も洗おうか?」
 「いや、良いよ」
 「でもびしょ濡れだ、風邪引くぞ?」
 「部屋で少し待ってて。一人で出来るから」

 頑なに拒むジルベルトに横抱きにされ、部屋に戻り、ソファーにおろしてくれた。

 俺も手伝いたいとお願いしてみたのだが、なぜか受け入れてもらえない。

 不満げに口を尖らせると、ジルベルトが苦笑いを浮かべた。

 「リオンには、今の体を見せたくない」
 「そ、そうか……」

 俺の裸は見てるのに、ジルベルトは見せてくれないのか。
 恋人になったのに、なんだか距離を感じてしまう。

 顔には出さないように気をつけていたが、ジルベルトはへにゃりと困ったように笑った。

 「ごめん、また誤解させた? リオンのことがすごく好きだから、今のやつれた体を見せられない。リオンにかっこいいと思われたいから……。恋人の前で、俺にかっこつけさせて?」

 意外な返答に俺は固まってしまった。

 体を見られたくなかったのは、そういう理由だったのか。
 痩せていようが傷があろうが、別に何とも思わないだろうけど、少しは同情するかもしれない。
 俺にそんな風に思われたくなかったのか。
 逆を言えば、リュカには見せたということは、そういう対象として見ていないというわけで……。
 
 嬉しくなった俺は、じわじわと熱くなる頬を両手で押さえる。

 「わかった。でも、ジルベルトが今よりかっこよくなったらちょっと困るけど……。待ってるね?」

 笑顔でこてんと首を傾げると、なぜかジルベルトが悶絶し始めて、それから俺が酸欠になるまでキスをされ続けた。



 そしてジルベルトが湯浴みを終えて戻って来ると、俺は一週間分の話をしていた。

 「ずっと遊んでいたわけじゃないからな?」

 俺の書き溜めた書類を手渡すと、ジルベルトは少し濡れた金色の髪を掻き上げる。
 至極色っぽい仕草に目が釘付けになっていると、薄い唇からは困ったような溜息が吐き出された。

 「絵本は読むものであって、飛び出すものではないんだ。そのぶっ飛んだ発想は、どこから湧いて出て来るんだ?」
 「……ば、馬鹿と天才は紙一重なんだ」
 
 最初はイチャイチャしていたのだが、結局仕事の話になる俺たち。

 だが、王子様のお膝の上に抱っこされている俺は、長い黒髪を撫で撫でされている。
 以前までは睨まれ、隣に座るのも嫌がっていたのに、別人のように俺を可愛がるジルベルト。
 好きな子には優しくするタイプなんだとわかった。

 冷静に分析をした俺だが、尊敬の眼差しを向けられて、もじもじとする。
 
 「試しに作ってみる。子供たちもきっと喜ぶと思う。うまくいけば、ファーガス殿下が商品化してくれそうだ。あのお方、リオンのことを溺愛しているからな?」
 
 いつもなら、頼んだぞと声をかける俺だが、こくりと頷くだけで終わる。
 
 そんな俺に、小さく笑ったジルベルト。
 よしよしされながらボロ宿に泊まったことも話せば、ピタリと手が止まった。

 「あの護衛と二人で泊まったのか? 同じ部屋で?」
 
 ぞくりと寒気が走る俺は、目を泳がせた。

 「別に、なにもなかったぞ?」
 「……リオン。危険な行為だ。恋人以外とは、二人きりにならないように気をつけてくれ。なにかあったらどうするんだ」
 「うっ……。でも、嫌われ者の俺が好かれるわけないし、大丈夫だと思うけど……ヒッ」

 視線を上げれば、無表情のイケメンと目が合う。

 イエス以外の返答は望んでいない様子のジルベルトに見下ろされて、こくこくと頷いた。

 「っ、ご、ごめんなさぃっ。これからは、ジルベルトだけにする……」
 
 険しい表情になるジルベルトだが、顔が赤く染まっていく。
 心配なんだと頬を優しく撫でられて、俺はよくわからないまま頷いた。

 きっと、多分、許してもらえたらしい。

 それから部屋まで送ってもらい、俺の部屋の前に立っていたエレンに『おめでとうございます』と、俺たちの仲を祝福してもらった。
 
 「あの本はもういらないですね?」
 「っ、ばか、余計なことを言うな!」
 
 神父様にもらった官能小説のことをすっかりと忘れていた俺。
 変態だとバレるだろうと焦る俺は、本は返さなくて良いと、エレンにプレゼントすることにした。

 








しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

勇者召喚に巻き込まれて追放されたのに、どうして王子のお前がついてくる。

イコ
BL
魔族と戦争を繰り広げている王国は、人材不足のために勇者召喚を行なった。 力ある勇者たちは優遇され、巻き込まれた主人公は追放される。 だが、そんな主人公に優しく声をかけてくれたのは、召喚した側の第五王子様だった。 イケメンの王子様の領地で一緒に領地経営? えっ、男女どっちでも結婚ができる? 頼りになる俺を手放したくないから結婚してほしい? 俺、男と結婚するのか?

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

聖女としてきたはずが要らないと言われてしまったため、異世界でふわふわパンを焼こうと思います!

伊桜らな
ファンタジー
家業パン屋さんで働くメルは、パンが大好き。 いきなり聖女召喚の儀やらで異世界に呼ばれちゃったのに「いらない」と言われて追い出されてしまう。どうすればいいか分からなかったとき、公爵家当主に拾われ公爵家にお世話になる。 衣食住は確保できたって思ったのに、パンが美味しくないしめちゃくちゃ硬い!! パン好きなメルは、厨房を使いふわふわパン作りを始める。  *表紙画は月兎なつめ様に描いて頂きました。*  ー(*)のマークはRシーンがあります。ー  少しだけ展開を変えました。申し訳ありません。  ホットランキング 1位(2021.10.17)  ファンタジーランキング1位(2021.10.17)  小説ランキング 1位(2021.10.17)  ありがとうございます。読んでくださる皆様に感謝です。

悪役令嬢は永眠しました

詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」 長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。 だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。 ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」 *思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

愛されない皇妃~最強の母になります!~

椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』 やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。 夫も子どもも――そして、皇妃の地位。 最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。 けれど、そこからが問題だ。 皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。 そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど…… 皇帝一家を倒した大魔女。 大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!? ※表紙は作成者様からお借りしてます。 ※他サイト様に掲載しております。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

処理中です...