ナイナイ尽くしの異世界転生◆翌日から始めるDIY生活◆

ナユタ

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◆第十章◆

*10* 一人と一匹、待ち合わせる。

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「よしよし……パッと見た感じだと、大体これでこの町の周辺をショバにしてる冒険者達には行き渡った感じだな」

 ギルドから出てくる女性の装備品を少し離れた場所から目視で確認し、新しい市場が開拓出来た手応えに拳を握る。フェイクではあるものの、見た目が見た目だけに甘い匂いがしてきそうだ。

 レティーの春休みの自由研究的な試みに手を貸してから、今日で十二日目。最初スタートダッシュこそ食べ物の形のアクセサリーに〝可愛い〟を感じてもらう時間を要したが、四日前に忠太(人型)が広告塔になってくれたおかげで、一気に冒険者達の間で広がった。

 クッキーを模した魔宝飾具をつけているのは大半が女性冒険者だが、時々恋人同士っぽい冒険者達がお揃いの属性違いなクッキーをつけてたりするので、まだその辺をついて季節限定のお菓子を使えば広がりを作れるな。練習しよ。

「ええ、ただここだけで満足していたのでは勿体ない。これはもっと人の多いところに出せばもっと流行る。流行は点から面に持っていくものですよお嬢。コーディーにも持たせてますし、わたしも勿論遠方への商いには持って行くつもりです」

「アダモラの生地で作ったローブとのセット販売も順調ですよ。僕が自ら接客しないでも若い女性が買っていかれるんです。クッキーのコサージュと髪留めと腕輪など、仕入れさせて頂いた端から飛ぶように売れています。ですので、エドさんや貴女には申し訳ないのですが……」

「あぁ、毎日覗きに来る客がいるな。まぁクッキーや他の商品も買って行ってくれるから良いよ。レティーも目論見が当たって喜んでるし。レポートにまとめて春休み明けに提出するって張り切ってる」

「ハッハッハ、それは頼りになる。商魂逞しくいお嬢さんがいて羨ましいものだ。あの子は将来良い看板娘になりますよ」

「僕は女性商人はもっと増えて然るべきだと思います」

「お、奇遇ですな。わたしも常々そう思っているのですよ。お嬢と一緒に仕事をするようになってからは特に」

「そうですよね!!」

 魅了封じの眼鏡を押し上げつつ微苦笑を浮かべるローガンだが、その瞳は楽しげに輝いている。ちなみにブレントとローガンはそれなりに気が合うようで、喧嘩になったりはしない。

 それはローガンが突っかかるにはブレントが成熟した大人であり、成り上がりではあるものの、その時流に則って舵取りをしてきた商人であるからだろう。ローガンは変態なところを除けば商人として優秀だし。

 和やかに「お、あの布地ですか。あれは良い物ですね。どうです、うちにも少し噛ませてもらえませんか?」「それは願ってもない申し出だ。是非一般向けの商品化について助言を頂きたい」と、大盛り上がりだ。ここにいないコーディーが若干可哀想ですらある。余計な世話かもしれないが、ちょっとは会話に入れておこう。

「それをいうなら、コーディーさんだって立派な看板息子だ」

「いいえマリさん。野郎が店に立つのと、女性が店に立つのとでは全然違うものですよ。特に彼は愛想笑いが下手で顔が怖い……と、親御さんの前で失礼でしたね。申し訳ない」

「いやぁ、うちのは確かに愛想が良いとは言えませんので構いませんよ。ただ馬鹿がつくほど真面目な奴だ。あいつにつくお客は、信用を買うんでしょうな。愛想笑いが得意な父親のわたしとは売りが違う」

 そう言って豪快に笑うブレントを見てホッとした。全然似てない親子だけど、息子のことをちゃんと見て評価してる。部外者の私が不在のコーディーをフォローするまでもなかったみたいだな。エドのとこにしても、ブレントのとこにしても、毒親育ちの身としては少し羨ましい。

「でも男が店番云々って話なら、お前だって自分で店に立ってるだろ。世間的には顔も整ってるし、自分のことを看板だと思ってのことじゃないのか?」

「おや、そこは世間よりもマリさんの評価の方が気になりますね」

「いちいちそういうの面倒くさいから止めろ。次に同じ質問したら蹴るぞ」

「でしたら尚更マリさんの評価の方が――あひぃん!!!」 

 純粋に気持ち悪さからローガンの尻を蹴り上げてしまった。ブレントが一瞬面食らった顔をしたけど不可抗力だ。蹴られた本人が「ふ、ふふふ……これがマリさんに蹴られる感触……」と地面に突っ伏して笑ってるから良いだろ。魅了魔法を使わないでも良いくらいの美形がして良い顔じゃないが。

 人間の鳥肌って足の甲にも出来るんだって初めて知ったわ。蹴った衝撃より喜ばせてしまった嫌悪感が勝るってよっぽどだぞ?

「じゃあ売れ行きの感じが分かったから今日はここで解散な。私はこのあと採取に行くからギルドで適当な護衛を探しに行くんで、ブレントさんはこいつをよろしくお願いします。このままだと通行の邪魔になるから」

「はぁ、それはまぁ、了解しましたが――なんていうのか、最近の若いのはそういうのが流行りなんですねぇ」

「絶対違うと思う。でも放っておいたら同業者の迷惑になるし、私がもう一回蹴るとこの変態を喜ばせるだけなんで」

「あぁ……今日も容赦のないマリさん、素敵だ……もう一回お慈悲を……」

「そのようですな。すぐに道の端に避けておきましょう。ではお嬢、外へのお勤め気をつけていってらっしゃい」

 面白がってわざと誤解を招く発言をするブレントに苦笑しつつ、通行人達の視線が集まってきたので、二人をその場に残してさっさと冒険者ギルドに飛び込んだ。入ってすぐに「よっ、見てたぞ、女王様!」とか「美形が虐げられてるのって良いわよね~」なんて言葉を投げかけられたが、それに中指を立てたり顔の前で手を振ったりして応える。

 向かう先はベテランのおっさんがいるカウンター。その前に立っておっさんと談笑している人物の背中に近寄っていくと、先にこっちに気付いたおっさんがニヤァと笑った。この間から何なんだその意味ありげな笑顔はと思いながらも、ポスッと加減をした拳を打ち込んで、振り向いた相手に声をかける。

「待たせて悪いなミツネ。今日もその魔宝飾具の性能を調べがてら、採取中の護衛よろしく頼むな!」
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