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70 兄様の優しさ

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 俺の生暖かい眼差しに、ロバート様が凛々しい顔を歪ませる。

 「リオンちゃん? 勘違いだからな?」
 「ふふっ、別に隠さなくても良いですよ? すごくお似合いです」
 「うん、ダメだこりゃ」

 頭を抱えるロバート様は、ファーガス兄様とラブラブな関係を俺にバレたことが恥ずかしいらしい。

 最初はロバート様の見た目が恐ろしかったけど、随分と可愛らしいお方だ。

 「リオン?」
 「あ、ちょっと感動していました。ファギー兄様の愛する方が、こんなに可愛らしい方だったなんて……」
 「カワイラシイ……?」
 「ええ、とっても」

 キラキラとした眼差しのままファーガス兄様を見れば、口許を手で隠して恥ずかしそうにしていた。

 「ふふっ、兄様、良かったですね? ファギー兄様の幸せそうな顔が見れて、俺も嬉しいです!」
 「そ、そうか……」
 「だからリオンちゃん? 勘違いだぞ?」
 「もう! ロバート様は照れ屋さんなんですね? 可愛いですっ」
 「ほわぁ?! な、なんで俺が、照れ屋なんだよ?! おかしいだろ! お、おい! ファーガス! なんとか言ってやれ!」
 「…………ロバート、諦めろ」

 照れ隠しをして騒ぐロバート様を、優しいファーガス兄様が宥めるという、最高にラブラブなシチュエーション。

 武闘派のロバート様と、インテリ系のファーガス兄様。
 なんと尊い二人なのだろう。

 イケメン二人を崇めていると、ロバート様が白目を剥いてヨロヨロとソファーに腰掛けた。
 そんなロバート様の疲労を少しでも回復させようと、肩を揉むファーガス兄様。

 ラブラブすぎて、二人が眩しいぜっ!



 「ん? これはなんだ?」

 ファーガス兄様が、出来上がったばかりのトランプを手に取る。

 「これはトランプという、カードゲームです! 兄様たちも一緒に遊びますか?」
 「リオンはまた才能を開花させたんだな……。困ったことになった」
 「へ?」
 
 俺に求婚する人が増えると、要らぬ心配をするファーガス兄様は真顔だ。
 
 うんうんと頷いていたロバート様が、トランプを手に取り、ハッと凛々しいお顔を煌めかせた。

 「おい。見てみろ」
 「っ…………これは、私か?」
 「これって、脈有りなんじゃねぇの?」
 「………………黙れ。脳筋が」
 「プッ。随分と間があったなァ? 普段は冷めた顔してるくせに、まるで別人だなァ?」

 麗しいお顔が描かれているジョーカーを手に取るファーガス兄様は、深海色の瞳が若干潤んでいた。

 ジルベルトの画力に感動したらしい。
 ふふふ、俺が見つけた才能だっ!

 なにもしていない俺だが、ドヤ顔を披露する。



 四人にババ抜きのルールを教えて、さっそく卓を囲んだ。
 兄様たちにも紅茶を用意し、立ったまま控えているリュカの手を取る。

 「リュカも一緒にやろう?」
 「ですが……」
 「絶対に楽しいからっ!」
 「……そういうことではなく」
 「カードゲームは好きじゃないのか?」
 
 困ったように眉を下げたリュカ。

 嫌がっている人を無理やり誘うのも良くないなと思ったが、しゅんとした顔をしてしまう。
 そんな俺を見たリュカから『ただの侍従ですから……』と小さな声が聞こえた。

 俺はジャックを手に取り、リュカに手渡す。

 「俺はリュカと一緒にやりたい。ダメ?」
 「っ…………わかりました」
 「やった! 負けたら罰ゲームな?」
 「ふふっ。お手柔らかに」
 
 珍しく人前で頬を緩ませたリュカに、俺も笑顔を向けた。

 簡単なルールだから、みんながすぐに覚えて、ワイワイと語りながらカードを引く。
 特に、表情が顔に出ないファーガス兄様は、ババ抜きに滅法強かった。
 だが、わざと俺にジョーカーを引かせないようにするという、優しさを見せている。

 色っぽい視線で誘導されるのだが、俺は敢えて目を瞑ってカードを引く。

 「あっ……。ファギー兄様だった! でも負けたのに、勝った気分ッ!」
 「…………」
 「おい、ファーガス。目を覚ませ」

 勝利したのにフリーズしているファーガス兄様。

 俺が負けてもニコニコしているから、驚いているのだと思う。
 以前の俺は自分が一番な我儘王子だったから、どんな小さな勝負でも、負けると駄々を捏ねていた。
 だからファーガス兄様は、わざわざ俺を勝たせようとしてくれていたのだと思う。
 弟を楽しませようとしてくれる兄様は、本当に優しい人だ。

 忙しい二人をあまり引き留めてはいけないと、解散することにし、トランプを片付けた俺は、兄様に手渡した。

 「ファギー兄様にプレゼントです。暇な時にロバート様と一緒に遊んでください」
 「……ありがとう、リオン」
 
 それはそれは嬉しそうに笑ったファーガス兄様に、俺はズキュンと胸を撃ち抜かれる。

 「兄様に喜んで貰えて嬉しいです……」

 俺も満面の笑みを向けると、兄様はトランプで目が疲労したのか、長い指で目頭を押さえた。

 「…………全てリオンの顔にして、商品化する」
 「へ?」
 「いや、駄目だな。リオンの可愛さは秘匿するべきだ」
 
 トランプを見つめるファーガス兄様は、『もうひと勝負!』と、黄金色の瞳を輝かせる世紀末覇者を無視して、足早に部屋を出て行った。

 













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