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62 清々しい朝
しおりを挟む頭を優しく撫でられている。
すごく気持ち良い。安心する。
ああ、この手はリュカの手だ。
もっと撫でて。
もっと、もっと……。
「リオンは甘えん坊ですね」
優しい声が耳に届く。
「ぅん」
「目が覚めましたか?」
「……ん?」
瞼をゆるりと少しだけ持ち上げると、大きな喉仏が見えた。
視線を上に向けると、微笑むリュカが「おはようございます」と告げる。
そして俺は目を閉じた──。
いやいやいや、待って。
なんで俺、リュカにしがみついて寝ているんだ?
……あ。
自分で一緒に寝ようって誘ったのか?
それにしても、この格好はないわ。
足を絡ませてコアラみたいに抱きつく俺!
俺がリュカのことを、めっちゃ好きみたいじゃんっ!!
……いや、好きだけど?
確かに好きだけど、この気持ちはまだ発芽したばかりよ?
しかも、俺がまだ自分の気持ちに気づかないうちに、リュカ本人にすぐに踏み潰されたしね?!
残念、俺っっ!
「まだ眠りますか?」
「え? あ、あついよな、ごめん」
「いえ、心地良かったですよ?」
離れようとしたが、リュカの足の間にガッツリと足を差し込んでいた。
めちゃくちゃ絡み合ってるじゃん!
差し込んでいる足を抜こうとしたが、なぜかリュカが自身の両足に力を入れて離してくれない。
嬉しいけど、かなり恥ずかしいぞ?
「リュカ?」
「昨日、寝る前に話していたことは覚えていますか?」
「寝る前? うーん、なんだっけ?」
「ふふ。いえ、覚えていないならそれで良いので」
「え、逆に気になるんだけど」
何を話していたんだよ、と聞いたがリュカは微笑むだけで教えてはくれなかった。
「そろそろ起きる?」
「まだ朝食まで時間がありますから、もう少しこのままでいたいです」
「そ、そうか……」
珍しくリュカがおねだりをするから、離れていた距離を少しずつ詰めて、リュカの胸元にすり寄ってみた。
すり寄る俺を、拒絶せずに包み込んでくれるリュカにほっとする。
「髪結を、させてもらえませんか?」
「……したいの?」
「はい。リオンの綺麗な黒髪に触れている時が、一番幸せなので」
寝る前はリオン殿下って呼んでいたのに、今は普通にリオンと呼んでくれている。
なんでだろう?
でも嬉しいことには変わりないから、細かいことは気にしないことにした。
「ジルベルト様は良くて、私がダメな理由はなんですか?」
「え、あ、やっぱり気にしてたのか?」
「ジルベルト様に仕事を奪われた気がして……」
「ごめんな? リュカはやりたくないのかと思ってた」
あの時、リュカに嫌な思いをさせてしまったんだなと思うと、悪いことをしてしまったと反省した。
リュカを傷つけてしまっていたことに、ようやく気がついた。
本当俺って、ダメな奴。
今日からまたリュカにお願いすると頼むと、リュカは嬉しそうに微笑んだ。
仕事熱心なだけなんだろうけど、リュカは俺と触れ合いたいのだろうか? と勘違いしてしまいそうになる。
さっそく髪を結ってもらおうと起きあがると、リュカがいきなり唇にちゅっとキスをしてきた。
肩甲骨まで伸びる新緑色の髪を押さえながらキスをするリュカは、朝から色気がだだ漏れだ。
「っ、な、なに?」
「朝の挨拶です」
真っ当な顔で答えるリュカに、動揺しながらも「お、おぅ」と返事をして受け入れた。
リュカはやり手な男だ。
こんなことされたら、俺だけじゃなく、誰だってリュカに好意を持たれていると勘違いするぞ?
「リオンは初心ですね。顔が真っ赤ですよ?」
「~~っ! バカりゅかっ!」
バカバカと連呼しながら、俺は逃げるようにリュカから距離を取る。
リュカにとってはただの挨拶かもしれないけど、清々しい朝に片思いの相手からキスされる俺の気持ち! 考えて?!
そりゃ、照れるに決まってるでしょうがっ!
そのあと、鼻歌まじりで俺の髪を結うリュカは、ジルベルトに張り合っているのか、今までで一番複雑な髪型で俺の髪を仕上げた。
確かに素晴らしい出来栄えだが、なぜかすごくご機嫌なリュカに、俺は首を傾げる。
そして朝食の席に着くと、セオドル兄様にひたすらニマニマとした顔で凝視されることになった。
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