個性豊かな異世界召喚

第二章 『紅月の下の古城』

４.５.「紅き野望を持つ者」

　紅い月の下、森の奥に位置する古城には人っ子一人の気配もない。誰もいなくなった古城には多くモンスターが住み着いていた。
　その中に自らの求めるものを追いかけ続ける野望を持った魔の眷属もそこに居座っていた。
　この魔の眷属についてくる者も少なからずいた。だが、自分よりも圧倒的に弱い者ばかりだ。弱いからすぐに何もかも奪われる。弱いから強者よりも手に入れるものが少ない。そんな者たちを束ねるのは意外にも苦痛ではない。
　むしろ、昔の自分を思い出してしまい、懐かしく感じる。

「しかし足りぬ」

　足らぬ足らぬわ。
　仲間、人望、地位、これだけ持ってしても未だ手に入れたことのないものがある。
　それは誰もが最終的に追い求める最大の幸せ、『自由』。
　これを手にした者は世界の呪縛から解き放たれ、自らのそのときにしたいことをやれるという特権が手に入る。

　それを手に入れるためには自分の有するすべてのものを利用する。自分以外が何を失おうとも構わない。その者が『自由』を手に入れられなかった弱者だっただけだからだ。
　弱者には何も手に入れられない。強者にすべてを搾取されるのみだ。奪われ続けて何を得ることができる。何もない。

「『自由』は我が手にするべきものだ。我が配下たちよ。我の野望のためにラバン王国へ攻め込むのだ」

「はっ！」

　モンスターたちの雄叫びが夜空に響き渡る。

「さあ、今宵も紅き月の下にて、我を、このバルバトスを楽しませるのだ！」

　紅く光る月の下、この魔の眷属、バルバトスは月と同じ紅い瞳の中に己の野望を映す。