嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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65 ごちそうさま

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 クレープを食べ終え、リュカが後片付けをするために部屋を退出する。
 紅茶をひたすら飲み続けていた俺は、結局自分の分のクレープは、ジルベルトに食べて貰った。

 ぺろりと二人前のクレープを平らげたジルベルトが、そわそわしていることに気付く。
 もしかして、お手洗いか?
 恥ずかしくて言えないのかと察した俺は、席を立った。

 「こっちだ」
 
 そろそろと立ち上がったジルベルトは、戸惑いながら俺についてくる。
 トイレはここだぞと教えようと振り向くと、思った以上に近くに顔があって、驚きに目を見開く。

 「ンッ!?」

 気付けば口を塞がれていた。
 ゆっくりと唇が離れていき、すりすりと頬を撫でられる。

 ……きゅ、急に嫌がらせか?!
 心の準備をさせてくれっ!

 真っ赤な顔で固まっていると、やつれていてもイケメンな青年は、「甘い」と呟いた。

 「やっぱりリオンは、甘い味がする」
 「っ、」

 目を細めて、頬を緩めるジルベルトに言いたい。

 俺はクレープを一口も食べていないぞ!?
 だから、甘いはずがないんだっ!

 俺の心の叫びを無視するイケメンは、自然な動きで俺の腰に腕を回して抱き寄せた。

 「っ、ど、どうしたんだよ、急に……」
 「ん? あれ。嫌がらせして欲しいから、ここに連れてきたのかと思ったけど……、違った?」

 軽く首を傾げるジルベルトに、俺は口をあんぐりと開けていた。

 俺がジルベルトからのキスを、四六時中楽しみにしているみたいだろうがっ!
 ……いや、楽しみにしているかもしれないけど!

 勘違いだと言おうとすると、体は離れていく。

 「さっきはごめん。手、痛くなかった?」
 「……ああ、うん」
 「俺さ、貴族の間では評判が悪いんだ。だから、俺といると、リオンが他の人たちに嫌な目を向けられるかもしれないと思って……。リオンが嫌なわけじゃないから。それだけは、伝えたくて……」
 
 苦笑いを浮かべたジルベルトに、俺の胸がぎゅっと締め付けられた。

 さっき手を払われたのは、俺の為を想っての行動だったのか。
 俺の評判の方が最悪なのに、なんて心優しい男なんだ。
 しかも評判が悪いって、それは母親のせいであって、ジルベルトのせいじゃないのに……。

 離れた距離を縮めて、ぽすりと胸元に顔を埋めると、優しく包み込まれる。
 
 「……嫌がらせ、して欲しい……」

 俺の小さな声を聞き取ってくれたジルベルトは、小さく笑って「仰せのままに」と呟く。

 ジルベルトの美声に顔が熱くなって、ぐりぐりと胸元に顔を押し付けていると、顎を掬われる。
 綺麗な空色の瞳を見上げると、何度も啄むようなキスをされる。
 薄い唇からは、フルーツの甘い味がした。
 ……ジルベルトの方が甘いだろう。

 「っ……ジル、んぅ」

 俺の口から勝手に甘ったるい声が漏れると「可愛い」と囁いてくる。
 もう恥ずかしいからやめて欲しいのに、俺は強請るようにジルベルトにしがみついていた。

 「ん……ごちそうさま」

 ちろっと自身の唇を舐めたジルベルトは、なぜか今のタイミングでクレープのお礼を告げる。

 しかもエロいぞ、今のお前の顔っ!
 一度、自分の顔を鏡で見ろと言ってやりたい。
 だが今の俺はそんな余裕がないので、小さく頷くだけで終わった。

 「食べたいときは、い、いつでも作るから……」

 パチパチと目を瞬かせ、長い金色の睫毛をゆらしたジルベルトは、小さく吹き出した。

 「なっ、なにがおかしいんだ?」
 「ククッ。いや、なんでもないよ。早く仕事の続きをしないと」
 「う、うん。あ、でも、休んでも良いぞ? 三日分のノルマは終了してるからな! ベッドで寝ても……」
 
 俺の言葉を聞き、片方の口の端を持ち上げるイケメンが、なぜか色っぽい顔をしているのだが……。

 「誘ってる?」
 「…………ん?」
 「だろうと思った」
 
 首を傾げる俺を見て、自己完結した様子のジルベルトは、小さく笑う。

 いちいち格好良い青年に向かって口を尖らせると、美声が耳を擽る。

 「リオンが一緒に寝てくれるのかと」
 「っ、は、はあっ!?」

 素っ頓狂な声を上げてしまったが、慌てて口を閉じる。
 だが、嫌がっていると勘違いされたくない俺は、続き部屋に視線を向ける。
 
 「あ、いや、うん。良いぞ? 抱き枕が必要なら、一緒に寝よう!」
 「…………誰にでもそんなこと言うなよ?」
 「んん?」

 呆れ顔をするジルベルトは、さっさと自分の席に戻った。
 
 いや、なんなの!?

 俺を振り回して楽しむ男が増えたと、げっそりとした顔で戻ると、ちょうどリュカも戻って来る。

 何事もなかったかのように、俺に出来上がった絵を見せてくるジルベルトに、じっとりとした目を向ける。
 不思議そうに俺たちを見るリュカに気付かれないよう、澄まし顔から視線を逸らして、出来上がっている絵を見ていく。

 「っ、あ……」

 一番最後の紙には、俺と料理人たちが笑顔でクレープを作る姿が描かれていた。

 すごく楽しそうな俺の顔……。

 ちらりとジルベルトの方を見れば、上手く描けていなかったかと、不安そうに首を傾げてくる。
 俺の胸がきゅんと音を立て、怒っていたことなんてすっかり忘れて笑顔になった。

 ジルベルトは、腹が立つくらい完璧な仕事をしていた。







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