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◆第十章◆

*14* 一人と一匹、お前も挑戦するんかい。

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 アンソロジー本への寄稿分(載るかどうかは抽選)が間に合い、それを封書にして送り返したところ無事採用されることが決まって、サイラスもサロンメンバーに名を連ねられるようになった。めでたいね。

 それに伴い創作意欲が爆上がりしたサイラスが、即売会ギリギリまで長編作にも着手したいと言い出したので、ダンジョンに潜って果実酒を飲むツアーのお供は金太郎と忠太に任せ、毎日注文が入っている仕事と畑の反復横跳びを続けていたら、あっという間に四月が過ぎ去って五月。

 夕飯も入浴も晩酌も済ませ、気候が良いので窓を開け放ち、巨大化してくれた忠太のフカフカなお腹に頭を預けて仰向けでスマホを弄り、こうなったらもう寝落ちするの待ち――くらいだらけていたところに、そのスマホから眠気をぶち壊すファンファーレが鳴り響いた。

「ぅうわっ、たっ、と……ぁ痛っ!?」

 びっくりして手からすっぽ抜けたスマホが顔面を直撃し、うとうとと緩やかに上下していた忠太のお腹が、頭の下でビビビッと震えた。

 鼻を押さえて鼻血が出ていないか確認していると、横から忠太の手が伸びてきて頭を撫でられる。鼻は痛いままだし髪がぐしゃぐしゃになったけど、心配されるのは心地良いからまぁ良い。それは良いんだが――。

「げぇっ……」

「ヂュヂュッ……」

 思わず忠太と仲良く汚い声を出してしまった。ファンファーレ音からして誰からか予想はしていたものの、実際に画面に浮かんだメッセージに辟易するのは仕方ない。駄神だ。しかも今回は〝読み上げ機能を使う前に、このURLをクリックして下さい〟とあった。

 昼間に明日は転生して二年目だから、何かお祝いでもしようかと忠太と言っていたところに、ここまで嬉しくない着信があるだろうか。否、ない。

 とはいえ、メッセージの件名が〝転生二年目おめでとうサプライズ!〟なので、何かしら新しい能力がもらえる可能性もある。でも奴からのかなり久々のメッセージだ。身構えもするだろう。忠太と顔を見合わせて押すか押すまいか悩んでいたら、横から現れた金太郎がURLをポチッた。

「あ、コラ金太郎! お前なんてことを――!?」

「チチチチッ!?」

 子供が遊んでてエロ広告を押してしまった親よろしく、慌てて悪戯好きゴーレムを取り押さえた直後。

『お、やっと繋がりましたね。テステス、聞こえますか~?』

 聞き覚えのない中性的な声と共に画面に現れたのは、サイラス並に白い肌をしたやけに顔の良い女性……いや、男性かも? けれど気になるのは性別ではなく、ヌルヌル動くイラストであるという点とそのファンタジーな耳か。

 勿論突っ込みたい部分は他にもいっぱいある。あるのだが、ここでまずはっきりさせておかねばならないのは――。

「駄神……お前さ、最近全然反応がなくて平和だと思ってれば……そっちで何やってるんだよ?」

『以前から配信を観ていて楽しそうだったので、VTuberになってみました。とはいえ、配信はまだやってないのですが。こっちではこんなに簡単に偶像になれるんですねぇ』

 ここにもいたか。春に新しいことに挑戦する勢が。問題はこいつが挑戦すべきことはこっちへのポイント還元であって、VTuberではないってことだ。投げ銭だけで満足していると思っていただけに、寝耳に水加減が半端ない。忠太も半眼で呆れた様子で動画を視聴している。

「あのなぁ偶像になりたいならこっちでやりゃあ良いだろ。その声もどうせ地声じゃないんだよな? ボイスチェンジャーか?」

『ええ、そうですよ。良く分かりましたね。機材諸々合わせて三十万円と少しくらいでした』

 両手を胸の前で組んでにっこりする金髪緑眼のエルフ。あざとい。かなり絵師の技量に乗っかってるが、これなら確かに最初の配信を工夫すれば多少は観る人間もいるかもしれない――って、ん?

「ちょっと待て。聞き捨てならない単語が聞こえたんだけどさ、その金はどこから出したんだ」

『それは勿論、貴方の口座からですよ。わたしはこちらの通貨を持っていませんからね』

「はぁ、もうお前って奴はよぉ…………何が転生二年目おめでとうサプライズだ。要件がこれだけならもう切るぞ」

 いくら億単位の金を持っているといったって、目の前にそれを積んでいるわけじゃない。ただの数字として印字されているだけの金額を、自分が稼いでいるという実感は未だにないのだ。だからもう食うに困らないと言われたって、はいそうですかとはならない。 

 あの光熱費と食費と家賃に怯えていた日々を忘れることなんて、たぶん一生ないだろう。だというのにこいつときたら……簡単に使い込んでくれるぜ。VTuberじゃなくて政治家の方が向いてるよ。

 とはいえあれだけあっちの文化に興味を持っていたら、投げ銭だけじゃなくていつかやらかすとは思ってただけに、怒りはそれほどでもない。自分でも意外だ。もたれている忠太の毛が怒りで膨らんでフッカフカになっているから、かえって冷静になれただけかもだけど。

『まぁまぁ、そう仰らず。何も返金しないとは言っていないではありませんか。それに今回のこの配信は練習も兼ねていますが、実際に〝あの始まりからよく二年生き残りましたね〟記念の報酬もちゃんと用意していますよ』

 そう言って投げキッスの仕草をしてくる駄神のアバターに中指を立てたのは、忠太と笑えるくらい同じタイミングだった。

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