44 / 211
44 キャパオーバー
しおりを挟む結局、明け方までイチャイチャ……ではなく、嫌がらせを受けていた俺は、自室の寝台の上で暴れまくっていた。
俺に嫌がらせをする時のジルベルトは、砕けた口調になるし、リオンって呼んでくれる。
まるで恋人同士みたいな甘い時間だった。
ちょっと意地悪そうな顔で『そんなに俺に嫌がらせされたいの?』って言われた言葉が、俺の頭の中で延々にリピートされている。
グハッ、されたい。
めちゃくちゃされたいっ!!
もちろんそんな馬鹿みたいなことは言えないから、違うって答えたんだけど……。
確実に、おねだりするような目を向けていたと思う。
使用人たちが起きて来る時間だからと、帰るように促されたけど、もっと一緒に居たかった。
帰るときは敬語に戻っていたし、寂しい気持ちになったけど、仕方がないと思う。
「早く会いたいなあ。そしたら、また嫌がらせしてくれるかも……」
ジルベルトの優しい眼差しを思い出して、うっとりとした息を吐く。
「って! 違う違う、ちっがぁぁーうッ! 全然反省してないじゃんっ!」
ゼーハー肩で息をする俺は、枕をぽすぽすと殴って顔を埋めた。
浮かれていた俺だが、問題が山積みだ。
リンネス公爵家でのジルベルトへの対応が、あまりにも目に余る。
いくらアーノルドが病弱だからって、あの部屋は酷すぎるだろう。
しかもあいつは多分仮病だ。
同じ兄弟なのに、差別をするのはどうかと思うし、仮に優遇するならジルベルトじゃないか?
人様の家庭の事情にとやかく言うのはどうかと思うし、ジルベルト本人になにかを言われたわけではない。
でも俺は、ジルベルトをあの家から引き離したいと思ってしまう。
どうしたら良いのだろう……。
寝不足なのだが目が冴えている俺は、リュカに着替えさせてもらいながら悶々と考える。
「隈が出来ていますよ? 昨日はあまり眠れなかったのですか?」
「へ? う、うん。ちょっと考え事してて」
「可愛いお顔が台無しです」
顔だけは良いのですから、と小さな声が聞こえたので、睨みつける。
小さく笑ったリュカは、俺の目元を撫でた。
「眠れないときは呼んでください。子守唄を歌って差し上げます」
「本当っ? 今聞きたい!」
「……それは嫌です」
「なんでだよっ!?」
リュカが言い出したんだろうと小突いてやると、子守唄が必要だなんて、まだまだ子供だと揶揄われる。
実は音痴なんだろうと内心笑っている俺は、リュカにジルベルトのことを相談することにした。
少しだけ複雑そうな表情を浮かべたリュカは、俺の意見に賛成してくれる。
「ただ、問題はアーノルド様ですね」
「あいつの意見より、ジルベルトの気持ちの方が問題じゃないか?」
「無理強いをしてはいけませんよ? ジルベルト様は、自分の感情を言葉にすることが苦手な方のように思います」
「そうか……」
リュカもジルベルトのことは心配しているのだろう。
なんだかんだで心優しい侍従に、相談に乗ってもらったことに感謝する。
俺は人の気持ちに疎いところがあるから、気を付けないと。
俺の小さな脳ではキャパオーバーな案件なので、ファーガス兄様に相談することにした。
そして俺の頼れるイケメン兄様は、王宮内にジルベルト専用の部屋を用意すると、さらっと告げた。
「良いんですか?」
「リオンの手伝いをしてくれるんだろう? それ相応の待遇を約束する」
「っ、ファギー兄様っ!! 大好きっ!!」
「おふっ……」
嬉しすぎて抱きつくと、端正なお顔からは想像出来ないような声が漏れた。
照れた顔をするファーガス兄様に、俺の胸がドキドキと激しく音を立てる。
…………え? なんで?
相手は俺のお兄様なのに、どうしてこんなに胸が熱くなっているのだろう。
「まさかっ! 俺はファギー兄様にっ、恋をしていたのか!?」
「ブフォッ」
「…………あれ? 兄様?」
ソファーに撃沈している麗しいお兄様は、ぴくりとも動かなくなってしまった。
いや、さすがに兄に対して恋心を抱くとかないとは思うけど……。
ただ、過去の俺は規格外な男だから、絶対にないとは言い切れない。
それに、相手は俺の理想の男性だ。
惚れてしまっても、おかしくはない気もする。
まあ、今はそんな血迷ったことはしないから安心して欲しい。
「安心してください、ファギー兄様。俺は兄様のことは大好きですが、困らせるようなことはしませんのでっ」
きっと俺の考えすぎだと、寝ている兄様に声をかけて部屋を退出する。
早くジルベルトに報告したいと早足になる俺は、この時にファーガス兄様の返答を聞かなかったことを、のちに後悔することになる。
41
お気に入りに追加
3,470
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる