陰謀のブルースカイ

住原かなえ

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「燕さん、音があったのはこの辺りで間違いなさそうですね」

「だな。しかしなんだ?この煙は」
大きく舞い上がった煙と、残り火がその惨状を物語っていた。

「例の侵入者の仕業でしょうか」

「分からん。だが報告によると、捕えたのはあの西角薫だったそうだ」

「あの女が来るとは…確か連れは逃げたんですよね」

「ああ。錦の馬鹿が逃がしやがった」

「しかしこれ…何が爆発したんですかね」
木が大きく曲がり、森に穴を空けた格好だ。これだけの爆発は異常だ。

「問題の火の鳥の仕業か?」

「あの鳥にしては、威力が…」
手を煩わせている火の鳥の被害はよく聞くが、ここまでの現場は見た事が無い。

「おい、なんかここ、変な臭いしないか…?」

「確かにしますね。この煙の臭いとは別に。しかも、こんなに煙が出ているのに、やけに肌寒い」
島は基本ジメジメとした空気に覆われているが、このエリアはやけにひんやりとしている。

「なんだか気味が悪い。さっさと調べちまお…ん?おっとっと…」

「どうしたんです?」

「いや、足元に何かがな。全く…一体何なんだ」

「ちょっと待ってください。これ、人じゃないですか…?」
燕の足元には得体の知れない固形物があったものの、どこかに人の片鱗を残しているようでもあった。

「気持ち悪い事言うなよ。これのどこが…」
燕は、拾いあげて見回したかと思えば、いきなりその塊を落とした。

「これ、腕だぞ…ほぼ跡形は無いが、これは腕だ。しかも、ここまで細分化してちぎれてる」

「動物が、食べに来たんでしょうかね」

「だろうな。だが、こんなに食いちぎるのは只者じゃない。もしかすると、まだ俺達の前に姿を現していない動物かもな」

「怖い事言わないでくださいよ、燕さん。大体、まだ見つかっていない新種だなんて、いる訳ないですって。科学者のデータにも載っていた動物は全て確認済みですよ」

「でもそのベースはB9から持ち出した情報だろ?」

「それはそうですけど…」
古川夏代が焼き払ったビルから、後に島に関する資料を押収に向かった。しかし、いかんせん丸焦げのビルからであって、欠けている部分はあるのかもしれない。

疑念を抱いていると、突如あっと地面が動き、骨のない軟骨だけの体のようにグニャグニャと視界が揺れた。
思わぬ事に体の重心がずれ、転げてしまう。

気がつけば、煙のなかにいた。
辺りは灰世界に包まれ、煙が鼻を刺激する。燕の姿を見失う。

再び、大きな揺れ。

「ぐわああああああああ!」
同時に、断末魔のような叫び声。燕だ。燕さん、と呼び掛けようとしたが、煙で上手く声にならない。

煙の中でも、異様な臭いは続いていた。煙とせめぎ合うように、臭いがあった。

本当に不気味だ。ここにいてはいけない、と全身の本能が囁き合う。

キーンという嫌な音が耳を貫く。
煙とは違う、背後からのゆるりとした風が、背中を撫でる。

猛烈な気配が伝わってくる。背後には、間違いなく何かがいる。

その“何か”に突き動かされるように、顔をゆったりと後ろに向けようとする。

視界に入ってきたのは、長いくねりとした胴体。波打つように体が揺れている。
遥か上についた大きな目が、こちらを向いていた。

思わず腰が抜け、尻餅をつく。


これは…
神話上の、怪物…

目の前の怪物が、目線を外さずウルル、と小さく鳴く。

怪物は大きく息を吸った。


そして、天地を逆転させんばかりの強烈な咆哮を、吐いた。


「ぎぃやあああああああああああ!」
悲鳴が、また一つ、森に木霊した。
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