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◆第九章◆
*8* 一人と一匹、実食。
しおりを挟む「あの……本当に食べるつもりですか、マリ?」
「〝コカトリスの卵を食べようだなんて……前代未聞です〟」
「二人してそんな驚くなよ。このためにわざわざコンロと玉子焼き器を用意したんだ。大丈夫大丈夫。こう見えて割と卵巻くの上手いんだから」
ちなみにコンロは森の小屋から、玉子焼き器は三百均の安物、紙皿と割り箸と菜箸と計量カップは百均だ。調味料は一番小さい卓上用を購入した――っていっても、スティックシュガーと醤油と塩しか使わないけど。
玉子焼きには塩しか入れない派、醤油しか入れない派、砂糖しか入れない派。私は邪道と言われようが全部入れ派だ。目玉焼きにも塩か、醤油か、ソースかなどなど、大した調理をしないでも色々とこだわりがある人もいるけど……と、話が逸れたな。
「じゃ、まずは一個割ってみるぞ」
言いながら二人の返事を待たずに一個割る。殻はあとで洗って素材として使えるか知りたいから、なるべく綺麗に真ん中で割るように意識を集中。
普通のニワトリの卵より殻が硬いか? 計量カップの中にトプンと落ちたそれは、夏場の濃い夕陽のオレンジ色よりなお鮮やかだ。スーパーに並ぶお高い卵の写真と同じくらい上質な艶と張り。特に変な臭いもない。この時点では食べても問題はなさそうだ。
二個、三個、四個と次々割り入れ、調味料も加えていく。卵は菜箸で互い違いに混ぜると、白身が切れて混ざりやすくなる……らしい。綺麗に混ざった卵液を熱した卵焼き器に少し流し入れ、半熟の薄焼きの間にくるくる巻いていく。端に寄せたら菜箸で数回刺して穴を開け、膨らみすぎを防ぐ。これをくり返す。
あと精霊陣の二人には言っていないが、個人的に何となくこの卵を食べると何かが起きる気がしている。最近レベルアップ通知が来ないことを鑑みるに、あいつ飽きてるなと。広域で言えば調理もDIYだろ。別に今に不満があるわけじゃ全くないけど、忠太が自由に使えるポイントはもっと欲しい。
意地の悪い駄神への逆信頼ってやつだ。まぁ逆信頼とか言い方を変えたところで、要は不信感なんだけど。
ジュウジュウという卵の焼ける音と、香ばしい醤油の匂いが空間に満ちていく。こうなってくると単純に腹が空いてきた。最初は引き気味だった忠太とサイラスも、段々と食べ物らしくなってきたコカトリスの卵に興味津々なのか、じっと大きくなっていく玉子焼きを見つめている。
四個分ともなるとかなり嵩高になってくるから、卵液の半分量を使ったところで一回紙皿にポン。二回に分けて焼くことにした。その方が忠太にも分けやすいし。一度目と同じ工程をくり返すものの、今度は二人とも口を挟んでこなかった。金太郎は私が割った卵の殻をうっとり眺めている。折り紙も金と銀が好きだもんな。
「――っし、これで完成だ。こっちの出来立てのやつは忠太が食べろ」
焼き上がったばかりの濃いオレンジ色の玉子焼きを紙皿に移して差し出すと、忠太は驚いたように目を瞬かせた。
「何だよ。毒があるかもしれないからって、一緒に食べてくれないのか相棒?」
わざとと犬歯を見せつけるように挑発的にそう言うと、忠太はムッとした表情になりながら「毒かもしれないなら、わたしが先に食べます。マリはわたしのあとに食べて下さい」と言って、普段の行動からすればやや乱暴に皿を奪われた。
「馬ぁ鹿。一緒にって言ってるだろ。死ぬなら一緒だ」
「駄目です。わたしはマリの守護精霊ですよ。その提案を許すはずがありません」
「頼りになる守護精霊がいないでこんな世界で生き残れないって。だから一緒だ」
「金太郎はどうするんですか。一人になってしまいますよ」
「んー? たぶん毒で死ぬまで多少時間があるから、すぐにスマホが使えなくなることはないだろうし、その場合は金太郎はスマホで飛んで、レベッカの家でベルと一緒に暮らせば良いだろ」
「無茶苦茶すぎます。第一、金太郎が可哀想ですよ」
「だったらその時に金太郎に決めさせれば良いだろ。コンロがあるから一緒に死にたかったら飛び込んでくれな、金太郎?」
話題を振られた金太郎は頷き、コンロの側でスタンバってくれた。いや、そこは死んでくれるのかよ。男気あるなぁこの羊毛フェルトゴーレム。そんな様子をスマホのカメラ越しに視聴しているサイラスは、どこか陰のある表情で私達のやり取りを見ていた。
勝算は……五分五分ってとこだけど、不思議と死ぬ気はまだしてない。ここで私が死ねば退屈するのは駄神の方だからな。我ながらいつからこんなに楽観的な博打打ちになったんだかとは思う。
「ま、結局最後は運の問題だって。ごちゃごちゃ言ってる間に冷めるぞ。ほらさっさと食おう」
まだ何か言いたそうな忠太の言葉を封じて割り箸を押しつけ、諦めた表情になった忠太と同時に玉子焼きを一口大に切り分けて口に入れる。焼いてる時は普通の卵と変わらない印象を受けたコカトリスの卵は、意外にも口に含んだ瞬間ほろりと蕩けた。
味も生クリームかチーズ入れたっけ? ってくらいねっとりとしてて、かなり濃厚。いくらでも食べられそうだ。身構えていた舌の痺れもエグみも臭みもない。ただただ――。
「うっっっ~~っまぁ! 何だこれ!?」
「これは……本当に美味しいですね!!」
「最後の晩餐に食う価値があるぞ、マジで!!」
「不謹慎ですが同感です! ネズミの姿で食べても良いですか?」
「あ、お前それはちょっとずるくないか? なぁ、ずるくないか?」
あの不気味な見た目の魔物から出てきたとは思えない味に忠太と二人で興奮していると、金太郎もセーフと判断したのか、コンロから離れてこっちにやってきて小躍りしだした。その時スマホ越しにくぐもった笑い声が聞こえて。貴重な映像の気配を察して画面を見ようとした直後、見越したようなタイミングでメールの受信音が鳴った。ほら見ろビンゴだ。貴重映像の方に後ろ髪を引かれつつメールを開いて見ると――。
ーーーー
₯▲√₹₪₪₰■ ℘₪℘₣■■₪₪₰℘ 20000PP+
₣₱₪₷◆₪₪₷▲ ₪₪₱▼₫₣₪■℘℘ 100000PP+
₫√₱▼▲▲₪₣℘◆ 31000PP+
ΨΦΔΔ■ΣΨΦ ΔΔΦ//ΨΨΦ 180000PP+
称号が【加護持ち++ハンドクラフター】にランクアップ。
素材コピー中級(一日に五回まで少し複雑な構造の素材コピーが可能)
一度作ったアイテムの複製☆8(一日二十四個まで。高レア品は不可)
レアアイテム拾得率の上昇。☆6
体力強化(体調不良時に微回復)☆2から☆5にスキップ。
手作り商品を売るフリマアプリで新着に三十分居座り続けられる。☆
着色・塗装(ただし単色無地に限る)☆2から☆4にスキップ。
製品耐久力微上昇。☆3
対象者の内包魔力量の増加。
アイテムに対しての全属性付与可能。☆
低レベルのレアアイテムを使った作品の複製が可能。
今までに訪れた場所であれば転移出来る。一度に四ヵ所まで選択可能。←up
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現地の言葉を話せるようになる。
現地の文字を書けるようになる。
現地の計算方法を身に付けられる。
現地の歴史について身に付けられる。
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【トリックスター】
【バーサーカー】
【精霊テイマー】
☆新たな称号【悪食】が加わりました!
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【特種条件クリアオプション】
守護精霊の能力育成。
異世界思念のポイント化。
異世界食材入手での身体強化←New
*****である第*難関〝弱肉強食〟を***で入手。
ライブラリーの一部閲覧範囲が広がりました。←up
商品カタログ作成が可能(手元にアイテムがなくても複製が可能になる)
ーーーー
ズラッと並ぶレベルアップの表示に思わず「っしゃあ! 読み勝った!!」と声を上げた私の言葉に、横から忠太が玉子焼きを頬張りながら「流石はマリです」と、くるり。華麗に掌を返した。
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