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124 完璧な男
しおりを挟むふわふわとした気持ちのままジルベルトに寄りかかっていると、俺の体を綺麗に洗ってくれ、タオルで拭いてくれる。
嫌な顔一つせず、むしろ全てを任せて欲しいと告げたジルベルトは、嬉しそうにせっせと俺のお世話をしてくれている。
本当は自分で出来るのだが、俺はジルベルトの優しさに甘えていた。
前世で恋人がいたことはあったが、こんな風に甘えたことなんて一度もない。
むしろ甘やかす係だった気がする。
……主に金銭面で。
比べるまでもないが、俺の恋人はめちゃくちゃ優しいと思う。
俺がジルベルトのために用意した、マシュマロのような触り心地のバスローブを着せてもらい、幸せだなとはにかんだ。
そんな俺を見て、綺麗な顔をくしゃっとさせたジルベルト。
「可愛い……」
「っ……」
この短時間で、一体何回目の可愛いだっ!
恥ずかしくなっていたのだが、ジルベルトは未だに服を着たままで、しかもびしょ濡れだ。
俺は、慌ててジルベルトの服を掴む。
「ジルベルトの体も洗おうか?」
「いや、良いよ」
「でもびしょ濡れだ、風邪引くぞ?」
「部屋で少し待ってて。一人で出来るから」
頑なに拒むジルベルトに横抱きにされ、部屋に戻り、ソファーにおろしてくれた。
俺も手伝いたいとお願いしてみたのだが、なぜか受け入れてもらえない。
不満げに口を尖らせると、ジルベルトが苦笑いを浮かべた。
「リオンには、今の体を見せたくない」
「そ、そうか……」
俺の裸は見てるのに、ジルベルトは見せてくれないのか。
恋人になったのに、なんだか距離を感じてしまう。
顔には出さないように気をつけていたが、ジルベルトはへにゃりと困ったように笑った。
「ごめん、また誤解させた? リオンのことがすごく好きだから、今のやつれた体を見せられない。リオンにかっこいいと思われたいから……。恋人の前で、俺にかっこつけさせて?」
意外な返答に俺は固まってしまった。
体を見られたくなかったのは、そういう理由だったのか。
痩せていようが傷があろうが、別に何とも思わないだろうけど、少しは同情するかもしれない。
俺にそんな風に思われたくなかったのか。
逆を言えば、リュカには見せたということは、そういう対象として見ていないというわけで……。
嬉しくなった俺は、じわじわと熱くなる頬を両手で押さえる。
「わかった。でも、ジルベルトが今よりかっこよくなったらちょっと困るけど……。待ってるね?」
笑顔でこてんと首を傾げると、なぜかジルベルトが悶絶し始めて、それから俺が酸欠になるまでキスをされ続けた。
そしてジルベルトが湯浴みを終えて戻って来ると、俺は一週間分の話をしていた。
「ずっと遊んでいたわけじゃないからな?」
俺の書き溜めた書類を手渡すと、ジルベルトは少し濡れた金色の髪を掻き上げる。
至極色っぽい仕草に目が釘付けになっていると、薄い唇からは困ったような溜息が吐き出された。
「絵本は読むものであって、飛び出すものではないんだ。そのぶっ飛んだ発想は、どこから湧いて出て来るんだ?」
「……ば、馬鹿と天才は紙一重なんだ」
最初はイチャイチャしていたのだが、結局仕事の話になる俺たち。
だが、王子様のお膝の上に抱っこされている俺は、長い黒髪を撫で撫でされている。
以前までは睨まれ、隣に座るのも嫌がっていたのに、別人のように俺を可愛がるジルベルト。
好きな子には優しくするタイプなんだとわかった。
冷静に分析をした俺だが、尊敬の眼差しを向けられて、もじもじとする。
「試しに作ってみる。子供たちもきっと喜ぶと思う。うまくいけば、ファーガス殿下が商品化してくれそうだ。あのお方も、リオンのことを溺愛しているからな?」
いつもなら、頼んだぞと声をかける俺だが、こくりと頷くだけで終わる。
そんな俺に、小さく笑ったジルベルト。
よしよしされながらボロ宿に泊まったことも話せば、ピタリと手が止まった。
「あの護衛と二人で泊まったのか? 同じ部屋で?」
ぞくりと寒気が走る俺は、目を泳がせた。
「別に、なにもなかったぞ?」
「……リオン。危険な行為だ。恋人以外とは、二人きりにならないように気をつけてくれ。なにかあったらどうするんだ」
「うっ……。でも、嫌われ者の俺が好かれるわけないし、大丈夫だと思うけど……ヒッ」
視線を上げれば、無表情のイケメンと目が合う。
イエス以外の返答は望んでいない様子のジルベルトに見下ろされて、こくこくと頷いた。
「っ、ご、ごめんなさぃっ。これからは、ジルベルトだけにする……」
険しい表情になるジルベルトだが、顔が赤く染まっていく。
心配なんだと頬を優しく撫でられて、俺はよくわからないまま頷いた。
きっと、多分、許してもらえたらしい。
それから部屋まで送ってもらい、俺の部屋の前に立っていたエレンに『おめでとうございます』と、俺たちの仲を祝福してもらった。
「あの本はもういらないですね?」
「っ、ばか、余計なことを言うな!」
神父様にもらった官能小説のことをすっかりと忘れていた俺。
変態だとバレるだろうと焦る俺は、本は返さなくて良いと、エレンにプレゼントすることにした。
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