◆悪役霊嬢は深夜十二時、推しの上で愛を囁く◆

ナユタ

文字の大きさ
上 下
21 / 25

*19* 言葉で触れて。

しおりを挟む
「拙者、アカツキと申す。実は先日、こちらの近くに住む巫女の女性と、お見合いをしたのでござる」

 聞けば、相手の機嫌を損ねてしまったとのことです。

 どうやら、ソナエさんのお見合いの相手とは、アカツキさんのようですね。

 隣のソナエさんを、確認します。

 あー、怒っていますねぇ。

 わたしたちは暗がりにいるのですが、ソナエさんの青筋がくっきりと見えますよ。

 ソナエさんの腕を、ヒジで小突きます。
 態度で示すと、相手にも伝わっちゃいますよ。

 ダメですね、これは。話す気がない模様です。

 ソナエさんがここまで立腹している姿は、初めて見ました。

 よほど、腹にすえかねる物言いをされたのでしょう。

「何を話されたんですか?」
「他愛のない話です。どのような酒を好むか、あてはどれか。拙者は、トマトやチーズだけでも楽しめるというと、相手はたいそう喜んでくださいましたぞ。食事の好みも、ほぼ同じだったので、大丈夫だと思うていたのです」

 よかったじゃないですか。なにが不満だったのでしょう?

「発言に失礼があったか、心当たりはありますか?」
「無礼だったのは、両親です」

 初対面だというのに、お母様がやたらとソナエさんに小言を言ってきたとか。
 相手方の両親ができた人で、そのままことなきを得たと言います。
 お父様まで叱り飛ばしたくらいだとか。

「あなたご自身に、問題があったとのお考えは?」
「思い当たるフシが、何も。おそらく、それも怒らせた原因だったのでござろう。なんてことのない会話で、憤慨されたのでしょう」

 反省は、しているようですが。

 あー、もう。
 ソナエさんブチギレじゃないですか。

 これは、早く解決せねば。

「何を話したか、再現はできますか」


「毎朝、あなたの味噌汁が飲みたいと」


「……あー」



 これは、罪深つみぶかい。



 ダメですね。ダメダメです。これはギルティというしかありません。

 実に罪な発言ですよ、これは。

「おサムライさん。あなたは首をハネられても文句が言えません」
「そこまででござるか!?」
「あなたの中では、朝は眠いのにお味噌汁を作るのは、女性だけなのですね」

 まだわかっていないのか、アカツキさんは黙り込みます。

「あなたは、炊事などの家事を奥様一人に押し付けるおつもりで?」
「……っ!」

 アカツキさんが、ハッと息を呑みました。

 わたしの言わんとしていることが、ようやく飲み込めたようで。

「失念していた。これでは、母と同じではないか!」
「では、その旨をお伝えください。きっと、わかり合えるはずですから」


 シスター・エマと一緒に、お粥のお店で休憩をします。

 
「とにかく、指示に従えって注文が多いんだよ。武家だからかねえ」

 わたしは、とかくその「武家」なるワードがひっかかりました。

 どうもブケというのは、こちらでいう「騎士団」のような役職だそうで。

「ブケ、という家系は、そんなにめんどくさいの?」

 エマからの質問に、ソナエさんは「うんうん」とブンブン首を振ります。

「しきたりには、うるさいかな? 考え方が古いから」

 こちらも、騎士や貴族の中には柔軟な考えの人は少ないかも知れません。

「謎マナーが多いぜ。箸の持ちからや食べ方まで、指図してきやがる」

 めんどうな方みたいですね。

「ですが、お料理が上手じゃないですか。結婚のご意思自体はあるのでは?」
「あたしが食べたいから、料理が勝手にうまくなったんだ。伴侶なんて、考えたこともないさ」

 自分がおいしい晩酌を楽しみたいから、料理の腕を磨いたとのこと。

 なるほど、自分のためならいくらでもおいしいものを作るけど、他人のためとなると話は別だと。


 休憩を終えて、再度ザンゲ室へ。

 今度の方は、お歳をめしたおばあさまのようで。


「実は先日、息子の見合い相手にきつくあたりすぎてしまって」


 へ? 

 今度は、お見合い相手のお母様がいらっしゃったと?
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

くも
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

あなたの妻にはなりません

風見ゆうみ
恋愛
幼い頃から大好きだった婚約者のレイズ。 彼が伯爵位を継いだと同時に、わたしと彼は結婚した。 幸せな日々が始まるのだと思っていたのに、夫は仕事で戦場近くの街に行くことになった。 彼が旅立った数日後、わたしの元に届いたのは夫の訃報だった。 悲しみに暮れているわたしに近づいてきたのは、夫の親友のディール様。 彼は夫から自分の身に何かあった時にはわたしのことを頼むと言われていたのだと言う。 あっという間に日にちが過ぎ、ディール様から求婚される。 悩みに悩んだ末に、ディール様と婚約したわたしに、友人と街に出た時にすれ違った男が言った。 「あの男と結婚するのはやめなさい。彼は君の夫の殺害を依頼した男だ」

【完結】彼の瞳に映るのは  

たろ
恋愛
 今夜も彼はわたしをエスコートして夜会へと参加する。  優しく見つめる彼の瞳にはわたしが映っているのに、何故かわたしの心は何も感じない。  そしてファーストダンスを踊ると彼はそっとわたしのそばからいなくなる。  わたしはまた一人で佇む。彼は守るべき存在の元へと行ってしまう。 ★ 短編から長編へ変更しました。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

【完結】誠意を見せることのなかった彼

野村にれ
恋愛
婚約者を愛していた侯爵令嬢。しかし、結婚できないと婚約を白紙にされてしまう。 無気力になってしまった彼女は消えた。 婚約者だった伯爵令息は、新たな愛を見付けたとされるが、それは新たな愛なのか?

ヒロイン不在だから悪役令嬢からお飾りの王妃になるのを決めたのに、誓いの場で登場とか聞いてないのですが!?

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
ヒロインがいない。 もう一度言おう。ヒロインがいない!! 乙女ゲーム《夢見と夜明け前の乙女》のヒロインのキャロル・ガードナーがいないのだ。その結果、王太子ブルーノ・フロレンス・フォード・ゴルウィンとの婚約は継続され、今日私は彼の婚約者から妻になるはずが……。まさかの式の最中に突撃。 ※ざまぁ展開あり

悪役令嬢カテリーナでございます。

くみたろう
恋愛
………………まあ、私、悪役令嬢だわ…… 気付いたのはワインを頭からかけられた時だった。 どうやら私、ゲームの中の悪役令嬢に生まれ変わったらしい。 40歳未婚の喪女だった私は今や立派な公爵令嬢。ただ、痩せすぎて骨ばっている体がチャームポイントなだけ。 ぶつかるだけでアタックをかます強靭な骨の持ち主、それが私。 40歳喪女を舐めてくれては困りますよ? 私は没落などしませんからね。

処理中です...