嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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87 助っ人

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 水色の春空に、まばらな白い雲が浮かんでいる。
 まるで、期待と不安の入り混じった俺の心が映し出されているように見えた……。
 
 元王宮料理長の新作料理を、安価な値段で食べれると噂が広まり、大通りに構える露店の前では、多くの人で賑わっていた。

 だが、良い香りだと興奮していた人々が、揚げたての地味料理を目視し、一斉に後退る。

 三百円は攻め過ぎたのかもしれないと、冷や汗が流れる俺は、建物の影に隠れて人々の反応を伺っていた。

 「ど、どうしようっ! このままじゃ、一個も売れない予感がするっ!」
 「落ち着いてください、リオン殿下。こんな時のために助っ人を頼んでいますので、ご安心を」
 「……助っ人?」

 俺の隣に立ち、遅刻ですね、と若干苛立った口調のリュカの目付きが、殺人鬼のように鋭くなった。
 どんなピンチな時でも頼れる男だが、その目はやめろとぶるりと震える。

 バッカスさんの知名度はなかなかのもので、人が大勢集まっている。
 だが、皆が周囲の人間の顔色を窺い、棒立ちだ。
 この場を離れないだけまだマシだが、食べてもらえないと意味がない。

 焦る俺は、ぐるぐると考え込み、小さな脳を回転させる。
 そして、閃いた!

 油の前で汗を掻くバッカスさんの隣に立ち、コロッケを一口大にカットする。
 大皿に乗せて、戸惑う人々の前に出て行った。

 「よろしければ、味見を……。無料ですよっ!」

 フードを目深に被る不審者が声を上げる。

 試食をしてもらおうと思ったのだが、誰一人として動かなかった。
 ただ、匂いには惹きつけられてはいるようで、ごくりと唾の飲む音が聞こえて来る。

 とにかく誰か食べてみてくれと、大皿を持ちながら半泣きになっていると、大男が俺の前に立った。

 「んん~ッ! やっぱり最高だなッ! 一足先に王宮で食べてはいたが、揚げたてが一番だぜ!」

 コロッケを試食して、パチンと格好良くウィンクをしてくれた救世主の登場に、俺は本気で涙が出そうになっていた。

 「っ、ロバート様っ!!」
 「遅くなってわりぃな。抜け出すのに時間がかかっちまった」
 
 赤髪を掻き上げる美丈夫が、『コロッケ五つ!』と注文し、どよめきが起こった。

 「ランジェット侯爵家のロバート様だ!」
 「美食家で有名なお方が認めたということは、相当美味しいものなのでは!?」

 騎士団に所属するロバート様は、平民の間でもかなり有名人のようだ。
 おかげで、みんなが興味を示してくれている。

 リュカが言っていた助っ人はロバート様だったと分かり、驚きと喜びの感情が湧き上がる。
 その場で飛び跳ねそうになるのを、なんとか我慢した俺は、笑みを浮かべた。
 
 「わざわざ来てくださったのですか?」
 「当たり前だろ? リオンちゃんのためなら、どこへだって行くぜっ!」
 「っ、ありがとうございますッ!!」
 「ぐっ……。そんな目で見るな……」

 涙を堪えてお礼を告げると、ロバート様は苦しげに胸元を押さえた。
 
 「この前は悪かった」
 「い、いえ。俺、酔ってたみたいで、ほとんど記憶がないんです。むしろ、迷惑をかけてすみませんでした」
 
 本当は全部覚えているのだが、ロバート様とは仲良しでいたい俺は、笑顔で嘘を吐く。

 くわっと目が見開かれたと思ったら、ギラつく黄金色に見下ろされる。
 背筋に寒気が走った瞬間、大男の背後から現れた人物が、ロバート様の首根っこを掴んだ。

 「どうやら本気で殺されたいらしいな?」
 「っ、なんだお前か。助かった……」
 
 堂々と現れた第二王子殿下の姿に、人々の興奮がピークに達する。

 もちろん理由は、ファーガス兄様がイケメンすぎるからだ。
 黄色い声で鼓膜が破けそうなのだが、兄様は動じていない。
 さすが、俺とは出来が違う王子様だ。

 だが、ファーガス兄様に怒鳴られてから、俺はこれ以上大好きな兄様に嫌われたくなくて、距離を置いている。

 みんなが兄様に目が釘付けになっている中、俺だけはさりげなく視線を逸らした。
 
 「バッカス。私にも五つくれ」
 「畏まりました」

 揚げたてのコロッケを受け取り、その場で一口食べたファーガス兄様に、俺の目が点になる。

 王族が普通に買い食いしている姿を見せても良いのか?!
 しかも、兄様はいつも食べてるのに……。
 バッカスさんのために?
 それとも……、俺のため?

 それはポジティブすぎるかと思いながらも、胸がときめいていると、兄様が『最高に美味い』と褒め言葉を告げた。

 大量の金貨を支払い、釣りはいらないと告げる男前に、度肝を抜かれる平民たち。(プラス、俺。)

 慌ててリュカを見れば、首を横に振っていた。

 自らの意思で足を運んでくれたことが分かり、共に来ていた護衛たちにも、ご馳走すると告げている兄様を眺める俺は、胸が熱くなっていた。
 














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