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43 昔のような気持ち ジルベルト
しおりを挟む信じられなくて使用人たちに話を聞けば、その時に真実を伝えられた。
俺の容姿は母親に似ているから、存在しているだけで罪なのだと……。
俺に良くしてくれていた使用人たちを、アーノルドの手によって全員解雇させられ、リオンと会うことが出来なくなってしまった。
でも、それも仕方がないと思った。
俺が逆の立場だったら、憎いと思うはずだから。
使用人の仕事を放棄した母親の代わりに、俺も働けと言われるようになり、使用人の真似事が始まった。
きちんと仕事をしたとしても、難癖をつけられて鞭で打たれる。
使用人に混ざって、俺に鞭を打つアーノルドの笑みは、それはそれは醜かった。
俺が痛がると喜ぶから、なるべく感情を表に出さないようになっていった。
そして、どうしてもリオンの気を引きたいアーノルドが、自分は不治の病だと偽り、俺に虐められるようになったと嘘をついた。
素直なリオンは、アーノルドの話を信じて、俺を嫌悪するようになっていた。
それでアーノルドの気が済むのならと、俺は否定しなかった。
リオンと友達にすらなれないのなら、もうなにもかもどうでも良かったんだ。
だから残された俺は、母親の罪を償うつもりで、アーノルドにされること全てを受け入れてきた。
だが、今はそれで本当に良かったのかと、自分の行動に疑問を抱いてしまっている。
今までの俺の人生が、無駄だったような気持ちになってしまった。
それでも、今の現状から抜け出せる術はないし、一生このままで良いと思っていた。
それなのに、俺を虐げていた相手に縋り付きたくなってしまっている。
でも、今までのことを思うと、リオンのことを心から信用出来ない。
……いや。
信用して、なにかのきっかけで、また昔のように憎悪に満ちた目を向けられることが……怖い。
◆
「そろそろ使用人たちが起きてくる時間ですので、帰られた方が良いかと……」
俺がリンネス公爵家の使用人たちに、雑用を押し付けられている姿を見せたくない。
そんな情けない姿を晒して、リオンに同情されたくない。
そう思って淡々と伝えると、不満げに口を尖らせて、可愛いお顔を見せてくる。
神秘的な黒曜石のような瞳を潤わせて、上目遣いをしてくるリオン・クロフォード。
アーノルドに似た仕草をしてくるのだが、比べ物にならないくらい……可愛い。
いつも威張り散らしていたリオンに対して、また昔のような気持ちになるとは思わなかった。
「やだっ」
「……リオン殿下」
「っ、敬語もやだっ」
そう言って、ぎゅっと可愛らしく抱きついてくるのを、やめてもらってもよろしいでしょうか?
雑に髪を掻くと、パッと顔を上げたリオンが、泣きそうな顔で「ごめん」と謝ってくる。
リオンの口から謝罪されることに慣れない俺は、視線を彷徨わせた。
以前とはまるで別人なんだが、ずっと今のリオンでいて欲しい。
もう一度、友人になれたような気持ちになっている俺は、慌ててかぶりを振る。
リンネス家を滅茶苦茶にした罪深い人の息子である俺に、友人なんて贅沢だ。
「難しいことだってわかってる……。もし、ジルベルトが許してくれる日が来るなら……。その時は、俺はジルベルトの友人になりたい……」
心からそう思っているような、真剣な瞳で見つめられる。
……嬉しい。
でも、俺は何も言えなかった。
そんな俺を見て慌てて謝るリオンは、命令しているわけじゃないと首を振る。
「友人になれなくても良い。ただ、こうしてまた、逢いたい……」
尻すぼみになる声に小さく頷くと、リオンが嬉しそうに頬を緩める。
無言で見つめ合う時間が、恥ずかしいのに心地良くて、胸が熱くなった。
先に視線を逸らしたリオンは、もじもじとしながは俺の手を握る。
「い、嫌がらせは、もう、終わりか?」
「………」
「十年分たまっているんだっ。もっと、した方が、良いと思う……」
口付けを強請ってくるリオンに、頭を抱える。
これ以上俺の心を乱さないで欲しいのに、俺の手は、すべすべとした頬を撫でていた。
親指で下唇をなぞると、恥ずかしそうに目を伏せるリオンの頬が熱くなる。
本気で嫌がらせだと思っていそうなリオンだが、決して嫌がらせを受けるような顔じゃない。
「ほんと馬鹿」
「っ、ン……」
王子を罵る俺は、噛み付くように口付けていた。
舌を差し込むと、ぴくんと体が反応していたが、吸いつかれた。
飽きもせずに、俺と深い口付けをし続けるリオンが可愛くて、気付けば掻き抱いていた。
小窓から覗く朝の光を浴びて離れる。
目をとろんとさせて、もう少ししたいとでも言いたげなリオンに、自然と口角が上がる。
「十年分の嫌がらせを、一日で終わらせる気?」
「っ……ち、違うっ。あ、あと十年するっ」
「それなら今日はもう終わりな?」
「う、うん……」
素直に引き下がったことに笑いそうになったが、また逢いにくると告げたリオンを見送った。
それからすぐに使用人が呼びに来て、いつもと変わらない日常が始まった。
でも俺の心は、あの頃と同じように温かかった。
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