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◆第四章◆
*4* 一人と一匹、と、二人と二羽。
しおりを挟む「あたし達はこの学園に籍を置いたまま家業を手伝っているから、休学したり復学したりしてるけど、その間にここのダンジョンについての記載物は粗方漁ったもの。ただ、そうね。偶然でも何でも良いけど面白そうだわ」
「マリ達の話を聞いていたらわたし達も興味が出てきたの。そういう面白そうな偶然は二度は起こらないのかしら?」
ヒョイと肩を竦めラーナに、サーラも頷きながら内心を捕捉してくれる。彼女達の足許でガスガス地面をつついているローローとヨーヨーも、主人達の楽しそうな声を聞いて「「ダンジョンイク。カネメノモノ、ミツケル」」と喋った。
その後は「ダンジョン、クラーイ」「ダンジョン、ヤバーイ」と謎の節回しの歌を歌って、食事中の私達の頭上を飛び回る。この二羽も忠太ほどじゃないけど結構お喋りなんだよな。
「ご飯の途中で行儀が悪いわ。羽根が落ちるから止めてヨーヨー」
「あなた達砂浴びしたのね。砂が落ちてくるわ。止めてローロー」
「トリヒキシマショ。ヨーヨーハ、ドライフルーツ、スキ」
「トリヒキシマショ。ローローハ、ローストナッツ、スキ」
騒がしくするのを止めて欲しければ好物を寄越せと主人にせがむ大きな鳥達。その姿を見た忠太が咄嗟に私のローブの陰に潜り込んで、上空を警戒しながら残りのパンを口に詰めていた。こういう時にハムスターとかリスと違って、頬袋がないネズミって不便そうだな。
目の前に落ちてきた赤と青の羽根を一枚ずつ拾い上げて陽に翳してみる。羽根ペンに出来ないものだろうかと考えていたら、ローブの陰から鼻先を出した忠太が【しろ あきますよね】とヒゲを下げたので、慌てて「私は白好きだぞ。忠太の色だもんな」と返したら、ヒゲがピンと上向いた。今日も相棒が可愛い。
パンのドライフルーツが多く残ってる部分を大事に残してるところも可愛い。私のパンからクリームチーズとレーズンの部分を掬って渡してやると、紅い双眸をキラッキラさせて受け取った。忠太って食には意外と貪欲なんだよな。
「ま、何にしてもそこは偶然だからな。でも私の故郷では二度あることは三度あるって言葉があったくらいだから、運良く二度目に当たれたら三度目もあるかもよ」
【まえむきな はっそう なのに あんまりようと まえむきそう じゃない】
「お、当たり。本来の意味は確か……物事は繰り返すから、一度やらかした失敗をまたする可能性がある。次があると思って気を付けろ……とか、何かそんなの?」
忠太の鋭い指摘にうろ覚えすぎる答えを出したけど、正解からそう遠くないと思う。それを聞いた忠太は【なるほど ためになる ことばですね】と真剣に頷く。
そのヒゲ先についたクリームチーズを拭ってやっていると、頭上から肩に定位置を変えたヨーヨーとローローの口に、それぞれの所望品を突っ込んでいた双子が「「ふむ」」と同時に唸った。
「それってどのみち二度目の偶然には出会わないと駄目ってことよね?」
「二度目の偶然に会うには一度目の偶然に状況を寄せないといけないわ」
「じゃあ実習の一貫で一緒にならないと駄目ね。でもダンジョンに潜るなら、先に何か魔宝飾具を作らないと。そう言えば最近はあまり作ってないわね」
「そうね。ヨーヨーもローローも戦闘向きじゃないから、魔宝飾具は必須だわ。けど確かに最近は家の仕事に役立ちそうな物しか作っていない気がする」
それを言ったら完全に戦闘向きでない忠太と潜った私はどうなんだと思いつつ、目の前で繰り広げられる一人漫才みたいな状況を眺めていたら、忠太も同じようなことを考えていたらしい。けどやや私の見解とは違って【あのにわ もうきんるい こうげきりょく たかいですよ】と首を捻っていた。そっちかよ。
でも言われてみれば逞しい脚と鉤爪に鋭い嘴と、普通の鳥の使い魔と比べて戦闘力はありそうか。だとしたら双子の過保護フィルターが弱く見せてるだけだな。
ちなみに二人がダンジョンで使う魔宝飾具は目眩まし系だ。それも同じ性能が二人分の二重がけ。一緒に潜ってみた時にはかなり強力で助かった。考えてみれば当然だけど戦闘をしないでやり過ごせる採取が一番良い。欲しい素材が魔物から剥がないと手に入れられない時以外は。
まだ話を続けている双子を観察していたら、昼休みの終了五分前を告げる鐘が鳴って。これでひとまずこの話題は放課後に持ち越しだな――と、戻ろうとしていた渡り廊下の方が俄に騒がしくなった。
漫才をしていたラーナとサーラも気付いたらしく、ヨーヨーとローローに「「様子を見てきて」」と命じる。二羽は追加でドライフルーツとナッツを巻き上げ、騒ぎのする方へと飛び去って行った……が、すぐに戻ってきた。
「マホウショクグ、ホシイヤツラ、キテルラシイ」
「ムコウノ、イケスカナイ、ボンボンガクエンノ」
そう言ってラーナとサーラの肩に乗った二羽が「オカネハスーキ」「カネモチキラーイ」と羽根を膨らませた。双子もどこか嫌そうな表情を浮かべている。金持ちに嫌な思い出でもあるんだろう。ここまで露骨に嫌われてるとか……レベッカの行ってた学園の生徒ってよっぽどだな。いや、知ってたけどさ。
「あっちの学園から来たってことは、きっとまた親の地位やお金にモノを言わせて専属魔宝飾具師を探しに来たんだわ」
「自分達が声をかけたら喜んで専属になりたがると思ってるのよ。迷惑だし思い上がりも甚だしいわね。ああ、でも――、」
――と、そこでまた双子は顔を見合わせて、探るように「「マリは専属に興味があったりするのかしら?」」と尋ねてきた。心配そうな表情にもそれぞれの個性が出て面白い。存外一卵性でも見分けがつくものなんだな。
「ないよ。私と忠太はもう雇われ先も決まってるし、その関係であっちの学園に良い印象がまったくないんだよ」
その答えを聞いた双子はどこかホッとした表情を浮かべて頷き合うと「「だったらちょっと遠回りだけど、あっちの渡り廊下から行きましょ」」と笑った。
「了解。次の講義同じの取ってて助かったよな」
【ですね まり せんけんの めい あります】
「よせやーい」
「「シーッ!」」
何てやり取りを挟みつつ、持つべきものは目眩ましの上手い学友だなと思いながら、その後ろを追いかけた。
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