嫌われ王子様の成長 〜改心後、暴君の過去が役に立つこともある〜

ぽんちゃん

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30 革命が起こった 料理人ジョン

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 僕の名前はジョン。
 王宮で働く料理人だ。

 どこにでもいるありきたりな名前を、黒髪の天使に呼ばれると、特別な名前になった気がした。

 今は黒髪の天使と化しているリオン殿下だが、以前はとんでもない暴れん坊だった。
 
 リオン殿下の食事に異物が混入している事件が発生し、当時の料理長は責任を取って解雇された。

 しかも、その時の異物は僕の髪の毛だった。

 僕を庇ってくれた優しい料理長は、ボコボコに殴られて号泣していた。

 申し訳ない気持ちでいっぱいになって、僕が犯人だと名乗り出ようとすると、第二王子であるファーガス殿下が厨房に現れた。

 二人の話し合いはスムーズに行われ、解雇されたことを僕達に話した料理長は、さっきまで泣いていたのに満面の笑みだった。

 「あの、僕のせいで……」
 「言うな。ジョンには輝かしい未来が待っているんだから、私のせいにしておくんだ。良いな?」
 「ッ!! 料理長ッ!!」

 感動していた僕だけど、その日のうちに料理長とこっそり交際していた給仕の子が辞職した。

 その子は、無職になった料理長と結婚することになったらしい。

 急な展開についていけずに混乱していると、料理長は多額の金銭を融資してもらい、自分の店を開くことになったらしい。

 しかも、料理長と恋人がずっと欲していた土地を、ファーガス殿下が所有しており、安く譲り受けたらしい。

 ファーガス殿下といえば、他の兄弟よりリオン殿下との会話は少ないが、こうして影で動いている。

 実際は、一番溺愛しているんじゃないかと思う。

 そういうことで、自分の店を構えるという恋人との夢を叶えることが出来た料理長は、僕の罪の告白を必死になって揉み消していた。

 それに加えて、僕が犯人だと思っていたのに、本当は給仕の子の髪の毛だったことが判明した。

 ……僕の感動を返して欲しい。

 それでも、リオン殿下を怒らせたら大変なことになることは周知の事実だったので、僕達は殊更丁寧に仕事をするようになった。



 そして現在……。

 「なんだこれはっ!!!!」
 「サクサクッ、うんまぁ~!!」
 「ちょっと食べすぎですよっ! 料理長っ!」
 「すぐに食べなかったお前らが悪い」
 
 汗だくで油の前に立っている僕を他所に、厨房内では、殿『コロッケ争奪戦』が繰り広げられている。

 そう。別に僕が作ったものも同じ味なのに、みんなはリオン殿下が触れたものを奪い合っている。

 ……変態だと思う。
 
 普段は厳しいティルソン料理長なんて、太い腕でみんなを牽制して、コロッケを独り占めしている。

 デレ顔で頬張っている料理長は、リオン殿下を嫌悪していたくせに、今ではすっかり魅了されてしまっている。

 そんな僕も、リオン殿下の助手としてお側にいたのだけど、……ものすごく良い香りがした。

 至近距離で天使の微笑みを向けられると、昇天しそうになって、僕の目玉はぐるんと一周した。

 ちなみに、リオン殿下が形成したコロッケは、僕もこっそり確保している。

 僕は変態じゃないよ?
 助手としての、ほ、ほ、報酬だッ!


 「ある意味、見た目のインパクトが凄いが、味は抜群に美味いっ!!」
 「これがほとんど芋で出来ているなんて、今でも信じられない……」
 「突拍子もない発想は、さすがとしか言いようがないな」
 
 料理人の中でもトップクラスの人たちを唸らせるリオン殿下。

 今日のディナーは、コロッケをメインにしようと皆が話し合っている。

 各々、月に一度新作発表をする場があるのだが、滅多に採用されることはないのに、リオン殿下はシチューに続いて、二度も採用されている。

 歴代の有名な王宮料理人の中でも、初の快挙だ。

 料理に関しては身分は関係なく、贔屓は一切無い中で、驚くべき功績をあげている。

 「また作りに来てもらいましょう!」
 「リオン殿下の料理が食べたい!」
 「料理長、リオン殿下にお願いして下さい!」
 「まったく、困った奴らだなぁ~。仕方ない、私が頼んでやろう」

 腕を組んでニヤニヤと笑っている料理長は、間違いなくリオン殿下と喋りたいだけである。

 「おい、ジョン! 次は俺達がリオン殿下の助手になるから、絶対に代われよ!」
 「そうだぞ! 先輩に譲れっ!」

 先輩に詰め寄られるが、さっきまでリオン殿下に怯えていた人達には、絶対に譲るつもりはない。

 「リオン殿下がそう仰るなら」

 と、にっこりと笑って答えてやった。

 先輩達がぎゃーぎゃー文句を言ってるけど、無視無視ッ!

 僕は今から、見た目の悪いコロッケを、どこまで美しく盛り付けるかを考えなければならないのだから。

 緑の野菜を敷き詰めて、コロッケをカットして断面を見せて……。

 う、うん、どう頑張っても地味だ。

 リオン殿下に喜んで貰えるようにと、時間いっぱいまで盛り付けを考える僕達は、すごく苦労しているのに、目はキラキラと輝いていた。

 盛り付けに失敗した大量のコロッケは、夕飯の前に軽食として使用人達に提供することになった。

 謎の茶色の物体に皆が戸惑っていたので、リオン殿下が作ったことは伏せることになってしまったが、爆発的な人気になったことは言うまでもない。









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