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50 ほっこりを
しおりを挟む昼前に目が覚めると、どんよりとした雰囲気のリュカが、だだっ広い部屋の隅で佇んでいた。
「おはよ」
「……おはようございます」
追い詰められたような表情のリュカに、俺は明るく話しかける。
「朝食食べ損ねたからお腹空いたな。今日の昼食、なんだろ? 肉が食べたいな~」
俺の着替えをするために近づいてきたリュカは、普段は俺の許可なくテキパキと動くのに、俺の服に手を伸ばそうとして引っ込めた。
……俺に触りたくないということか?
そりゃそうだよな。
無理やりキスしたんだから。
溜息が出そうになるのを堪え、クローゼットの中を漁って、勝手に服を用意した。
今の俺は王族だから、いつも着替えはリュカに手伝ってもらっていたけど、別に一人でも出来る。
ガウンを脱ぎ捨てて服を着替えると、暗い表情のリュカが俺の脱いだガウンを回収する。
ぎこちない空気で昼食の席に向かうと、俺の分だけ肉料理が一品多く運ばれて来る。
あんなにお腹が空いていたのに、今は全く食べたいと思わなかった。
はぁっと溜息が溢れると、隣に座っていたセオドル兄様が俺の顔を覗き込む。
朝からキラキラとした大きな瞳が眩しくて、俺は目を細めた。
「リオン? 悩み事?」
「えぇ、まあ……」
「青春だな。悩んで悩んで悩みまくって、それでも答えが出ないなら……」
「出ないなら?」
「可愛い子を取っ捕まえて、一発決めろ!」
したり顔のセオドル兄様に、俺は白目を剥いた。
「セオ兄様の話を、真面目に聞いた俺が馬鹿でした……」
ガックリと項垂れると、セオドル兄様はけらけらと笑いながらコロッケパンにかぶりつく。
コロッケをお気に召して、毎食食べているセオドル兄様は、地味色の料理に抵抗がなくなったらしい。
フライドポテトをお上品に口に運び続ける兄様を見つめ、茶色革命が成功したことを嬉しく思うのに、俺の気分は晴れなかった。
それから部屋に篭り、ラピスラズリで作るアクセサリーを、どんな形のものにするかを考えていた。
絵を描くセンスが壊滅的な俺。
描いていた紙をグシャグシャにして、ゴミ箱にぶん投げる。
リュカに髪を結ってもらうことなく、真っ直ぐに伸びる黒髪は心底鬱陶しい。
結ってもらわなくて良いように、短く切ってしまおうか。
ロン毛の俺がマッシュヘアやツーブロックにしたら、みんなびっくりしそうだな。
想像して小さく笑うが、俺が日本人だった時の記憶を思い出した日……。
リュカに髪を切ることは絶対にダメだと、必死な形相で言われたことを思い出す。
「別に、リュカの言いなりになる必要なんてないのにな……」
手入れの行き届いた黒髪を、くるくると弄びながら呟いた。
そういえば、俺の髪を気に入っている人がもう一人いたことを思い出す。
「ジルベルト、ちゃんと飯食ったのかな?」
ファーガス兄様の名で仕事を依頼しているから、きっと虐待はされていないはず。
コロッケパンも奪われることはなかったと思う。
現在、リュカが率先してジルベルトの仕事部屋を整えてくれており、明日には出勤予定だ。
それまでどうしても待てない俺は、書類を纏めて厨房に向かった。
◆
「リオン殿下っ! どうして私のいない日に──」
「今日も茶色革命だッ!」
俺の顔を見た瞬間、文句を言い出すオレンジ頭に先手を打つ。
ぱあっと顔を綻ばせる盗賊野郎の扱いには、随分と慣れていた。
「実は、醤油……えっと、東方の商人から買っていたものが、俺の求めていた調味料だったんだ!」
「なんと! あの液体がですか?! てっきり鑑賞用かと」
「……鑑賞用?」
俺にぴったりと張り付き、謎の発言をするティルソン料理長。
話を聞けば、黒は神聖な色だから、口に入れることは恐れ多いらしい。
地味色に分類されるのは茶色であって、黒ではないと熱く語られた。
俺には似た色に見えると思いながら、醤油を大量に取り寄せて欲しい旨を伝え、冷蔵庫の中の肉を眺める。
鶏肉に手を伸ばしたが、ジルベルトの境遇を思い出した俺は、豚肉に切り替えた。
「あとは芋と玉ねぎと人参を……」
「また芋ですか!?」
「俺は芋が好きなんだっ!」
「……に、似合わない」
失礼極まりない料理長をスルーし、しらたきを探すが、案の定なかった。
クロフォード国では、芋といえば、貧困層の者たちが食べるものという認識だ。
王族の俺が、安価な芋を好物だと告げたことは、相当衝撃的なことだったらしい。
だが、みんなもコロッケやフライドポテトを好きになっているからか、厨房には大量の芋が用意されていた。
ジルベルトにほっこりとした料理を食べさせたいと願う俺は、肉じゃがを作り始めることにした。
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