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108 妄想癖が酷い病らしい
しおりを挟む屈強な騎士に羽交い締めにされ、背中をバシバシと叩かれる俺は、呼吸が止まりかけていた。
「本当にありがとなぁ? リオンちゃんのおかげで、俺の楽しみが増えたぜッ!」
「うぐっ……骨が折れる……」
白目を剥く俺に感謝のキスをしようとするロバート様は、大好きな婚約者からローキックを食らう。
ファーガス兄様に蹴り飛ばされたにも関わらず、ロバート様はニコニコ笑顔だった。
「次は俺も交ぜてくれよ?」
「はいっ!? そこはお二人で……」
「いやぁ~! 楽しみすぎて、すでにぼっ──」
今度は股間を蹴り上げられたロバート様は、さすがに急所は耐えられなかったらしく、蹲っていた。
だが、なぜか笑い声を上げるロバート様。
そんな彼を見下ろす絶対零度の視線のファーガス兄様に、俺はぶるりと震える。
でも最後は、ロバート様が嫌がる素振りを見せるファーガス兄様の肩を組む。
ファーガス兄様は人との触れ合いが苦手なのに、ロバート様は特別なんだと感じた。
ちょっとだけ羨ましいなと思う俺だが、仲睦まじい二人と食事をして、親睦を深めた。
なぜか最後に、『今後もファーガスのことをよろしく頼んだッ!』とロバート様に告げられる。
「でも、もう俺じゃなくてロバート様が……」
「なにか言ったか?」
にっこにこの笑顔なんだが、目が笑っていない。
世紀末覇者に威圧された俺は、ぶんぶんと激しく首を横に振る。
「っ……な、なんでもありませんッ!!」
「おう。二人の子供が楽しみだぜッ! 絶対に可愛いだろうなァ~! リオンちゃんに似ていることを祈るっ。名前は考えておくからな?」
「…………ん?」
なにやら興奮気味のロバート様は、早く子供服を買いに行こうと、呆れ顔のファーガス兄様に詰め寄っていた。
「すまないな、アイツのことは気にするな。妄想癖が酷い、深刻な病なんだ」
「なるほど……。ファギー兄様が支えてあげないとですね?」
俺に耳打ちをしたファーガス兄様を見上げて微笑むと、兄様が目を丸くする。
「ククッ。ああ、しっかりと手綱を握っておく」
美しい笑みに見惚れていると、『次も楽しみにしている』と甘い声で囁かれる。
瞬時に昨夜のことを思い出してしまう俺は、真っ赤な顔で逃げるように退出する羽目になった。
◆
ご機嫌な二人と別れた俺は、その帰りに、ファーガス兄様の侍従三人組に遭遇した。
無表情で歩いていたバニー君、カール君、コリン君。
可愛い名前の三人が、俺の顔を見るとニコニコと笑顔を向けてくれる。
「リオン殿下! お身体は大丈夫ですか?」
「心配かけてごめんね? もう元気だよ!」
声をかけてくれたバニー君の灰色の髪をなでなでとしながら答える。
カール君とコリン君も頭を撫でて欲しそうに、キラキラとした視線を送ってくる。
可愛い小動物が餌に寄ってきているようだ。
自然と俺の口調も、優しいものに変わる。
「仕事は辛くない? 困ったことがあったらなんでも言ってね?」
「はい! あ、あの、僕がブレンドした紅茶です! 良かったら飲んでください!」
「えっ! カール君が作ったの? 嬉しいな、ありがとう。味わって飲むね?」
くるくるとした癖毛を直すように触ると、恥ずかしそうに頬を染めて、人差し指同士をつんつんとさせていた。
可愛すぎるぞっ、カール君!
その技は、俺も使わせてもらおうと思う。
「二人ばっかりズルイ! 僕も、リオン殿下のためならいつでも子守唄を歌いますっ!」
「ふふっ、コリン君も良い子良い子」
「っ、つ、次はいつ来てくださるんですか?」
「呼んでくれたらいつでも行くよ? あ、でも今日は二人がラブラブしてるから、邪魔しちゃダメだよ?」
内緒のポーズを取ると、三人がこくこくと激しく頷いていた。
「お仕事大変だろうけど、無理しないでね?」
「はい! ありがとうございます。リオン殿下がお疲れの際は、僕が肩を揉みますので!」
「ぼ、僕も! 疲れの取れる紅茶を淹れます!」
「僕も! 子守唄を歌います!」
元気な三人に囲まれて、ありがとう、と感謝の言葉を告げた。
俺は無邪気な子供達に囲まれた、小学校の先生にでもなった気分だ。
「早く仕事に戻りなさい。リオン殿下はお疲れなのですよ?」
ワイワイと喋っていると、リュカの低い声が聞こえてくる。
……あ、リュカ、いつからいたんだっけ?
そんなことを考えていると、真顔のリュカがパンっと手を叩いた。
「ああ、そうそう。マッサージも、紅茶も、子守唄も、間に合っていますので。ご心配なく」
その場が凍りつくような声に、俺は三人を抱きしめながらぷるぷると震えていた。
た、確かに全部してくれたけど、マッサージと子守唄は一度だけだったぞ!?
さも、毎日しているかのように告げたリュカは、なぜか不機嫌である。
「リュ、リュカ? どうして怒ってるんだ?」
「さて。どうしてでしょうね?」
「えぇ~。わからないんだけど……」
「貴方様の小さな脳では一生かかってもわからないでしょうね?」
「酷っ! リュカの意地悪っ!」
「意地悪で結構。早く行きますよ」
リュカに腕を強めに引っ張られて、情けない顔で痛い痛いと喚く俺は、呆然とする三人に手を振りながら部屋に連行されるのだった。
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