嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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57 自分の発言に

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 自室に戻って湯あみをした後、タオルで髪を乾かしながら部屋に戻ると、不機嫌そうにしたリュカが待っていた。

 髪のセットも湯あみも拒否している俺。
 だって髪を触られたら処理してもらった時のことを思い出してドキドキしそうだし、体だって一人で洗える。

 それに、リュカに洗ってもらったら無駄に反応しそうだし。
 そんなの恥ずかしすぎるだろっ。
 リュカも裸ならまだ良いけど、俺だけ裸でリュカは服を着ているんだから。
 でもお互い裸で、あそこをビンビンにしてたら、それもそれでやばいよな。

 訳の分からないことを考えていると、リュカが俺の元に近づいてくる。
 多分、髪を乾かそうとしてくれているのだろうけど、俺は無視する。

 「今日はもう寝るから、また明日ね」
 「……髪を」
 「自分でやるから大丈夫だよ? リュカも疲れたでしょ? 早く休んで」

 おやすみと告げると、リュカは無言でその場に佇む。
 気まずい空気が流れて、先に口を開いたのはリュカだった。

 「風邪をひくといけないので」

 無表情で告げたリュカが、俺のタオルを奪おうとする。
 俺はタオルをとられないように、ぐっと手に力を入れる。
 二人でタオルを引っ張り合うという、謎の展開。

 「リュカ。何もしなくて良いから」
 「……では、……して、ください……」
 「なに? 聞こえなかった」

 俯くリュカが小声で呟くが、何を言っているのか全然聞こえなかった。

 帰りの馬車では普通にしてくれていたのに、また様子がおかしくなるリュカに、俺はどうしたら良いのかわからなくなる。

 「この間の、続きを、してください」
 「え……?」
 「ですから、私の性欲処理をしてくださるのでしょう?」

 真顔で性欲処理と告げるリュカに、俺の目が点になる。

 「え、あ、いや、言ったけど……。俺はジルベルトと……」
 「まだ婚約していないですよね?」
 「う、うん、まあ、そうなんだけど……」
 「義理堅い人なんですね、リオン殿下は」
 
 リュカの責めるような口調に、俺はしどろもどろに答えるだけで精一杯だった。

 義理堅いとかそういうことじゃなくて、今リュカとエロいことをしてしまうと、自分がどうなってしまうかわからない。

 うっかり好きとか言っちゃうかも……。

 ………………ん? 好き?


 「自分の発言に責任を持ちましょう」

 リュカの言葉にハッとする。

 「そう、セオドル殿下に仰っていましたよね?」
 「……は、はい」


 くそっ! セオ兄様のせいだ!
 いや、自分のせいだ……。
 いやいや、前回に途中で泣いたリュカのせいだ!
 いいや、リュカを泣かせた俺のせいか?


 グルグルと考え込んでいると、リュカは俺が嫌がっていると判断したのか、「申し訳ありませんでした」と呟いて踵を返す。

 俺はそんなリュカの手を掴んで引き止めた。

 「リオン殿下を、困らせるつもりじゃありませんでした……」
 「勘違いするな。嫌がってる訳じゃない」

 無言で見つめ合い、俺はリュカを寝台の上に引っ張り込む。

 「リュカは、今、そ、そういう気分なのか?」
 「……分かりません」
 「へ?」
 「そういう気分ではありません、今はまだ……」

 今はまだ、って付け加えるように言ったけど、俺がリュカをその気にさせろ、ということか?
 ちょっとハードルが高くないか?

 「リュカ? お、俺は、そういう経験が、あまりない。というか、リュカとしかない。だから、期待に添えるか、わからない……」

 それでも良いのか? と思いながら見上げると、リュカはもじもじとしていた俺の手を、そっと握った。

 「私は、リオン殿下と一緒に横になるだけでも良いのです……」

 それって、性欲処理でもなんでもなくないか?
 そう言いそうになるのをぐっと堪えて、リュカと添い寝をすることにした。
 こういうのって、日本ではソフレとか言うんだよな? 添い寝フレンド。

 どうでも良いことを考えながら、触れるか触れないかの距離で寝転ぶ俺とリュカは、無言で天井を見上げている。

 ……この状況って、ほぼ独り寝だよな?


 俺は上掛けを口許まで被って、寝ているリュカの方を向いた。

 「リュカ」
 
 はい、と答えたリュカは、何を考えているのかわからない表情で天井を見上げたままだ。

 「何考えてるの?」
 「……何も」
 「そっか……」

 俺には何も話したくないってことだよな?

 ふぅっと小さくため息を吐くと、リュカが顔だけを動かして俺の方を見た。

 新緑色の瞳が、じっと俺を見つめている。


 「抱きしめても、良いですか?」


 そんなことを言われると思っていなかったから、俺の口からは、戸惑うような声が漏れる。
 またリュカが、俺が嫌がっていると勘違いしそうになる前に「いいよ」と答えた。

 俺を包み込むように優しく抱きしめるリュカ。

 俺は胸元に置いていた手をリュカの背中に回して、服をぎゅっと握った。
 俺の頭に頬を寄せたリュカは、黒髪を優しく梳かす。
 二日ぶりのリュカの手が心地良くて、もっと撫でて欲しいとばかりに、俺はリュカに擦り寄った。









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