2 / 211
2 三人の兄様
しおりを挟む部屋を出ると、扉の横には赤髪の美青年が立っていた。
上げ底靴を履いて、なんとか170cmをキープしている俺より背も高くてスタイルも良い。
見た目もイケメンだ。
若々しい近衛騎士に向かって朝の挨拶をすると、白目を剥かれた。
……朝の挨拶って、おはようで合ってるよな?
俺は、自分の護衛をしてくれる相手に挨拶もできない屑だったらしい。
「リオン殿下っ、お、おはようございます。本日も、お美しい……」
「プハッ、なにそれ。誰が見ても君の方がかっこいいでしょ?」
「はいっ?!」
ぽかんと口を開けた情けない姿でも、イケメンはイケメンだった。
額を出した短い赤髪に琥珀色の瞳の美青年は、眉毛が凛々しくてかっこいい。
「お仕事ご苦労様」と微笑むと、護衛の美青年はぴくりとも動かなくなってしまった。
やはり俺は、会話もしたくないほど嫌われているらしい。
内心がっかりしながら、だだっ広い廊下を歩いていくと、第三王子のセオドル兄様が部屋から出てきた。
「リオン!」と嬉しそうに俺の名を呼ぶセオドル兄様は、十六の俺より三つ年上の美青年。
肩までの伸びる深い青色の髪を揺らし、大きな目を爛々とさせて俺に駆け寄る姿は、飼い主を見つけた忠犬のようだ。
「今日の髪型、可愛い~ッ! 天使のようなリオンにす~っごく似合ってるよっ!」
「褒めすぎですよ。セオ兄様の方が圧倒的に可愛いです」
「……リオン、どうしたの?」
「なにがですか?」
兄とはいえ、社交界では「深海に咲く花」と呼ばれる美青年に可愛いと褒められて、なんだか気恥ずかしくなる。
それなのにセオドル兄様は、俺の態度に怪訝な顔をしてくる。
なにがそんなにおかしいのかと首を傾げると「ぐふっ」と可愛い顔には似合わない、おっさんのような声を出した。
「なにをそんなに騒いでいるんだ」
背後から聞こえる冷たい声色に振り返ると、清潔感溢れる短髪の気難しそうな顔のイケメンが仁王立ちしていた。
兄弟で一番背が高く、周囲を見下ろす鋭い眼光の第二王子のファーガス兄様。
頭脳明晰で不正を許さない彼は、周囲の大人達から恐れられている。
「うるさくしてごめんなさい、ファギー兄様」
「ファギー、兄様……」
この人に逆らってはいけない、と俺の直感が告げている。
ファーガス兄様を見上げながら半泣きで謝ると、口許を大きな手で押さえていた。
俺のせいで吐き気を催してしまったらしい。
「大丈夫ですか?」
「あ、ああ。なんとか……」
吐き気を堪えながらチラチラと俺を見るファーガス兄様に「無理しなくて良いですよ?」と服の裾を控えめに掴むと、なぜかいきなり抱きしめられる。
今世でも身長に恵まれなかった俺は、背の高い兄様の腕の中にすっぽりとおさまった。
「あっ! ずるい~! 俺も俺もっ!」
ワンワンと見えない尻尾を振るセオドル兄様にも飛びつかれて、美青年二人に挟まれて窒息死しそうになる。
屑な俺を優しくじわじわと締め殺す二人。
日本人だったときは、全てを奪われて一人寂しく死んだ……、多分。
だから、こんな死に方のほうが幸せなのかもしれない。グッバイ、屑な俺。
意識が朦朧としてきたところで、手首を掴まれて助け出してくれた救世主。
第一王子のハロルド兄様だ。
俺をバックハグする次期国王陛下は、俺の肩口に顔を寄せて微笑んだ。
センター分けのいかにも王子様といった甘いマスクで、実の兄なのに胸がキュンとしてしまう。
「た、助かりました、ハル兄様っ。ありがとうございます」
「っ、リオン?!」
驚いたハロルド兄様の吐息が耳にかかって「んっ」と甘えるような声が漏れてしまった。
くっ、恥ずかしすぎる。
じわりと頬に熱が集まってくる。
そんな俺を見ていた三人は、ごくりと唾を飲む。
……うん、そうだよな。
普通、兄弟の甘ったるい声なんて聞きたくないよな?
申し訳ございませんでした!
許してください!
心の中で懺悔するも、無言の三人の視線に耐えきれなくなり、両手で顔を隠した。
「気持ち悪くてごめんなさいっ……」
兄様達が必死になって慰めてくれたけど、何も聞こえてこない。
屑な態度を改めようと思っていたのに、いきなりやらかしてしまった。
我儘な俺を可愛がってくれていた兄様達には、絶対に嫌われたくない。
魂の抜けた俺の右手をハロルド兄様が握り、左手をファーガス兄様、背中をセオドル兄様に支えられて、ようやく朝食の席にたどり着いたのだった。
65
お気に入りに追加
3,470
あなたにおすすめの小説
推しの完璧超人お兄様になっちゃった
紫 もくれん
BL
『君の心臓にたどりつけたら』というゲーム。体が弱くて一生の大半をベットの上で過ごした僕が命を賭けてやり込んだゲーム。
そのクラウス・フォン・シルヴェスターという推しの大好きな完璧超人兄貴に成り代わってしまった。
ずっと好きで好きでたまらなかった推し。その推しに好かれるためならなんだってできるよ。
そんなBLゲーム世界で生きる僕のお話。
愛されない皇妃~最強の母になります!~
椿蛍
ファンタジー
愛されない皇妃『ユリアナ』
やがて、皇帝に愛される寵妃『クリスティナ』にすべてを奪われる運命にある。
夫も子どもも――そして、皇妃の地位。
最後は嫉妬に狂いクリスティナを殺そうとした罪によって処刑されてしまう。
けれど、そこからが問題だ。
皇帝一家は人々を虐げ、『悪逆皇帝一家』と呼ばれるようになる。
そして、最後は大魔女に悪い皇帝一家が討伐されて終わるのだけど……
皇帝一家を倒した大魔女。
大魔女の私が、皇妃になるなんて、どういうこと!?
※表紙は作成者様からお借りしてます。
※他サイト様に掲載しております。
R指定はないけれど、なんでかゲームの攻略対象者になってしまったのだが(しかもBL)
黒崎由希
BL
目覚めたら、姉にゴリ推しされたBLゲームの世界に転生してた。
しかも人気キャラの王子様って…どういうことっ?
✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻✻
…ええっと…
もう、アレです。 タイトル通りの内容ですので、ぬるっとご覧いただけましたら幸いです。m(_ _)m
.
ちっちゃくなった俺の異世界攻略
鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた!
精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!
転生悪役令息、雌落ち回避で溺愛地獄!?義兄がラスボスです!
めがねあざらし
BL
人気BLゲーム『ノエル』の悪役令息リアムに転生した俺。
ゲームの中では「雌落ちエンド」しか用意されていない絶望的な未来が待っている。
兄の過剰な溺愛をかわしながらフラグを回避しようと奮闘する俺だが、いつしか兄の目に奇妙な影が──。
義兄の溺愛が執着へと変わり、ついには「ラスボス化」!?
このままじゃゲームオーバー確定!?俺は義兄を救い、ハッピーエンドを迎えられるのか……。
※タイトル変更(2024/11/27)
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です!
小説家になろうでも10位獲得しました!
そして、カクヨムでもランクイン中です!
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。
いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。
欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・
●●●●●●●●●●●●●●●
小説家になろうで執筆中の作品です。
アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。
現在見直し作業中です。
変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。
【BL】婚約破棄で『不能男』認定された公爵に憑依したから、やり返すことにした。~計画で元婚約者の相手を狙ったら溺愛された~
楠ノ木雫
BL
俺が憑依したのは、容姿端麗で由緒正しい公爵家の当主だった。憑依する前日、婚約者に婚約破棄をされ『不能男認定』をされた、クズ公爵に。
これから俺がこの公爵として生きていくことになっしまったが、流石の俺も『不能男』にはキレたため、元婚約者に仕返しをする事を決意する。
計画のために、元婚約者の今の婚約者、第二皇子を狙うが……
※以前作ったものを改稿しBL版にリメイクしました。
※他のサイトにも投稿しています。
巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく
藍沢真啓/庚あき
BL
婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。
目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり……
巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。
【感想のお返事について】
感想をくださりありがとうございます。
執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。
大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる