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2 三人の兄様

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 部屋を出ると、扉の横には赤髪の美青年が立っていた。
 上げ底靴を履いて、なんとか170cmをキープしている俺より背も高くてスタイルも良い。
 見た目もイケメンだ。
 若々しい近衛騎士に向かって朝の挨拶をすると、白目を剥かれた。

 ……朝の挨拶って、おはようで合ってるよな?
 俺は、自分の護衛をしてくれる相手に挨拶もできない屑だったらしい。

 「リオン殿下っ、お、おはようございます。本日も、お美しい……」
 「プハッ、なにそれ。誰が見ても君の方がかっこいいでしょ?」
 「はいっ?!」

 ぽかんと口を開けた情けない姿でも、イケメンはイケメンだった。
 額を出した短い赤髪に琥珀色の瞳の美青年は、眉毛が凛々しくてかっこいい。
 「お仕事ご苦労様」と微笑むと、護衛の美青年はぴくりとも動かなくなってしまった。

 やはり俺は、会話もしたくないほど嫌われているらしい。

 内心がっかりしながら、だだっ広い廊下を歩いていくと、第三王子のセオドル兄様が部屋から出てきた。

 「リオン!」と嬉しそうに俺の名を呼ぶセオドル兄様は、十六の俺より三つ年上の美青年。
 肩までの伸びる深い青色の髪を揺らし、大きな目を爛々とさせて俺に駆け寄る姿は、飼い主を見つけた忠犬のようだ。

 「今日の髪型、可愛い~ッ! 天使のようなリオンにす~っごく似合ってるよっ!」
 「褒めすぎですよ。セオ兄様の方が圧倒的に可愛いです」
 「……リオン、どうしたの?」
 「なにがですか?」

 兄とはいえ、社交界では「深海に咲く花」と呼ばれる美青年に可愛いと褒められて、なんだか気恥ずかしくなる。
 それなのにセオドル兄様は、俺の態度に怪訝な顔をしてくる。
 なにがそんなにおかしいのかと首を傾げると「ぐふっ」と可愛い顔には似合わない、おっさんのような声を出した。

 「なにをそんなに騒いでいるんだ」
 
 背後から聞こえる冷たい声色に振り返ると、清潔感溢れる短髪の気難しそうな顔のイケメンが仁王立ちしていた。
 兄弟で一番背が高く、周囲を見下ろす鋭い眼光の第二王子のファーガス兄様。
 頭脳明晰で不正を許さない彼は、周囲の大人達から恐れられている。

 「うるさくしてごめんなさい、ファギー兄様」
 「ファギー、兄様……」

 この人に逆らってはいけない、と俺の直感が告げている。
 ファーガス兄様を見上げながら半泣きで謝ると、口許を大きな手で押さえていた。
 俺のせいで吐き気を催してしまったらしい。

 「大丈夫ですか?」
 「あ、ああ。なんとか……」

 吐き気を堪えながらチラチラと俺を見るファーガス兄様に「無理しなくて良いですよ?」と服の裾を控えめに掴むと、なぜかいきなり抱きしめられる。
 今世でも身長に恵まれなかった俺は、背の高い兄様の腕の中にすっぽりとおさまった。

 「あっ! ずるい~! 俺も俺もっ!」

 ワンワンと見えない尻尾を振るセオドル兄様にも飛びつかれて、美青年二人に挟まれて窒息死しそうになる。
 屑な俺を優しくじわじわと締め殺す二人。

 日本人だったときは、全てを奪われて一人寂しく死んだ……、多分。
 だから、こんな死に方のほうが幸せなのかもしれない。グッバイ、屑な俺。

 意識が朦朧としてきたところで、手首を掴まれて助け出してくれた救世主。
 第一王子のハロルド兄様だ。
 俺をバックハグする次期国王陛下は、俺の肩口に顔を寄せて微笑んだ。
 センター分けのいかにも王子様といった甘いマスクで、実の兄なのに胸がキュンとしてしまう。

 「た、助かりました、ハル兄様っ。ありがとうございます」
 「っ、リオン?!」

 驚いたハロルド兄様の吐息が耳にかかって「んっ」と甘えるような声が漏れてしまった。

 くっ、恥ずかしすぎる。
 じわりと頬に熱が集まってくる。
 そんな俺を見ていた三人は、ごくりと唾を飲む。

 ……うん、そうだよな。
 普通、兄弟の甘ったるい声なんて聞きたくないよな?
 申し訳ございませんでした!
 許してください!

 心の中で懺悔するも、無言の三人の視線に耐えきれなくなり、両手で顔を隠した。

 「気持ち悪くてごめんなさいっ……」

 兄様達が必死になって慰めてくれたけど、何も聞こえてこない。
 屑な態度を改めようと思っていたのに、いきなりやらかしてしまった。
 我儘な俺を可愛がってくれていた兄様達には、絶対に嫌われたくない。

 魂の抜けた俺の右手をハロルド兄様が握り、左手をファーガス兄様、背中をセオドル兄様に支えられて、ようやく朝食の席にたどり着いたのだった。









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