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102 俺がいなくても
しおりを挟む意を決して部屋に戻ると、治療を終えたジルベルトとリュカが、肩を組んで笑っていた。
……うん。もう、最っっ悪ッ!!
二人が恋に落ちると予想はしていたけど、実際に見ると辛い。
珍しく真剣に話を聞いてくれたセオドル兄様が、『俺が傷付くような結果にはならない』って言ったから、俺は元気を取り戻せたというのにっ!
話を聞いてくれたことには感謝しているけど、無駄に期待させるようなことを言ったセオドル兄様を恨めしく思ってしまう。
セオドル兄様は決して悪くないのに、俺の邪悪な心が顔を出す。
「リオン殿下、お待たせしてすみません」
「……別に」
ぶすっと不貞腐れた態度で答えると、ジルベルトが苦笑いを浮かべる。
それからすぐに、リュカに視線を向けている。
恋しい人を目で追ってしまうらしい。
リュカを見れば、俺の前でしか見せないような、うっとりとした表情で俺たちを見ていた。
正確には、ジルベルトを見ているのだろう。
たった一時間ほどの間で、二人は恋に落ちてしまった……。
しかも、美形同士、めちゃくちゃお似合いだ。
俺はそんな二人をただ見守ることしかできない。
よろよろとソファーに腰掛け、今後のジルベルトのことを話した。
周囲には、体調を崩したジルベルトがそのまま王宮で静養している、という噂を流すことにした。
苦しい言い訳かもしれないが、当分の間、ジルベルトは部屋に篭ることに決めた。
ただ、このまま王宮に居続けることはできないから、何か良い案を考えなければならない。
熟考していると、ジルベルトが唐突に『リオン殿下の婚約者にして欲しい』と言い始めた。
「ジルベルトは、本当に俺で良いのか?」
「俺はリオン殿下が良いんです」
「そ、そうか……」
仕事の話以外では、あまり自己主張しないタイプのジルベルトが、はっきりと言い切った。
それは俺の専属侍従がリュカだから、俺と居ればリュカに会えるからそう言っているのだろうか?
リュカをチラリと見れば、頷かれた。
二人は既に話し合っているらしい。
リュカは伯爵家の三男だし、婚約するなら王族の俺の方が、ジルベルトを守るには都合が良いわけで……。
なんだか利用されている気がして、気が滅入る。
俺は過去に散々なことをしてきたのだから、利用されても仕方がないと思うけど、やっぱり辛い。
精神的苦痛より、殴ってくれた方がまだマシだ。
だが、加害者である俺が、そんな醜い感情を口にすることは死んでも出来ない。
すぐに了承しなければならないのに、俺なかなか首を縦に振ることが出来なかった。
「リオン殿下?」
「え? な、なんでもない……ちょっと考え事」
「俺では、リオン殿下に釣り合いませんか?」
「いや、そういうわけじゃなくて……」
「……そうですか」
捨てられた子犬のような目をされて、俺の胸がズキリと痛む。
いや、泣きたいのは俺の方だからな?!
少し考えさせてくれとお願いをして、ブレスレットの話に切り替えた。
先延ばしにしても意味がないことはわかっているけど、ジルベルトとリュカが少しでも一緒にいる時間を減らしたい。
そんな意地悪なことを考えてしまう自分が、心底嫌になる。
ブレスレットの件は、評判の悪い俺は影で尽力して、表に立つのはジルベルトにお願いすることにした。
もちろん、リュカにも色々と手伝って貰う。
俺のドス黒い心の中では、二人の時間を減らしたいと願っているのに、リュカをこの件に参加させている俺は、一体なにがしたいんだろう……?
二人がああだこうだと仲良く言い合う姿を見ながら、心の中で深い溜息を吐く。
あっという間に打ち解けている二人に、俺の心が荒んでいく。
「リオン殿下はどう思いますか?」
「……あ、ごめん。聞いてなかった」
「大丈夫ですか? 顔色が悪いです」
「ふふっ。ジルベルトに言われると、変な感じだな?」
まったく仕事の話を聞いていないのに、疲れ切っている俺は、苦笑いを浮かべた。
以前までは、顔色が悪かったのはジルベルトの方だったのに。
そんなジルベルトに心配されてしまう俺は、相当酷い顔をしているらしい。
心配そうに俺を見ていた二人が、顔を見合わせて頷き合う。
なんなの、その息ピッタリな感じ。
アイコンタクトしちゃってさ。
俺だけ仲間外れじゃん……。
「別に、俺が居なくても、良くないか?」
ぽろりと愚痴をこぼしてしまった俺は、ハッとして立ち上がった。
「ごめん! 今のナシ! ちょっと用事を思い出したから、ファギー兄様のところ行ってくる」
俺は二人の顔が見れなくて、そのまま部屋から飛び出していた。
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