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120 復讐
しおりを挟む左腕にアーノルドをぶら下げている俺の意識は、全てジルベルトに注がれていた。
「ねぇ、リオンッ!! 聞いてる?」
「っ……あ、ああ、なんだ?」
「大切な用事があるんでしょう?」
そう言ってもじもじとしているアーノルドは、桃色の髪飾りに触れる。
確か、アーノルドに強請られて、過去に俺がプレゼントしたものだ。
全身を見れば、いつもよりおめかししていることに気が付いた。
真っ白なジャケットに白タイツ姿は、儚げなアーノルドがさらに幼く見える。
過去の俺が、よく褒めていた格好だ。
俺は髪も瞳も黒だからか、アーノルドの穢れを知らない純真無垢な雰囲気に、俺が守ってあげなければいけないと思っていた。
だが、容姿はピュアそうだが、内面は俺と同じ真っ黒。
そう考えると、周囲からお似合いだと勘違いされてもおかしくはないな、と思ってしまった。
「もしかして緊張してる……? 大丈夫だよ、心の準備は出来てるからッ」
苦い顔をしている俺の背を撫でたアーノルドが、ぴったりとくっついてくる。
……病人設定を完全に忘れてるよな?
しかも、大切な用事ってなんなんだ?
逆に教えてくれと首を傾げていると、静かに歩み寄るジルベルトが俺の前で膝を折った。
耳元でアーノルドの叫び声が聞こえたが、ジルベルトが俺の手を取り、跪くだけで、絵本の中の王子様のような、一枚の美しい絵画を見ているような気分になっていた。
「俺は、リオンが好きだ」
ジルベルトの言葉に、その場にいた全員が息を呑んだ。
そんなことはお構いなしのジルベルトの空色の瞳は、驚く俺だけを見つめていた。
「俺を気遣ってくれたときから、ずっとリオンに惹かれていた……。仕事のパートナーとして、俺を選んでくれて嬉しかった。リオンに認められたと思ったら、嬉しくて仕方なかった。リオンに触れると、胸がドキドキして心臓が破裂しそうになる。俺はリオンの傍を離れたくない。リオンと共に同じ未来を歩みたい……」
心からそう思っているように告げたジルベルトは、小さく息を吐く。
「リオン・クロフォード。どうか、俺と結婚して欲しい」
───────え?
予想だにしなかった衝撃的な内容に声が出ない。
プ、プロポーズ……だよな?
そのことを俺の脳が理解するまで、かなり長い時間がかかった。
ただ瞬きを繰り返す俺からの言葉を、じっと待つジルベルトは、本気の目をしていた。
「俺は、リオンを愛してる」
アイシテル。
あいしてる。
…………愛してるッ!?
頭の中で、ジルベルトの言葉がリフレインしている。
ジルベルトが、俺を、愛してる?
ようやく理解できた俺は、ボンっと顔から湯気が出た。
多分、いや確実に。
初めて受けた告白が、プロポーズで、しかも相手は真面目な王子様系イケメン。
実際は俺が王子なのに、今はジルベルトが王子にしか見えない。
「なに言ってるんだよっ!? 自分がなにを言ってんのかわかってるの!?」
アーノルドの金切り声にはっとした俺は、立ち上がっていた。
「俺も、ジルベルトが好きだ」
「っ、リオン!?!? リオンまで、なに言ってるの!?」
呆然とするアーノルドは、限界まで目を見開いていた。
ジルベルトが俺を本当に愛しているような演技に、俺まで騙されそうになったぜ。
奴らに仕返しをしたいんだよな?
ジルベルトの手を握る俺は、演技だとわかっていると空色の瞳を見上げた。
……あれ?
演技にしては、めちゃくちゃ熱っぽくないか?
そう思った時には、俺はジルベルトに抱きしめられていた。
「嬉しい」
「……ジル、ッ」
大勢の前で口を塞がれた俺は、目の前の美しい顔をガン見していた。
……やりすぎだろう。
いや、これくらいやった方が、ジルベルトはすっきりするのか?
普段の嫌がらせの延長?
戸惑っていると、暴れ出すアーノルドを片手で拘束するエレンが、パチリとウィンクをかます。
主人が困っている姿を見て、楽しむなと言ってやりたい。
俺はアドリブには弱いんだと、溜息が出そうになるのを堪える。
「俺の恋人を蔑ろにする奴は、相手が父様であっても許さない。ジルベルトに触れても良いのは、恋人である俺だけだ。これ以上は言わなくてもわかるな?」
傍若無人の俺様モード全開で告げると、使用人たちが騒めき出す。
執事のオーガストなんて、真っ青な顔で腰を抜かしていた。
ジルベルトを虐げていたことがバレていると、気付いたのだろう。
だが、俺もそのうちの一人だったのだから、俺の態度が変わったことに動揺を隠しきれないようだ。
「近々、俺はジルベルトと婚約する。大切な報告は以上だ」
フンと尊大な態度をしている俺は、次にリンネス公爵邸に来たときは、ジルベルトの部屋がグレードアップしていることを祈る。
あと使用人も、総入れ替えしてやりたい。
ぐるりと使用人たちを見回すと、全員が縮み上がっていた。
その中でも一人だけ満面の笑みを浮かべるジルベルトが、使用人たちを威嚇する俺の腰を抱く。
仲睦まじい姿を見せつけているらしい。
ちょ、演技でも恥ずかしいだろう……。
お前は、自分の美貌をわかっていてやっているのか? と問いかけたい。
ジルベルトの腕をやんわりと離すと、ショックを受けたような顔をされてしまった。
捨てられた子犬のような顔に弱い俺は、ジルベルトと手を繋ぐ。
「リオン……」
「っ、行くぞ」
嬉しそうに俺の手を握り返してきたジルベルトをグイグイと引っ張って、俺たちはリンネス公爵邸を後にした。
想像とは違った形になったが、ジルベルトの復讐に協力することが出来た俺は、大満足していた。
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