嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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 「飯は食ったのか?」
 「あっ、リオン……殿下」

 俺が来たことにすら気付かない様子のジルベルトは、相当根を詰めて仕事をしていたらしい。

 「別に、リオンで良いぞ?」
 
 二人掛けのふかふかなソファーに腰掛けて、無理に殿下を付けるジルベルトにそう言うと、ジルベルトは答えを誤魔化すように、くすんだ金髪を手櫛で整えた。

 若い使用人が震える手で紅茶を用意してくれる。
 だが俺と目が合うと、上擦った声をあげた。

 「ヒッ」
 「ありがとう」

 仕事を押し付けられた可哀想な若者に、感謝の言葉を告げておく。
 返事はなかったものの、顔を赤くして涙を浮かべていた。
 優しく微笑んでみたが、逆効果だったようだ。

 少し苦い紅茶で喉を潤す。
 リュカの入れてくれる紅茶の方が格段に旨い。

 なぜか退出せずに、その場にいる若い使用人。
 一言言ったほうが良いのかと察した俺は、さっきよりも良い笑顔を作る。

 「美味しいよ」
 「へ?! あ、あああ、ありがとうございまっす!!」

 言うが早いか、ピューンと部屋から飛び出して行く使用人に、俺は首を傾げた。

 「新人か?」
 「いや、違います」
 「そうか。変な奴だったな」
 「え、えぇ……」

 歯切れの悪いジルベルトは、ソファーに座りもせずに俺の近くに立っていた。
 俺の隣をぽんぽんと叩くと、ジルベルトは対面のソファーに一瞬視線を向けてから、おずおずと俺の隣に腰掛けた。

 「今日は肉じゃがだ。揚げ物ばかりだったからな。体に良さそうなものを作ってみた」
 「ありがとう、ございます」

 フォークを手渡すと、ジルベルトがゆっくりと食べ始める。

 「っ……おいし、いっ」

 目を伏せて味わうジルベルトは、夢中で芋を咀嚼している。

 「明日から来れるか?」
 「はい。今は引き継ぎを……」
 「そんなの、暇な奴にやらせれば良いだろう」
 「いえ、一度は任せられた仕事なので」

 無理やりやらされているのかもしれないが、そんなことはお首にも出さない。
 なんて真面目で良い子なんだと、金色の髪をわしゃわしゃと撫でる。
 ゴールデンレトリバーみたいで可愛い。

 「実は、他にも頼みたい仕事があるんだ。俺の鉱山から採掘されたラピスラズリで、ブレスレットを作ろうと思ってるんだよね? まあ、石はラピスラズリだけじゃなくて、水晶とか、他の色も混ぜてカラフルにしたい」
 
 ふんふんと話を聞くジルベルトは、今日はやけに素直だ。

 「誰かにプレゼントするんですか?」
 「いや、販売目的。貴族向けは特に考える必要はないんだけど、平民向けがな……。コストを抑えるためには、どうしたら良いか思案中」
 
 フォークを手に持ったまま、目を瞬かせるジルベルトは、口の端に芋つけて小さな子供のようだ。

 口許についている芋を指先で取って、それをぺろりと舐めると、なぜかジルベルトの顔が真っ赤になる。

 「一般的なブレスレットは細身の物が多いだろ? 俺が考えているのは、丸い球が何個もくっついているやつなんだよね? 俺、丸が上手く描けなくて」
 
 そう言って肩を竦めると、俺に絵心がないことを思い出したのか、空色の瞳を輝かせて小さく笑う。

 「店を開くつもりですか?」
 「うーん、開くは開くけど、最終目的は店を開きたいからじゃない」
 
 僅かに首を傾げるジルベルトに、俺はニッと笑った。

 「この前話しただろ? 頑張りたいと願う人を応援したい。ファギー兄様の話を聞いて、一番に思ったのが、孤児たちのこと。男娼だったり、奴隷のような待遇の下働きだったり……。彼らに職の選択の余地がないってところを解決したい」
 「奴隷……」

 ぽつりと呟くジルベルトは、自分の置かれている状況を孤児と重ねているように見えた。

 俺はちょっと苦い紅茶を飲んで喉を潤わせる。

 「自分の好きな仕事に就ける人って、ほんの一握りだと思う。頑張って努力して、それでもダメなら諦めがつくけどさ。最初から諦めるなんて、悲しくないか?」
 「…………」
 「花が好きなら庭師、料理が好きなら料理人、お喋りが得意なら商人、賢ければ文官でも良い。誰でも夢を見たって良いと思わないか? それに、俺は努力する人が好きだ。だから俺は、今の状況から抜け出して、頑張りたいと願う人たちを応援する。彼らが希望する仕事に就けるまで……、最後まで面倒を見るつもりだ」

 俺は、ぽんとジルベルトの肩に手を置いた。

 今話したことは、ジルベルトにも向けた言葉だ。
 賢いお前なら、伝わっただろう?

 「なぁ、ジルベルト。俺と一緒に仕事をしないか?」











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