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44 キャパオーバー

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 結局、明け方までイチャイチャ……ではなく、嫌がらせを受けていた俺は、自室の寝台の上で暴れまくっていた。

 俺に嫌がらせをする時のジルベルトは、砕けた口調になるし、リオンって呼んでくれる。
 まるで恋人同士みたいな甘い時間だった。

 ちょっと意地悪そうな顔で『そんなに俺に嫌がらせされたいの?』って言われた言葉が、俺の頭の中で延々にリピートされている。
 
 グハッ、されたい。
 めちゃくちゃされたいっ!!

 もちろんそんな馬鹿みたいなことは言えないから、違うって答えたんだけど……。
 確実に、おねだりするような目を向けていたと思う。
 
 使用人たちが起きて来る時間だからと、帰るように促されたけど、もっと一緒に居たかった。
 帰るときは敬語に戻っていたし、寂しい気持ちになったけど、仕方がないと思う。
 
 「早く会いたいなあ。そしたら、また嫌がらせしてくれるかも……」

 ジルベルトの優しい眼差しを思い出して、うっとりとした息を吐く。

 「って! 違う違う、ちっがぁぁーうッ! 全然反省してないじゃんっ!」

 ゼーハー肩で息をする俺は、枕をぽすぽすと殴って顔を埋めた。

 浮かれていた俺だが、問題が山積みだ。
 
 リンネス公爵家でのジルベルトへの対応が、あまりにも目に余る。
 いくらアーノルドが病弱だからって、あの部屋は酷すぎるだろう。
 しかもあいつは多分仮病だ。
 同じ兄弟なのに、差別をするのはどうかと思うし、仮に優遇するならジルベルトじゃないか?

 人様の家庭の事情にとやかく言うのはどうかと思うし、ジルベルト本人になにかを言われたわけではない。
 でも俺は、ジルベルトをあの家から引き離したいと思ってしまう。
 どうしたら良いのだろう……。

 寝不足なのだが目が冴えている俺は、リュカに着替えさせてもらいながら悶々と考える。

 「隈が出来ていますよ? 昨日はあまり眠れなかったのですか?」
 「へ? う、うん。ちょっと考え事してて」
 「可愛いお顔が台無しです」

 顔だけは良いのですから、と小さな声が聞こえたので、睨みつける。
 小さく笑ったリュカは、俺の目元を撫でた。
 
 「眠れないときは呼んでください。子守唄を歌って差し上げます」
 「本当っ? 今聞きたい!」
 「……それは嫌です」
 「なんでだよっ!?」

 リュカが言い出したんだろうと小突いてやると、子守唄が必要だなんて、まだまだ子供だと揶揄われる。
 実は音痴なんだろうと内心笑っている俺は、リュカにジルベルトのことを相談することにした。

 少しだけ複雑そうな表情を浮かべたリュカは、俺の意見に賛成してくれる。
 
 「ただ、問題はアーノルド様ですね」
 「あいつの意見より、ジルベルトの気持ちの方が問題じゃないか?」
 「無理強いをしてはいけませんよ? ジルベルト様は、自分の感情を言葉にすることが苦手な方のように思います」
 「そうか……」
 
 リュカもジルベルトのことは心配しているのだろう。
 なんだかんだで心優しい侍従に、相談に乗ってもらったことに感謝する。
 俺は人の気持ちに疎いところがあるから、気を付けないと。

 俺の小さな脳ではキャパオーバーな案件なので、ファーガス兄様に相談することにした。



 そして俺の頼れるイケメン兄様は、王宮内にジルベルト専用の部屋を用意すると、さらっと告げた。
 
 「良いんですか?」
 「リオンの手伝いをしてくれるんだろう? それ相応の待遇を約束する」
 「っ、ファギー兄様っ!! 大好きっ!!」
 「おふっ……」

 嬉しすぎて抱きつくと、端正なお顔からは想像出来ないような声が漏れた。

 照れた顔をするファーガス兄様に、俺の胸がドキドキと激しく音を立てる。

 …………え? なんで?

 相手は俺のお兄様なのに、どうしてこんなに胸が熱くなっているのだろう。

 「まさかっ! 俺はファギー兄様にっ、恋をしていたのか!?」
 「ブフォッ」
 「…………あれ? 兄様?」

 ソファーに撃沈している麗しいお兄様は、ぴくりとも動かなくなってしまった。

 いや、さすがに兄に対して恋心を抱くとかないとは思うけど……。
 ただ、過去の俺は規格外な男だから、絶対にないとは言い切れない。
 それに、相手は俺の理想の男性だ。
 惚れてしまっても、おかしくはない気もする。

 まあ、今はそんな血迷ったことはしないから安心して欲しい。

 「安心してください、ファギー兄様。俺は兄様のことは大好きですが、困らせるようなことはしませんのでっ」
 
 きっと俺の考えすぎだと、寝ている兄様に声をかけて部屋を退出する。

 早くジルベルトに報告したいと早足になる俺は、この時にファーガス兄様の返答を聞かなかったことを、のちに後悔することになる。









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