182 / 216
◆第九章◆
*11* 一人、説明不足にも程がある。
しおりを挟むパッ、パッと、不規則なリズムでダンジョンの壁が虹色に輝く様は、プロジェクトマッピングみたいに見えなくもない。スマホから流れてくるご機嫌な転売ヤー処刑メロディーも相まって、こう、田舎のよく分からないご当地キャラがいる遊園地未満って感じ。
その光源の元となっているのは私が首からさげてる黒い巾着なんだけど、内側から時折「〝チュウ……〟」「〝チチッ……〟」と悲壮感漂う声が聞こえてくる。別に巾着に命が宿ったとかわけではなく、中でゲーミングカラーに輝くハツカネズミがいじけているのだ。安定の不憫可愛い。巾着の口を開けて覗きたくなるところを、グッと我慢する。
金太郎が私の肩に飛び乗って巾着の中を覗こうとしてくるが、ここは死守。面白がっているのと心配してるのが半々だからなぁ……。
あのマジック・マッシュルームと呼ばれる魔力増幅キノコのソテーを食べて十分後、忠太が突然エレクトリックな輝きを放ち始めた。人型のままパレード感のあるゲーミングカラーをダンジョン内で振り撒かれると、当たり前だが魔獣を引き寄せやすい。あと普通に忠太本人がその状況に耐えられなかった。純粋に羞恥で。
しかし忠太いわく味は良かったらしい。エリンギっぽく見えたものはクリーミーで、シメジっぽいのがスパイシー、エノキっぽいのはハーブの味がしたそうだ。どれもゴーレムに生えていた時は小さく見えたけど、もらってみたらどれも一本で一抱えくらいの大きさがあった。各一種類くらいで止めとけばよかったんだが……食い意地が出ちゃったのは、いつもの忠太を考えれば仕方ないな。
言い訳をするつもりはないものの、元の魔力量を考えたら忠太が食べるべきだと思ったし、その判断は間違っていなかったことは、数分後にスマホに通知で届いた数値からも分かる。でも絶対駄神はどこかでこの状況を笑ってるんだろう。シバきたい。
でも何よりも謎なのは、膝を抱えているゴーレムの隣で一緒に座り込んでいる現状なんだけどな。キノコの(巨)原木と背中合わせな気分。
「〝あの……すみません、チュータ。まさかそんなに輝くとは思わなくて。僕の時はここまで光らなかったものですから。貴方の能力値が高かったからこそです〟」
スマホから本当に気の毒そうなサイラスの励ましの声が聞こえてきたものの、真っ黒な遮光布で作った巾着が内側からボスッと蹴られて揺れただけだ。これはかなり拗ねてるな、無理もないけど。
ちなみに巾着の製作時間は十五分。小さいとはいえ、袋小物の製作時間がかなり早くなった実感がある。忠太にはその間は伏せたアルミ計量カップの中で待機して頂いていた。まさかダンジョンの地面にダイヤモンドの輝きが灯るとは思ってなかったが。
「サイラス、この効果ってどれくらい続くものなんだ?」
「〝僕の時は一時間くらいでした。おそらく今回も同じくらいだと思いますが……食べた量が……〟」
「だってさ忠太。ここまで結構頑張って進んで来たんだから、ここらへんで休憩すると思えば良いさ。ファーム・ゴーレムもまだ話し相手がほしいみたいだし」
そう言いながらチラッと隣のゴーレムを見上げるが、LEDカンテラで私と自身の周囲を囲んでご満悦そうだ。魔法陣から一緒に召喚されたみたいな状況だけど。薄っすらと苔むしたその身体からは、早朝の朝露に濡れた森の匂いがする。巨体の割に小さな頭部に嵌まった白い石の目(?)がこちらを見下ろしていた。
「――……まぁ、何て言ってるのかまでは分からないけど」
分からないなりに、敵意がないというのは何となく分かる。サイラスの言うように知恵があるというのも頷けた。すると金太郎が私の肩からゴーレムに飛び移り、その巨体を駆け上がっていった。頂上を頭と仮定するなら、その手前の肩口までを登りきった金太郎に下から拍手を送る。
ちょっとサイズ感がおかしいけど、ラピュ○のロボット兵とキツ○リスの関係性に見えなくもない。ゴーレムは登ってきた金太郎に視線を移し、興味深そうに見つめている。そこでふと〝これ、もしかして質問する良いタイミングなのでは?〟ということに気付いた。
スマホに映る私の姿を真似たサイラスは、二体のゴーレムをどことなく微笑ましそうに眺めている。その目を盗んで巾着に唇を近付けて、忠太に「好機っぽい」と囁やけば、中から「〝チチチッ!〟」とやや張りのある鳴き声が聞こえた。うむ、我が意を得たり。では――。
「なぁ、サイラス。今このゴーレム見てて質問したいことが出来たんだけど」
「〝はい、何でしょう?〟」
「このダンジョンってさ、お前がいた時から、こういう変わったのが出てくる隠し部屋が多かったりするのか? それも変わった現象が起こったりするようなの」
「〝ええ、僕が守護精霊だった頃から割と運試し要素がありました〟」
「じゃあ、たとえばその中で、元々命がなかったものが勝手に動き回る部屋とかってあったりした?」
「〝ありましたよ。そもそもそこにいるゴーレムからして元は土人形ですから。懐かしいですね〟」
こちらの質問に答えてくれるサイラスに対し、段々と心音が早まっていく。それでも努めて冷静さを装いながらいくつかゆっくりと質問を重ねていき、答えの範囲を狭めていく中で、ついに核心をつく質問に触れた。
「ええと、あの、あー……このダンジョンで、私みたいな転生者が一からゴーレムを造ることって可能なのか? 金太郎みたいな」
最後の最後でグルグル考え過ぎて色々すっ飛ばしてしまった私の問いかけに、巾着からゲーミングカラーハツカネズミが飛び出してきた。
20
お気に入りに追加
151
あなたにおすすめの小説
子育てスキルで異世界生活 ~かわいい子供たち(人外含む)と楽しく暮らしてます~
九頭七尾
ファンタジー
子供を庇って死んだアラサー女子の私、新川沙織。
女神様が異世界に転生させてくれるというので、ダメもとで願ってみた。
「働かないで毎日毎日ただただ可愛い子供と遊んでのんびり暮らしたい」
「その願い叶えて差し上げましょう!」
「えっ、いいの?」
転生特典として与えられたのは〈子育て〉スキル。それは子供がどんどん集まってきて、どんどん私に懐き、どんどん成長していくというもので――。
「いやいやさすがに育ち過ぎでしょ!?」
思ってたよりちょっと性能がぶっ壊れてるけど、お陰で楽しく暮らしてます。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@書籍発売中
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
その幼女、最強にして最恐なり~転生したら幼女な俺は異世界で生きてく~
たま(恥晒)
ファンタジー
※作者都合により打ち切りとさせて頂きました。新作12/1より!!
猫刄 紅羽
年齢:18
性別:男
身長:146cm
容姿:幼女
声変わり:まだ
利き手:左
死因:神のミス
神のミス(うっかり)で死んだ紅羽は、チートを携えてファンタジー世界に転生する事に。
しかしながら、またもや今度は違う神のミス(ミス?)で転生後は正真正銘の幼女(超絶可愛い ※見た目はほぼ変わってない)になる。
更に転生した世界は1度国々が発展し過ぎて滅んだ世界で!?
そんな世界で紅羽はどう過ごして行くのか...
的な感じです。
異世界転生したので森の中で静かに暮らしたい
ボナペティ鈴木
ファンタジー
異世界に転生することになったが勇者や賢者、チート能力なんて必要ない。
強靭な肉体さえあれば生きていくことができるはず。
ただただ森の中で静かに暮らしていきたい。
今さら言われても・・・私は趣味に生きてますので
sherry
ファンタジー
ある日森に置き去りにされた少女はひょんな事から自分が前世の記憶を持ち、この世界に生まれ変わったことを思い出す。
早々に今世の家族に見切りをつけた少女は色んな出会いもあり、周りに呆れられながらも成長していく。
なのに・・・今更そんなこと言われても・・・出来ればそのまま放置しといてくれません?私は私で気楽にやってますので。
※魔法と剣の世界です。
※所々ご都合設定かもしれません。初ジャンルなので、暖かく見守っていただけたら幸いです。
没落貴族の兄は、妹の幸せのため、前世の因果で手に入れたチートな万能薬で貴族社会を成り上がる
もぐすけ
ファンタジー
俺は薬師如来像が頭に落ちて死ぬという間抜けな死に方をしてしまい、世話になった姉に恩返しすることもできず、異世界へと転生させられた。
だが、異世界に転生させられるとき、薬師如来に殺されたと主張したことが認められ、今世では病や美容に効く万能薬を処方できるチートスキルが使える。
俺は妹として転生して来た前世の姉にこれまでの恩を返すため、貴族社会で成り上がり、妹を幸せにしたい。
このやってられない世界で
みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。
悪役令嬢・キーラになったらしいけど、
そのフラグは初っ端に折れてしまった。
主人公のヒロインをそっちのけの、
よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、
王子様に捕まってしまったキーラは
楽しく生き残ることができるのか。
3521回目の異世界転生 〜無双人生にも飽き飽きしてきたので目立たぬように生きていきます〜
I.G
ファンタジー
神様と名乗るおじいさんに転生させられること3521回。
レベル、ステータス、その他もろもろ
最強の力を身につけてきた服部隼人いう名の転生者がいた。
彼の役目は異世界の危機を救うこと。
異世界の危機を救っては、また別の異世界へと転生を繰り返す日々を送っていた。
彼はそんな人生で何よりも
人との別れの連続が辛かった。
だから彼は誰とも仲良くならないように、目立たない回復職で、ほそぼそと異世界を救おうと決意する。
しかし、彼は自分の強さを強すぎる
が故に、隠しきることができない。
そしてまた、この異世界でも、
服部隼人の強さが人々にばれていく
のだった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる